PFCS SS劇場!

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封印された日

 かつてのドレスタニアは暴虐の王によって一度、煉獄の地へと変貌した。文字通り焼き払われた瓦礫の中で一人、膝から倒れた彼の王は、終わらない怨嗟の日々を根源から断ち切る代償としてこの地を生け贄に捧げる決断をしたのである。
 国民は一時的に故郷へと返し、出身がドレスタニアである者達はシルフィールに避難させるも、その詳細は家臣にすら知らされることはなかった。
 孤独のまま死に逝く運命によって呪われた『紅い血』は尽きる。独断の決行は、死後に国民が忌むべき存在がこの血であったということを知らしめる為の布石。悪政を敷いた血族であるにも関わらず国民に愛されていた弟であれば、後の世に恨まれることはないだろうと、出来ることならばこの名に縛られず生きてほしいと最期に祈る。
 騎士団長ショコラ。氷のように冷徹でいて、炎のように暖かいと言われたドレスタニアの聖騎士。戦場においての評価はいかに相手の首をとったかで決まるが、彼の戦果は騎士団最多の出撃回数に反しゼロ人。仕留めることなく戦意を喪失させるという剣の腕前は、疑う者もいない程、人間離れしているものだった。
 戦場に出ること幾星霜、実践で得た彼の優れた観察眼は、王である兄の考えを透視するまでに至る。まるで予知にも似たその力をもって、この日を既に見据えていたのである。そして彼は情報を集め続け、兄よりも早く、この地の異変の答えに辿り着いてしまった。
 一時、ショコラはこの世界から消えていたことがある。誰もが知るドレスタニアの記念公園、その中央にある噴水の流れる水路の先、手順を踏まなければまず気づくことの無い、文明に反する仕掛けの先に、遥か過去より隠された場所がある。否、そこはドレスタニアではなく、まるで産まれたばかりの異界の空間。見渡す限りの青い空は、ガラスの世界のような閉塞感が胸を苦しめる。
 何者かの手によって作られた世界を、何者かが閉じ込めている。きっと時間ごと止まっている。その世界は、何かを隠すように、決して見つからないように、幾重にも仕掛けを施して、巻かれたゼンマイを閉め続けていた。そのような世界に、ショコラは辿り着いてしまったのである。
 ドレスタニアの呪われた血とは、恐らくこの封印された世界のものだ。そしてその力は、やがて厄災をもたらす。故に、こうして封印されているのだろう。その鍵と一目でわかるように、丘の先に刺さっている一本の剣。これを抜けばドレスタニアは呪われる。そしてその呪いは、この剣でしか対抗し得ないものだとショコラは理解した。きっとこの剣は、何年も、何千年も、この世界を守り続けたのだろう。そして、これからも守るのだろう。ならばこれは抜くわけにはいかない。そう考えることが当然だった。


 だが、もしもこの封印しているものが、何千年もの時をかけて『別の手段』を手にいれていたら……。
 ショコラは兄、そして父の研究を思い出していた。妖怪という種の謎と、異質な進化形態。そして産まれた、新たな災厄。兄が命をかけて焼き払わんとしている、『呪詛』の存在。すべてを喰らう者。もしもそれが、この剣の封印している何かに通じているのならば、ショコラは剣をとらねばならない。厄災は、この剣でしか倒せないのだから。
 抜いてしまえばこの世界は再び何者かに脅かされるかも知れない。一度溢れた呪いは、再び封印することは難しいだろう。封印されるとわかっている者達が、対策をとらないわけがない。


 それでも、ショコラは抜いた。それは、かけがえのない家族の為でもあり、世界中、全ての人々の為でもあった。


 そこから先に何があったのかは、ショコラにもわからない。剣を抜いた代償に、自分が虚空と化していることが実感として感じ取れる。辺りを見回すと、黒い泥のようなもので世界が汚染されていた。目の前に現れ、突然飛びかかってきた幾何学的な何かに驚き、手にした剣で切り裂くと、泥となって飛び散った。
 あぁ、この黒いものは、肉片なのだ。この世界を染めたのは、自分なのだと理解するのに時間はかからなかった。よみがえってくる客観的な記憶。汗一つかかず、表情を変えず、しかし怯えながら無我夢中で魍魎を斬り続ける自分自身。止まった時の中で、体感としておよそ何ヵ月かの間、この世界に溢れる呪いを斬り続けていたのだ。
 意思など持ち合わせていないであろうその呪い達は、ただゼンマイが動き出しただけで、自動的に襲いかかってきたのだろう。この剣を丘に突き立てた者を止めるために。
 空にはヒビが入り、隙間から黒い空が覗く。あそこからこの世界を染めていくのだろう。封印は解かれた。これからは侵食されないように努めなければならない。きっと、その為の自己破壊なのだ。


 丘から戻ったドレスタニアは、炎で紅く染まっていた。煉獄の炎が燃やすのは、黒い泥達である。一つ一つの種火を切り払い、消していく中に大きな火柱が上がる。
 そこに居たのは厄災の呪いを身体に受け、外に出すまいと己を焼く兄の姿であった。


「ただいま戻りました、お兄様」


出るはずの涙も凍てついたショコラは、誰にも知られる事なく、孤独にこの日の出来事を封印したのである。