PFCS SS劇場!

パラレルファクター カルティベイトサーバーのSSをまとめるブログです。主にツイッターでのやり取りを纏めます!

毎日がハロウィン

 起きてから朝一番に向かう場所は、決まってこの大きなエントランス。左右にねじれた階段があり、二階には東と西の別棟につながる通路が二つ。昔はこのお城にも使用人などが多くいたらしい形跡があるにはあり、メルバ様と僕しか食事はとらないのに食器の数はまるでホテル付きレストランのようだった。
 とても冷たい大広間の床に、メルバ様は素足で歩く。もうそろそろ肌寒さがそれどころじゃなくなるこの季節、だというのに薄着のまま歩き回るし冷たいデザートまで美味しそうに食べる。見てるこっちがぶるぶる震えそうになるけれど、外見とはちがってメルバ様の笑顔はいっつもあったかい。メルバ様が居なければきっと、僕もこのお城から逃げ出していたかもしれないくらい。
 
 鬼ちゃんが怖いかどうかで言ったら、正直に答えるとすごく怖かった。闇の中で会った時は有無を言わさず噛みつかれ、そのくせ突然動かなくなっちゃうし、そもそも僕は普通の人間で、今までもできるだけ種族の鬼からは避けて暮らしていた。それは多分僕だけのことじゃなくて、やっぱり鬼は怖いって認識はこの国にはあった。
 でも、そんな鬼ちゃんに逆らわずにお城に来てみると、もっともっと怖い主人が待ち構えていた。目は死んでいるし、髪は血の色のように紅かった。かつて、暴虐の王と言われたガーナ陛下よりも禍々しい、黒ずんだ紅の髪。おまけに、鉄のような匂いも微かにする。血を連想せずにはいられない。
 そんな男爵は、僕を見るなり『感謝する』と言って鬼ちゃんを部屋の奥に連れて行った。その時の鬼ちゃんの顔がとても悔しそうで、いらだちよりも悲しみを感じて、とてもとても心配になった。
 首元の噛み傷を消毒し、包帯を巻いてくれたメルバ様は僕を部屋に案内した。そこはただの客間だったけれど、なんだかずっと住めって言わんばかりに着替えとかシャワーの使い方とか、いくつもいくつも教えてくれた。実際、今までお世話になった宿なんて目じゃないくらい気持ちよくて、情けないほどすやすや寝てしまった
 朝起きると食事まで作ってくださって、唐突に出かける準備をすると言った。宿泊代やご飯のお礼のことを切り出す前に、機嫌の悪そうな鬼ちゃんが僕の首をつかんで、あれをしろ、これをしろって命令してきた。抗議しようにも一泊の恩があるし、振り向けばとっくにメルバ様は出発していたのでもう、どうにでもなれって思って言われるがまま手伝った。
 
 着替えを手伝えって言われたとき、僕は男だし流石にびっくりしたし、駄目だと思ったから断った。けど、食器を片付けに行こうとした僕の後ろで、ばたん、と音がした。見ると、鬼ちゃんが転んでいて、すぐ立ち上がろうとして再度ころんだ。
 僕はきっと、よくわからないけど鬼ちゃんは一人で生活することができない身体なんだって、その時わかった。そしてそれは、本人には聞いてはいけないことだとも思えた。結局、僕は鬼ちゃんの着替えを手伝ったんだけど、恥ずかしいとか、そんなこと言ってられないくらい大変だった。身体が動かないって、こんなにどうしようもないものなんだって、初めて知った。
 
 そして結局、僕はこのお城にずっと留まり続けていて、こうして習慣まで生まれ始めてきている。
 
 今日はハロウィン。普段なら、仮装した子供たちが種族とかも関係なくはしゃいで遊び、町に活気が生まれる日。前までは、僕も子供にお菓子をあげるのが好きで、よくお祭りのお手伝いなんかをしたっけ。でも、今年のハロウィンは残念だけどおあずけだ。独りお城にいる吸血鬼ちゃんと一緒に過ごす、いつもと変わらない一日が待ってる。メルバ様なら『逆に考えましょう』って言って、毎日がハロウィンなんだって力説するかもしれないけれど。
 
 トリックオアトリート。もしも鬼ちゃんにそう言われたら、おやつの僕は血を吸われるのかな。それとも、いたずらされるのかな。どちらにしても、いつもと全くかわらないじゃないか。それなら、やっぱりこのお城は毎日がハロウィンだ。ハロウィンが大好きな僕は、このお城も大好きなのかもしれない。
 
 だから今日も、元気にいたずらされに行こう。