PFCS SS劇場!

パラレルファクター カルティベイトサーバーのSSをまとめるブログです。主にツイッターでのやり取りを纏めます!

お城の不思議

「メルバ様……」

 

 毎日自然と行われる、朝の食事の時間。僕が起きるころにはメルバ様はもうとっくに起きていて、僕が起きたことを確認するとすぐ朝ごはんの支度をする。その流れがあまりにも自然で、心地よく、何も知らないのについ従ってしまう。
 食事中の会話は無い。ナイフとフォークがお皿に触れる、上品な音が部屋に響く。少しだけ息苦しいとは思うけれど、この優雅さは心が安らぐ。静かな食事を心がけようと、僕は次第にテーブルマナーに慣れてきていた。
 それでも、その貴重な時間を割いてでも、聞かなくてはならないことがあった。

 

「鬼ちゃんのこと?」

 

 そして、メルバ様は落ち着いたまま言い当てる。優雅な食事は形式を崩すこともなく、僕はこの時、心がとても穏やかになった。

 

「あの……」

 

 メルバ様は、なんでも教えてあげる、という顔を僕に向けて、ほほ笑んだ。僕は未だに何も知らない。みんなも、僕に知らせようとしない。でもそれは隠しているのではなくて、拒むことも、押し付けることもなく、ただただここに自由を作ってくれていた。
 僕がここから居なくなっても、みんなは僕の事をきっと追わない。その上でまた戻ってきても、きっと拒まないんだろう。

 

「なんでもありません……」

 

 僕は聞こうと思っていたことを聞くのをやめた。言えなかったわけじゃない。言わなくてもいいって今思った。だって、僕が知りたいのは鬼ちゃんのことだ。でも、みんなは僕のことも聞かないし、気にしていない。だから僕も、やっぱり鬼ちゃんが何で、どういう秘密があるのかを気にしない。知りたいけれど、聞くものじゃないって思った。

 

「そう」

 

 優しく微笑むメルバ様は、本当に不思議だった。貴族、というものを僕は今まで知らなかったけれど、その精神はとっても憧れる。優しくて、美しくて、気持ちがいい。僕もそうなりたいって思うほど、メルバ様は高貴だった。

 

「モーニングの残りを盛り付けてくるわ。おやつ君、ひとつお願いしてもいいかしら」

 

「え……?は、はい……なんでしょう」

 

 メルバ様が初めて僕に頼みごとをした。びっくりして声が裏返ってしまい、つい赤くなってしまったけれど、メルバ様は気にする様子も見せずに席を立った。

 

「昨晩ごたごたしたし、ちょっと貧血気味なの。代わりに森の動物たちにもごはん、あげてきてくれる?」

 

「!は、はい……その……ごめんなさい……」

 

 断れるはずもない。そのメルバ様の貧血は僕の軽率な行動が引き金だったのだから。そのことをメルバ様も、男爵様も、鬼ちゃんすらも叱らない。だからちょっと辛かった。
 メルバ様は多少の具合の悪さがあっても、必要なことはすべて自分でやるお方だ。だからこれは、今罪悪感を抱えている僕の気持ちを和らげようとする配慮だろう。その気遣いが、本当にうれしかった。

 

「おやつ君」

 

 食器を片付けようとする僕を、その一言が止めた。穏やかな顔、穏やかな声、優しいトーンで語り掛けるけれど、しかし重要なことをいう時の顔だった。

 

「森に来る子に、声をかけちゃ駄目よ」

 

 そういうと、僕の手から食器をとって、そのまま食堂へと向かった。その意味がやっぱり僕にはわからなかったけれど、僕は鬼ちゃんの事を少し思い出していた。


***


 毎朝メルバ様が食事を運んでいることは知っていた。けれど、これはちょっと予想外に量が多い。食器を移動させるあのワゴンを使うほどだ。こんなの、奮発して利用したドレスタニアの大きな宿でしか見たことない。なんだかちょっとだけ楽しい気持ちになったけれど、同時に色々と疑問も増えてしまった。
 まず、昨日の残りのローストうさぽんが四つ。ほとんど丸々といった大きさだ。一つが四人で食べるサイズなのだから、すでにこれだけで16人前。マッシュポテトは確かタマネギが入っていたけれど、このボールにはタマネギが見当たらない。ミルクは、なんとミルクポット入りなのだけれども、注がずにこのまま置いてきて、との言伝だ。
 ……僕の勝手な想像だけれど、これは狼だけじゃないのではないか。よくよく思い返してみると、「森に来る子」が「狼」だなんてメルバ様は言っていなかった。
 また、気になるけれど教えられない謎が増えてしまった。

