PFCS SS劇場!

パラレルファクター カルティベイトサーバーのSSをまとめるブログです。主にツイッターでのやり取りを纏めます!

手放したくない

 おやつのことを考えていた。

 

 ウチが無理矢理血を吸って、そのまま勝手に拾ってきた人間。名前も知らなければ年齢も知らない人間。……なんの力も秀でた能力もない、ただごく普通の人間だった。
 おやつはウチに何も聞いてこない。男爵のやつからも何も聞かない。名前も、歳も、家も聞かない。こんな身体のウチのことも聞かないし、この前のウチの暴走のことも、結局あれから聞いてこない。その上、何も気味悪がった素振りも見せないし、困ったような顔も滅多にしない。
 頼み事でも命令でも何でもアイツは断らない。きっと聞けば教えてくれると思うけれど、ウチはおやつを知ることがとても怖い。知れば知るだけ、おやつはウチと身近な存在に変わっていく。屍人なんてものと身近だなんて、それは相手にとってどれほど不幸なことなんだろう。だからウチはアイツの何にも知りたくない。

 それでも、こうしてアイツが寝るときだけは、アイツの事を考えてしまう。
 そもそもおやつは何故、あれだけの『穢れ』を身体に含ませていたのだろう。蛇の持つ毒程度で全身が硬直する程の『穢れ』にはならないと、男爵のやつが言っていた。あれほどのものが身に降りかかっていたのなら、おやつは即死していてもおかしくなかった。それほど、あり得ない『穢れ』なのだとさ。
 ウチにはわかる。わかってしまう。おやつのやさしさ、親切心、思いやりの心、そして自己犠牲を選ぶ思考回路。おやつは多分、ウチと出会う前に誰かに唆されていたのだと思う。そういうやつだから。

 おやつはあの日、あの場所で死ぬつもりでいたらしい。気付けばなんだかそういう気持ちになっていた、と言っていた。その理由も『穢れ』と共に消えていき、いつの間にか死ぬ気もなくなっていたそうだ。もう少しで本当に死んでいたかもしれないのに、おやつはそのことを気にも留めていない。おやつを殺すつもりで騙した奴が見つかったとしても、多分気にしないのだろう。

 ……やっぱり、アイツはどこか壊れているんじゃないか。ウチと会う前に、誰かに都合よく壊されてしまっているんじゃないか。一体誰に……何のためにそんなことをされたのだろうか……。
 今思えば精霊のもやしも、ウチと会う前からもう壊れていた。壊れていたから見捨てられなかった。やがてそれはもやしから離れたくないというウチのわがままに変わっていき、ウチはもやしの最後の決断を引き留めてしまった。

 その結果、もやしはウチに縛られて、不幸のままに死んでしまった。

 考えれば考えるほど、どうでもいいと思っていたただの人間を、名も歳も何も知らない男の子を、また手放したくないと思ってしまう自分がいる。
 もやしの時と同じ過ちを繰り返したくないから、何も知らない男を選んだのに、何も知らないようにしていたのに、アイツがウチを大事にするから、ウチはアイツを引き留めたいと思ってしまう。

 おやつもいつかウチから離れたいと思うはずだ。屍人なんかの傍にいても、人としての幸せは得られない。不幸に感じる位なら、おやつはいつかここを出て行った方がいい。


 でも、その時になってウチがおやつを手放せなくなったら、どうすればいいんだ。
 今はただただ、それだけが怖い……。