PFCS SS劇場!

パラレルファクター カルティベイトサーバーのSSをまとめるブログです。主にツイッターでのやり取りを纏めます!

リョウマのティータイム

 俺はリョウマ。旅人だ。


 奏山からぶらり船に乗ると、行き先は潮風が香る水の都、ドレスタニアだった。


 思っていたより早く着き、ホテルを借りるまで少し時間が空いてしまった。建造物の石のタイルに指を滑らせ、古きよき建築技術を噛み締めていると、しょっぱい海の匂いから一変して、甘い洋菓子の匂いが鼻をくすぐった。


 この芸術の都は、歴史や技術に造詣が深い分、他の国よりついつい頭を動かしてしまう。糖分を求めた俺の身体は、気づけば白い石造りのカフェの前まで歩いていた。


 中に入ると甘い香りに焼き菓子特有の香ばしさが広がった。バターとフルーツの香りに、こんがりとパンの風味が加わっている。小腹を満たす目的だったが、否応なく腹から音が鳴る。強がるのはよそう。ここは旅先であり、旅人は風に従うのが常識だ。


「いらっしゃいませ!」


 席に座ると出てきたのは、フリフリの黒いドレスに真っ白なエプロンをつけた女性のウェイトレス。これが世に聞くところのメイド、という種族だろうか。思っていたより破壊力がある。黒竜に乗った旅人の話では、まともに目を会わせられなくなる呪詛めいた力を使うから、たぶん妖怪だ、と言っていたが、なるほど、良くわかった。


「お客様?ご注文はお決まりですか?」


 俺は、ふと、小一時間思考停止していたことに気づいた。慌てて注文をとろうとするが、綺麗な文体でサラサラとかかれた洋菓子の名前はどれも特殊であり、何が何やらわからず少し困惑した。見かねたウェイトレスは、写真つきの手書きのメニューをエプロンから取り出した。


「外国の方ですか?失礼しました、種類が多いので文字だけのメニューなんです。名前だけじゃわからないですよね!」


 一瞬恥ずかしさが込み上げたが、彼女は『外国の方にももっと知って欲しくて手作りしたんです!』と元気良くメニューを見せてきてくれたため、俺は、『優しい国民のいる国だな』と思った。


 メニューにある写真を指差すと、注文の前に明るく説明をしてくれた。


ザッハトルテですね!チョコをたくさん使ったスポンジケーキにジャムを塗り、上からさらにチョコを塗った『チョコケーキの王様』なんですよ!しっとりとした食感に濃厚なチョコの味……紅茶も良く合いますがお飲み物はコーヒーがイチオシです!」


 ぴょこぴょこ跳ねるように身体全体で味の素晴らしさを披露するウェイトレスには、油断して緊張が緩み、申し訳ないと思いつつも笑ってしまった。口許を押さえる俺を見たウェイトレスは、嬉しそうに微笑みながらこう言った。


「あっ!お客様素敵です!!そう、その笑顔!!ドレスタニアは笑顔の国ですから、お客様もこの国にとっても馴染んでおりますね!!ようこそドレスタニアへ!!」


 その声を聞いて現れたシェフや他のメイドにも次々に歓迎の言葉を浴びせられ、俺はとてもびっくりした。たかだかカフェに立ち寄っただけで、ここまで手厚くもてなしを受けたのは初めてだ。


 チリンチリン、とドアが開く音がすると、入ってきたのはやたら高貴な雰囲気の髪を結んだ美女と、まるでドールのような綺麗な金髪の少女。席に座ると、美女の方がこちらに気がついて話しかけてきた。


「あら、あなたがもしかして噂の旅人さんかしら?このカフェを選ぶなんて、素敵なセンスをお持ちなのね。我が国へようこそ」


 急に笑顔を向けられてあたふたしている俺を、むっとした顔で見つめてくる少女。あの凄みは多分チュリグ辺りの出身者だろう……。しかし、美女が降り向き直ると一瞬にして可愛らしい女の子の顔に戻った。


