PFCS SS劇場!

パラレルファクター カルティベイトサーバーのSSをまとめるブログです。主にツイッターでのやり取りを纏めます!

地獄の中の騎士

「カリソンさん、今日もお手合わせ願えますか?」


 無邪気に笑う殿下は、我々聖騎士団においても要となりえる存在だ。このように幼い顔を見せて、その上華奢な体つきで、女性でも振るえるような細く短い剣を使いながらも、豪腕で知られる俺やサクリス卿の剣をいとも容易く捌ききる。包み隠さず白状すれば、我々聖騎士団はこのお方に手加減をされることが我慢ならなかった。
 腕自慢の集まりが、なぜ子供などに翻弄される。納得いくはずもない。もしも殿下が王族でなければ、憤慨するは必然だったろう。


「御意に。ショコラ殿下」


 俺は貴族として当然の誇りがある。主君には仕えるが正義を感じなければ迷うことなく反逆するだろう。俺の剣が従う者は人ではなく正義だ。故に、赤髪の卑劣な蛮勇などにいつまでも従う気は無かった。
 だが、謀反を起こす事は難しい。その理由が目の前にある。この時代は、ある意味力こそが正義だ。認めたくは無いが、最も強き騎士はショコラ殿下をおいて他にない。まだ年端もいかぬその若さで、この百戦錬磨の聖騎士団を何故こうも翻弄できる。
 考えなしに突撃するは我が兵法、しかしこのお方にだけはそれは通用しないのだ。


「カリソンさん、ひとつお尋ねしても良いですか?」


「は。なんなりと」


 その日、殿下は俺に問う。敵に騎士たる精神はあるのか、と。俺はその問いに、自らの意を答えた。


「騎士道を持たぬ者が戦地に赴くとすれば、その者にはこの世が地獄に思えましょう。運命に逆らうが故に剣を取る。死を前にしたのなら、騎士でなくとも戦いを選ぶ。このカリソンが信ずる騎士道とは、そのような地獄の亡者を産み出さぬよう、民に代わって死に逝く者共を制圧する、殺戮の代行者の精神でございます、殿下」


 その回答に殿下は、変わらぬいつもの表情で……そう、すなわち笑顔でお答えくださった。


「そうですか」


 その時、俺の感じた殿下の視線は、俺ではなく民に向けたものだと直感した。何故、殿下はそのようなことを聞いたのか。何故、俺の問いを笑顔で受け止めたのか、俺にはわからなかったのだ。
 俺は、殿下の思想と対照的であると、常日頃感じていた。向かってくる者は誰であれねじ伏せる、恐怖を敵国に植え付ける、執念の騎士と呼ばれるこの俺の思想だ。いかに自分が傷つこうとも、万人に救いの手を差し伸べる優しき殿下には、俺の考えなど理解できまいと、そう勝手に盲信していた。


 ただ、殿下のあの視線が持つ感情は、怒りでも蔑みでも、失望でも無いと俺は感じた。
 そうだ。あれはまるで……
 
 今更どんな感情で人を斬るべきなのか悩んでいるような、そんな目をしていた。


 誰よりも強くあり、誰からも愛されるべき心を持った、あまりに理想的な存在が、何故我らのような手を汚した者共の騎士道を見定めているのか。

 いずれにせよ、俺はその日に理解した。
 殿下は恐らく、我々聖騎士団と違い───

 


 ───たった一人、地獄の中で戦い続けているのだと。