PFCS SS劇場!

パラレルファクター カルティベイトサーバーのSSをまとめるブログです。主にツイッターでのやり取りを纏めます!

借り。

「あちゃー、マッチ湿気っとるやないかい……仕方おまへんなぁ」


 ドレスタニア城の広い廊下の柱に背を預けたままカヌレは、やれやれと首をふり、わざと反響させるような大声で大袈裟に呟いた。咥えた煙草を唇で上下させながらキョロキョロと辺りを見回すと、誰かが中庭で休憩しているのを見つけ、笑顔で陽気に歩き出す。花壇に座っている、置物かと勘違いするほど黒い大きな人影の横にずけずけと腰を下ろし、まるで親戚のような態度で軽々しく話しかけた。


「まーそういうときもありまんな、気ぃ落とさんと上向いてこ……ってなんでウチが慰めてんねん!!逆やろ!!なんでやねん!!」


 ベシベシと肩を叩き爆笑するカヌレ。ユラリと反動で揺れた大きな髪の隙間から、殺意に満ちた目付きで睨む、年増らしい女性の表情が見えた。おぞましいほど荒々しい、何かでえぐれたような傷痕が、顔の大部分を蝕んでいる。荒れた長髪は地面を這うように足元まで届き、土がつくのもおかまいなしで風を受けながらゆらゆら揺れている。


「なんや、辛気臭い奴やと思ったら妖怪さんかい。銭の臭いも消え失せたわ。えろうすんまへんけど、マッチ貸してくれまっか。吸うんならわかるやろ?気が立ってたまらんのや。ただでさえ厄介な案件抱えとるっちゅーのに」


 相手のことなど知らん、といった具合にツラツラとハチャメチャな事を言い放ちながら足をバタバタさせて顔を向ける。早くしろ、と言わんばかりに咥えた煙草をクイクイさせた。
 大きな妖怪の女性は胸ポケットからマッチを一本取り出すと、シュッとコートに擦って火をつけてからカヌレの口許に運ぶ。カヌレは火を受けとると、おおきに、と一言お礼をしながら微笑んだ。


「妖怪はん、よう蹴りなはるやろ。なんぼ蹴ってきたか覚えとる?」


 無言のまま静止し続ける妖怪。細い眼の下の隈に憂鬱さが現れている。マッチに着いた残り火を自分の煙草で吸いとりながら、漏れる煙を吹き払う。


「ウチは絶対忘れへんタイプや。恨みも恩も、買うも売るも、貸すも返すもキッチリさせんと気持ち悪くてしゃーないわ。……さて、一仕事やって来ますよって。どうせ暇やろ?後でまたお邪魔するわ。ほな」


 ふんふん、と陽気に鼻唄を歌いながら、また廊下に向かって歩き出した。途中腕捲りをし、両拳からバキボキと妙な音を鳴らす。
 小走りで中庭へ入ってきた肌の真っ白な幼い少女が、だるそうに煙草を吸っている妖怪を見つけると無表情のままパタパタと近づき、城へ戻るカヌレとすれ違う。突然、妖怪の異変を不思議に思った少女は、半ば反射的にカヌレに振り向くと何かを感じて吃驚し、その場で腰を抜かした。


 妖怪は煙草の吸い殻を指先で潰し、口許を緩ませてまた静かに目を閉じ、気持ち良さそうに風の揺れを感じていた。