PFCS SS劇場!

パラレルファクター カルティベイトサーバーのSSをまとめるブログです。主にツイッターでのやり取りを纏めます!

殺めていない。

 ……この身体になって以来、初めての暴走だった。意思と関係なく魂みたいなのが、まるで別の何かみたいに潤いだけを渇望した。ウチが血を動かしたのではなくて、血がウチを利用していた。その感覚はこの身体が器としての役割しかなく、もう、ウチに自由なんてないことを示唆していた。
 前の暴走と、今回の暴走は全然別物だった。何せあのときは守るものなんて一つもなかったからだ。今は、大切にしたいものが側にある。壊さないように、居なくならないように、慎重にやってきたつもりだ。
 ウチは危うく、その宝物を自分で壊すところだった。


「……なぁ」


 ウチの腕に包帯を巻く男爵が、いつもの苦しそうな顔のままにそこにいた。……この身体は一瞬で傷なんて治る。直る、か。なのに、なぜこいつは包帯を巻くのかわからなかった。


「余である」


「わかってるよ、んなことは」


 いつも通りの府抜けた態度が、事の重大さを薄れさせる。あんなことになったのに、こいつも夫人もけろっとしているのが、とても苛立つ。
 ……苛立ちで、徐々に悲しみも減っていく。


「お前さ。暴走したことあるか?」


「……うん」


 わかりきった質問を、馬鹿正直に返してくる。大概、こいつも結局馬鹿野郎なんだろうな。だけど、ウチは今、こいつのことはそれしか知らない。この城の住人は、ウチのことも何も聞かないし、自分達の事も話さない。でも、質問に答えなかったことはない。
 結局、大事なことは自分で見つけろってことなんだろうな。だから私も、普段は何も聞かないんだ。


「……もう少しで壊しちまうとこだった」


 ぼそっと、独り言のつもりでそう呟いた。男爵は包帯を巻き終わると器用に折り込み、ウチの指先をひとつひとつ揉み解しながら言った。


「……彼らはまだ、生きている」


「…………『殺し』ちまうとこだった」


「そうだ」


 こいつは、こういう細かいところをいつもいつも気にしやがる。ウチは、『殺す』って言葉を使いたくなかったから、壊すって言ったんだ。……だけどこいつは、そうやってウチが逃げることを許さない。
 心がズキズキと痛くなる。同時に、沸き起こる罪悪感。暴走でおやつを殺すところだったウチの、果てしない後悔。それでもこの身体は、涙ひとつ流せない。


「……おやつは死んでも殺したくない」


「……」


「…………壊れても」


 男爵は眉を潜めて、目を合わせないようにウチの顔を見た。よそよそしい態度は出会ったときから変わらない。なんとなく、失礼であることをこの馬鹿はきっと知らないのだろう。


「そなたは未だ誰も殺めてなどいないではないか」


 言葉を考え、選んだ上で、言いにくそうに絞り出すような声だった。……ウチは、まだ誰も殺していない。現実主義者で、空気の読めない馬鹿男爵が言う一言だからこそ、真実味を帯びている言葉。

 

 ……ウチはまだ、誰も殺していない。

 

その言葉を、ウチを殺した張本人が口にするのは、酷く苦しい筈だった。