 この城は森と崖をまたいだ橋の先にある。野生動物たちは極力この橋を渡らない為、お城には鳥くらいしかやってこない。そしてこの食事はその橋の先にある、一際太い木の下においてあげている。僕より小さくて華奢なメルバ様が自分で持ってくる場所なのだから、きっと襲われる心配はないだろう。
 昨日置いたであろう食器は、動物たちが食べた後らしく、とても荒々しい散らかりを見せていた。食器が割れていないのが不思議なほどの乱雑さだ。でも、よく見ると一人分ほど、きれいに端に寄せられた食器もある。僕は空いているスペースに食事を置いて、空いた食器をカートに乗せた。
 それにしても、本当に狼なんているのかどうか。いつにもまして静かで、物音ひとつしない。こんな静寂な場所だと、なんだかあまりにも不自然で……


 ふと、背筋が冷えた。物音ひとつしない……?静寂……?僕は、その違和感に気付いてしまった。そうだ、この木の周り、「静かすぎる」んじゃないだろうか。恐る恐る周りを見渡すと、霧のおかげで遠くまでは見えない。

 でも、一瞬、何かがきらりと光った。

 気付いた瞬間、猛烈な気配とともに獣の唸り声が聞こえてくる。それも、一つではなく、あらゆる方向からいくつも。
 間違いない、僕は今囲まれている。空腹で、獲物を前にした獣たちに。僕は、昨日の鬼ちゃんの、あの声を思い出してしまった。


「う、うわぁ!!」


 一目散に逃げようと後ろを振り向き、走った瞬間に視界が何かで遮られた。慣性のついてしまった身体ではよけられず、僕はその何かに思いっきり体当たりをしてしまった。

 

「ギャン!!」

 

 やわらかい感触とともに何かが跳ね返る。頭から突っ込んでしまった僕はそのままその何かに覆いかぶさるように倒れた。
 恐る恐る目を開いてみると、目の前に……女の子のような子がいた。

 

「!!!!」

 

 その子は目が合うなり、まるで動物のようにわたわたと暴れだし、すごく身軽に僕をよけて森の奥へと走っていった。つられるように狼たちも一斉に森の奥へ姿を隠し、その隙に僕は急いでその場を去った。


***


 お城に戻ると、葉っぱだらけの僕を見てメルバ様はちょっとだけおかしそうに笑った。しかし、僕はまた死にかけたのだから笑い事じゃない、と顔をむくらせると、メルバ様は、ごめんごめんと僕の頭をぽんぽんたたいた。

 

「あの子達、いつもあぁやって警戒するのよ。彼らなりの線引きなのね。野生であることを忘れないように、私が『与えた』のではなくて、『奪った』って形にしたいみたい。でも、ちゃんと綺麗に全部食べてくれるし、襲うこともないのよ」

 

 僕が驚く顔が見たくて、と心の底から楽しそうにメルバ様はほほ笑んだ。とても優しい方なんだけど、たまにこういうところがあって、僕はそれがちょっと苦手だ。いつもメルバ様には脅かされてばかりで、なんだか男として悔しい。

 

「あの……実は……」

 

 さっきの子の事を聞いてみようと思った。狼の中に一人居た、女の子。背は僕と同じくらいだったけれど、どこか変わっていて……そう、動物のような耳と鼻があったような。ともかく、まともな人ではなくて……

 

「女の子のこと?」

 

 ……またもメルバ様は、僕の聞きたいことを先に言い当てる。僕はこの人に隠し事はできないなと思った。そもそも、どうしてかメルバ様は僕が聞くまで何も教えてくれないのだし、もしかしたら聞いてほしいのかもしれない。

 でも、なんだかさっきの事が悔しくて……

 

「なんでもありません……」

 

 気付いたら、また胡麻化してしまった。

 

「そう」

 

 そんな僕を見ながらメルバ様は案の定優しく微笑んで、僕の手からワゴンをそっと奪い、上機嫌のまま食堂に向かった。

 あの子の顔が思い浮かぶ。不思議な特徴のある変わった子。鬼ちゃんと同じくらい謎めいていて、結局何もわからない子。
 このお城にはそういう不思議がいっぱいあって、その中にきっと僕もいる。何もしらなくて、でも何も聞きたいと思わない。なんていうか、やっぱり聞くよりも自分で知りたいと思ったし、メルバ様もきっとそれでいいと思っている。

 

 僕はこの謎めいたお城が、やっぱりとっても大好きだ。