PFCS SS劇場!

パラレルファクター カルティベイトサーバーのSSをまとめるブログです。主にツイッターでのやり取りを纏めます!

余ではない

「入るわよ、サン」


 ドア越しに反響するノック音と、弾むようで愛らしい声が響く。この薄暗い城の地下、元はベルモット家の人間が戦時、籠城する為に作られたという身を隠すためだけの生気の感じない空間。椅子と机、引き出しのついた大きな書棚。薄く張られ、上から塗装されたこの書棚裏の壁は、万が一の際に崖下の河に繋がる洞窟への階段が用意されている。
 余はあの日偶然にも、人の通れる筈もない水の中を潜ってこの洞窟に逃げ込んだ。誰から逃げたか、無論、それは『自分から』であった。


 硬く、厚い扉がゆっくりと開く。


「ちょっと開けてよ……!全くもう……よくこんなドアを蹴破ったものね、あの子ったら……」


「……メルバ」


 確かに、普通の民家のドアに比べればこのドアは多少は重い。しかし余が住み着くにあたり、本来の重厚で不自由なドアは開きやすく軽いものに取り替えていた。ドアそのものの重みではなく、現在のメルバの体調の問題である。
 それは、当然のことであった。


「……無理は祟るであろう。そなたの身体は休息を必要としている」


「不要な心配よ。多少の血を抜かれたくらいで今さら倒れるほど、アルビダという種族の精神力は弱くないわ。その分、肉体的には虚弱ですけどね」


 昨日、あの鬼の娘が『発作』を起こした。穢れによる血の劣化から行動にムラがあったが、循環する方法はまだ知らない子である。故に、あのまま放任していても三日は発作が起きないものと予測していた。
 しかし、予期せぬ事態が起きたのだ。娘の世話を焼いていたあの少年が、事情を知らないが故に屍人の本能を呼び覚ました。
 我ら、作られし者共が己が内に埋め込まれた愚者の楔。血を求めるという渇望、すなわち『死を免れる為』の執着という本能。意思などといった不要なものを一時的に束縛し、全ては『復旧作業』のみに集中して身体を自動化させていく。
 未熟な後天種であろうとも、この支配からは逃れることはできない。なぜなら、その『血』は余の一部であるのだから。あの娘の意思を、余が握り潰しているのである。


 メルバの精神の強靭さは、確かに他を凌駕する。種族という補正値に加え、血統とも言える当主としての自覚が意志を補強する。それは曰く、支配力の賜物であるとメルバは語る。
 呪詛の本質は己の宿命の一つとして忌々しく寄生する、生まれながらに刻まれた不幸の刻印である。我々屍人との相違点は、その刻印を『意図的に組み込まれているか否か』である。屍人は、他者の手によりある特定の者にのみ有益になるため仕組まれた呪縛と言える。妖怪が『刻印』ならば、我々は『首輪』のようなものだ。
 精神の強さでは、思考の余地もなく妖怪……いや、『後天種』の方が余よりも上だろう。その証拠に、あの娘は本能による『発作』を『暴走』と定義した。あの娘にとって、今回の出来事は己の失態であると、そう考えているのだ。


 余は、この発作を己の責であると受け入れた事がない。
 この身体、この力、この制約、この不条理、全てが我ら屍人を産み出した者の私欲の為であるならば、それが持つ驚異も、引き起こす災厄も、背負うべき業も、それは彼らの者であろう。
 余が産まれた理由、存在する理由は、余ではない何者かの手の中にあるのだから。
 しかし、こうしてメルバより自由を授かった今であるならば、余の新たなる願いはただ一つだけ。即ち、己が宿命の奪還である。


 我が身、我が血、我が存在が産み起こす、業も、罪も、罰も、例外なく余の『意思』であるならば、無論、その責を背負うべき存在は……


「……余である」


「いや、何突然……ただでさえ不気味なんだから、変なこと言わないで頂戴」


「……うん……」