PFCS SS劇場!

パラレルファクター カルティベイトサーバーのSSをまとめるブログです。主にツイッターでのやり取りを纏めます!

Curse of Misfortunes

 きっかけはほんの少しの好奇心だった。


 私はあのとき、ひとときの間でも愛し続けてくれていた母親ではなく、仕事にかまけてばかりで口も殆どきかない父親の手を握った。私には、選べるチャンスがあったから。

 

 それが、母との別れになるなんて知っていたら結果は変わっていたと思う。だからきっと、母は『あえて』沈黙を選んだのだ。


 そして私も、父を選んだ。


 母は優しかった。この上なく大好きだった。母も私が好きだった筈だ。嘘偽りなく、私たちは愛で繋がっていた。父が殆ど構ってくれない分、母は私に二人分の愛をくれていたのだろう。

 

 母は、同時に父の事も愛していた。父も、母をきっと愛していないわけではないと思う。

 


 私が父を選んだ理由。それは、謎が多い父をもっと知りたかったから。

 

 それに、私といるとみんな不幸になるらしい。母を不幸にしたくはなかった。


 それからの父との生活は、とても質素で淡白だった。食事や会話は最低限といった風で、私も結局一人で過ごすことが多かった。

 

 私は本や絵を繰り返しみて、寂しさを乗り越えようとした。


 物語の主人公は、騎士は、王子さまは、いったいどんな気持ちなのかと妄想に耽った。毎夜毎夜と空想に語りかけた。その度に、素敵な登場人物に惚れ込んだ。

 

 私はやがて、キャラクターの思考をリアリティーをもって考えられるようになってきた。


 あるとき、ふと、思った。父は何を考えているのだろう。私は気になり、父の部屋に初めて入った。


 そこには沢山の形のランプが山のようにおかれていた。

 

 綺麗だと、思った。寝息をたてる父の顔は、まるで世界を救いたいとはしゃぐ少年のようだ。

 

 父は、ランプが好きなのだと知った。生まれつきとても濃い隈をコシコシとこすりながら、ぼそぼそと何かを呟いた。なんだろう、とよく聞いてみると、人の名前のようだった。

 

 私は俄然興味が湧いた。この薄情な大人の少年は、あろうことか母や私ではなく『男性名』を口にしたのだ。

 

 それに、一人じゃない。父が起きるまでに約10時間、とっかえひっかえのべ8人。更に、時折父は『愛してる』と呟いた。

 

 母にも、私にも一度も言わなかった、私たちがもっとも期待した言葉。それを父は8人の男性名に対して言った。


 興奮した。虚無の具現化のようなあの父から、バイオレンスな香りが立ち込めてきたのだ。


 私は睡眠をも忘れ、一心不乱に筆を走らせ日記帳を父の考察の為3冊埋めた。あらんかぎりの可能性を、めくるめくラブロマンスを、禁断の果実をけたたましい鉛筆音で演奏し続けた。


 書いては読み、書いては読み、読むたびに膨らむ父の本性の妄想。現実よりも濃密なリアリティーとおとぎ話よりも嘘っぽいファンタジーとで渦を巻きながら過去十数年を振り返った。


 出てくる出てくる父の謎。生まれる生まれる疑似真実。日記のあちこちに鼻血がついてしまったけれど、動悸と呼吸は荒ぶり続けた。


 しかし、そんな私の期待はすぐに裏切られた。父が個展をひらいたのだ。


 言われるがままについていくと、高そうな服を着飾ったドレスタニアの貴族が優雅でおしとやかに父に対し挨拶をしにくる。


 いつものボロ服バサ髪を捨てて、綺麗な紳士服と艶々の整髪剤で固めたオールバックに変わってしまった父の姿は嘘のように優雅で、気品に溢れ饒舌だった。


 父は私に『長年の最高傑作だ』と目を輝かせて語った。会場に並べられた父の作品、綺麗で特徴的なランプの数々が、か細い火によって光を放つ。


 まるで小さな命がランプに宿り、ダンスを踊るかのごとく。


 『君に見せたかった。母さんがいたらきっと完成しなかったから』と涙をためて言う父。みてごらん、と一つ一つ作品を紹介されていく度に、楽しそうな父を横目に私は幻滅していった。


 なぜならランプの名前に、見覚えがあったからだ。そう、あの8人の名前は、なんのことはない、『自分の作品名』だったのだ。


 私は自分の妄想が期待はずれだったことに憤りを感じ、ふと思い立って父に向けて呪詛を放ってみた。すると、父の周りに沢山の人だかりができて、元より本来コミュ障である父はお祝いの酒の誘いを断りきれず、連れていかれてしまった。


 次の日私は、父が酔いつぶれて寝ている間に、ランプを質に入れた。たくさんのお金に変わった。


 家に帰ると、必死な顔をしてキョロキョロする父がそこにいた。普段の冷静さは消え、半泣きになりながら私にランプのありかを聞いた。


 私がお金を父に渡すと、父はしばらくの沈黙の後、情けなくわんわんと泣きはじめた。


 愛する恋人との突然の別れ。突きつけられる厳しい現実、悲劇に変わるこの物語の主人公は、このあとどんな行動をとるのだろう。無駄とわかっていても恋人を追うのだろうか?それとも、違う恋人を作ってしまうのだろうか?


 そんなおいしい選択を迫られた父に、興味本意で呪詛をかけてみた。

 

 すると、いいタイミングで母がライスランドの旅行から暫くぶりに帰ってきた。父は悲鳴をあげた。

 

 母はキョトンとした顔で『どうしたの?』と私に聞いた。私は、父の不倫相手が8人いたこと、8人とも男性だったこと、そして、その8人を今お金に換えてきたことを告げた。


 すると、父は取り乱したかのように誤解をとこうと必死になって、その様子を私たちはときめきながら楽しんだ。


 母はお腹を押さえて笑いながら私に言った。


『最高よアンナ!!カオス!!私のイタズラとはレベルが違うわ!!やっぱりアンナは私の子ね!!アンナなら何かやってくれると期待していたわ!!』

 


 そう。私の名前はアンナ。ランプ職人でランプフェチなアスラーンの父と、カオスな展開が大好きなアルビダの母をもつ、アンナ。

 

『人をちょっぴり不幸にする呪詛』をもつアルビダの可憐な乙女。

 

 この呪詛を『おいしいな』と思ったのは、これが初めてのことだった。