「ちょ、ちょっと、私のココアはまだ来ないの!?」


 奥の席から中性的な声がしたと思えば、美形ではあるものの男性の精霊がカジュアルな服装で座っている。口調はオネェっぽい。どこかで見たことがあるような気もするが、サングラスにセットされた髪、大人びた服装という見た目から若干姿を隠しているのだろうと思った。芸能人かなにかだろうか。


「すいません、待ち合わせでー……あっ!ダンテさんこんにちは!!お待たせしてごめんなさい!」


「まぁあんたのことだし遅れるだろうと思ってたからいいけど……ちょっと、二時間は流石に私でも怒るわよ?このココア、何杯目か知ってる?」


 なるほど、どうやら機嫌の悪さはその優男が遅れたことによるものだったらしい。そしてこの男はとても爽やかな笑顔を向けている。大体区別がついてきたが、とりあえず凄く笑顔を向けてくる人がドレスタニア人なのだろう。


「やっと見つけた……。付き合わせてごめんなさいね、ナツメさん。助かりました……今日は凍ってなくてよかったわ」


「全然大丈夫。……です。いつでも」


 美女が席を立つと、ずかずかと優男の方へ歩み寄った。凍ってる……?良くわからないが、どうやらこの二人も優男を探し歩いていたようだ。金髪の少女が心底どうでもいいものを見る目で見守りつつ、平然とケーキと飲み物を注文する。


「ショコラ様!!勝手に居なくならないでって言ってるわよねあなたねぇ!!」


「あ、エリーゼさん、お久し……うひぃ!」


 頭をグリグリとされるショコラと呼ばれた男を、機嫌の悪かった精霊がふふっと笑い、来たばかりのココアを美味しそうに飲んだ。


「あっはは、また居なくなってたわけ?あんた本当にいつ見てもバカよね。……いいわ、今日は帰る。忙しそうだしね」


「えぇっ!?もう帰っちゃうのですか!?今会ったばっかりなのに……」


「二時間も待たせておいて、怒って帰らなかっただけマシだと思いなさいよ!普通帰ってるわおバカっ!まぁ、気分転換にココア飲みたかっただけだし、あんたの顔見ただけでも充分よ。それに……」


「……言わなくてもわかってそうね。『ダンテさん』?」


「こわぁい。そんな顔しなくても、悪意なんてないわ。良いじゃない、おとなしくしてたでしょ?」


「観光される分には大歓迎よ。ですけど、まだ自由にはさせられないわ」


「……わかってるわよ。勝手に見張ってなさいな」

 

「帰りの道中も見てますからね。あと、帰るついでに『デュ・モンド』でお土産にエクレアをどうぞ」

 

「はいはい。好きにすれば?エクレアも買うわよ。アンタのおすすめにハズレは無いしね」


 小声でなにか物騒な話をしていることだけは伝わった。軽口を飛ばしながら退店した精霊の男からは、どこかただ者ではない雰囲気を感じた。笑顔の国かと思いきや、何かしら別の側面もあわせ持っているのかもしれない。『夜は外出を禁ずる』と兵士に言われた辺りで不思議に思っていたが、なるほど、旅する者にとっては面白い国だ。実に良くわからない。


「お待たせしました!!ザッハトルテです!!」


 空気を破壊するかのごとく元気いっぱいにケーキを運んでくるウェイトレス。先程の殺気が嘘みたいに消え去ったものの、笑顔の男を往復ビンタしながら説教する美女。超興味なさげにその様子を眺めながらストローで紅茶を飲む少女。俺のこの国に対する第一印象は、『混沌』だ。


「あっ!!へぶっ!あなたはへぶっ!旅人さんへぶっ!ですか!?へぶっ!ようこそドレスタニアへ!!へぶっ!!


 往復ビンタの最中に笑顔で挨拶をしてくる優男。あまりにもアレな姿だが、俺もやっとこのペースになれてきた頃だろう。旅人として、この国に適応すると決めた。もう何があっても驚かない自信がある。俺は余裕の表情で、笑顔で挨拶を返した。


「俺は旅人をやっているリョウマ。いや、中々賑やかな国だね、ここは……」


「いい国でしょう?へぶっ!僕はショコラ・プラリネ・ドレスタニア。へぶっ!国王です!!

 

 

 

 

 

 


 俺はこの国に馴染むことを諦めた。