PFCS SS劇場!

パラレルファクター カルティベイトサーバーのSSをまとめるブログです。主にツイッターでのやり取りを纏めます!

アイス珈琲

 商店街の長い坂道を上がると喫茶店があった。


 人混み溢れる賑やかなこの一本道に、静かで落ち着いた気持ちの良いスペースがあるのは嬉しい。客がいなければ店も常に綺麗で清潔だし、珈琲一杯で10時間は粘ることもできる。私にはこういうお店が好みだ。


 氷がカランと音をたてる。気がつけば珈琲の飲み口に透明な層が出来ていた。綺麗なグラデーションがかかる。あまり濃いのは好きじゃないから、今が丁度飲みごろだ。ストローで一、二、三とかき混ぜる。紅色の水は窓から差し込む日の光で美しく輝いた。


 今書いているのは、男女の恋愛の話。恋愛下手な男の子が、幼馴染みの女の子に紹介してもらった他校の子を好きになり、良い関係になっていく。交際していくうちに男の子が成長して良い男になっていくのだけれど、幼馴染みはそれを素直に喜べない。ダメダメだった男の子が好きだったことに今さら気づいてしまうのだ。


 話はもう佳境に入っている。このままプロット通りに作っても良いだろうけれど、物書きとしてはどうにも納得がいかない。ここが悩みどころだ。


 不思議なことに、自分が『良い』と思うアドリブを入れると、小説自体のクオリティが上がるのに、読者が減る。しかしプロット通りに仕上げれば思ったよりも陳腐になるくせに、読者のウケはとても良い。趣味で書く文ならば好きなように変えるのだけれど、この作品は投稿用だ。恋愛小説なんて軟派な話は、ハードボイルドを好む私には苦手分野。けれどそれでもここまで書けば愛着湧いても仕方がない。


 この話の主人公は男の子なのだけれど、最後の最後には幼馴染みの視点に変わる。読者には幼馴染みを一時的に忘れてもらうよう、立ち回りを意識してなるべく描写を減らしてきた。男の子が困った時などにラッキーな出来事が沢山起きるのだけれど、その運の良さは幼馴染みの手助けによるものだったと描写して、プロット通りにいけばなんやかんやあって男の子は幼馴染みと結ばれるのだ。


 それがわかりきった展開だからこそ、私としては幼馴染みに不幸になって貰いたいと思ってしまう。努力実らず、男の子は別の子と結ばれ、幼馴染みは独りぼっちになる展開にしたいな、と。それがリアリティだし、それが正しい流れだから。


 男の子は事あるごとに幼馴染みを頼ってきて、頭も良く容姿も良いこの子は、頼られることに充実感を抱いていた。何でも出来るからこそ尊敬されていた。そして、男の子は幼馴染みにいつも感謝していた。時が経てば経つほど幼馴染みの色は薄くなり、カランと音がたって気づいてみれば、このアイス珈琲のように魅力が落ちている。


 そんな幼馴染みが、私は好きになってしまった。


 味が濃く、美味しかった頃の幼馴染みには特に注目する事は無かった。なにもしなくても美味しいし、ガムシロップやミルクがあった。でも、作者の私はこの子にあえて味付けをせず、ただ薄くなるのを待った。そして、私の中で『カラン』と音がたったとき、この子は私の中で完成した。


 飲みごろの魅力的な幼馴染みを、再び味付けしなくてはならないのが嫌で、頭を悩ませる。作家の卵としての意志を尊重すべきか、読者の為を思ってこのまま当初の予定通り進めるべきか。この選択に頭を悩ませない作家は殆どいないだろう。読者と作家は、相容れるものではないのだから。


 私はアイス珈琲にやっと手を伸ばした。汗を拭うように、一気にそれを飲み干した。集中しすぎて乾いた喉を一気に潤すように、味わうことなく飲み干してしまった。


 そう、読者はきっとこのこだわりを気にせず飲み干すだけだろう。それが結局真理。どうせあまり気にされないなら、書き手は書くことを好きに楽しめばいい。


 長い執筆が終わってから、私はホットココアを頼むことにした。