PFCS SS劇場!

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【アイラヴ祭】ひじきのライブ

 ライブ後半、レンの舞台で上の空の観客たちが、疲労感を態度で訴える。激しく動かされた感情の変化によって、悲劇の物語の余韻に浸り夢うつつの中で、ひじきのライブを待っていた。ひじき側のファン達も例外なく、ここから先ひじきのテンションについていけるのかと一抹の不安を感じている。
 まもなくして、イントロが流れ出す。普段ならばこのいつものメロディに期待が膨らんでいき、フライングして爆発するひじきのファンであるが、今日は声をいまいち上げきれない。中途半端な声援とともに、ひじきはその姿を現した。


 カツ、カツ、カツと、舞台に響くヒールの音。暗い紫色のスモークに、不気味なライトがさえぎられる。表情は髪に隠れて見えない。エナメルの真黒なロンググローブが鈍い光をチラつかせ、ステージ中央のマイクをさするように撫で、マイクスタンドから取り外した。

 

──疲れているのね、あなたたち。

 

 歌いすぎで枯れたような声。曲は急に、音が飛ぶようにして煩く止まる。すべての観客は、空気に押し負けて黙り込んだ。短すぎるスカートの端を持ち、しわを丁寧に戻すひじき。

 

──私もよ。あんな情熱的で美しいステージ、本能が揺さぶられないわけがないもの。本当に素晴らしい。久しぶりに、泣いてしまったわ。

 

 顔を上げるひじきの目元は、ほんの少し化粧が崩れて、黒くにじんでいる。常連の観客たちから観ても、ここまで弱々しいひじきは珍しく、心が痛む気分に陥った。応援の為に何かを叫ぼうとしても、喉もとで言葉が詰まる。涙袋を撫で、ほんの少し鼻をすするひじきに、その場のファンは罪悪感を抱いた。

 

──こんな気持ちの時……一体、どうすればいいのか、知ってる……?


 観客はどっしりとした空気に身体ごと沈んでいく。プレッシャーに耐えられなくなったのか、足に力が入らず、目線が若干下がってくる。ゲストの観客も、体勢が崩れていく。重々しく息苦しい空気に耐えられず、膝をついた者もいる。汗が額から流れ落ちる。
 いや、違う。ファンは徐々に気づいてきた。身体が重いのはプレッシャーなどではない、本当に『物理的に重くなっている』のだ。
 首を上げるだけでやっとの状態まで沈み込む。みんな必死でひじきの顔を見ようと目を凝らすと、そこには……。

 


 とびっきりの笑顔で笑う『妖怪』が観客を『見下し』ていた。

 


──辛いのは、『我慢している』から。泣きたいならば泣きましょう?笑いたいなら笑いましょう?何も恥ずかしいことはない。そうよだって、どんなにきれいにしてたって本当は、人は皆……

 

 ビリビリ!!と、音を立ててスカートの端を破く。バツン!と、開いた胸元のボタンが飛ぶ音をマイクが拾う。だらしなく振り乱された青い髪の毛を無造作に掻き上げると、マイクスタンドを足で払い除けて前に一歩踏み込んだ。

 

──『醜く汚いもの』なんだから……!!!!

 

 マイクを持つ手を思い切り振りあげる。すると、観客たちは身体が宙に浮くようにとても軽くなり、重さに逆らっていた反動で飛び跳ねる。手に持っているものを落とし、隣の見知らぬ観客と身体がぶつかり合い、ビックリした拍子にみな声を上げてしまう。
 変な声がドッと会場に広がると、緊張が突然ほどけ、恥ずかしくなってみんな笑いだす。さっきまでの重い雰囲気は完全に払拭され、広がる笑顔を見たひじきが楽しそうに微笑んだ。

 

──まだまだ体力あるじゃない♪ここはライブ会場よ。恥も後悔もない。壊れちゃってもいいじゃない?我慢しないで素直になりなさい。そんなあなたたちが一番魅力的。

 

 会場が一気に明るくなる。虹色に輝くステージのライト。演出の花火が次々に暴れだす。ひじきの手が動くと観客が思い切り引っ張られ、互いの客が抱き合ったり、勢いに任せたカップルがキスをしたり、好き勝手に揺らされながらいろんなハプニングが会場に広がっていく。
 誤解を生じるような見知らぬ男女の悪気のないボディタッチ、女性の悲鳴とともにひっぱたかれる男たち、気まずい空気のさえないカップル、同性同士のもつれあい、反応する変わった趣向の人達。


 泣いたり笑ったり、叫んだり驚いたり。そんな大混乱の中、みんなの顔には笑顔があった。指揮者のように楽しく手を振るひじき。妖怪だけが扱える『呪い』の技。まるで身体を糸でつるされた人形のように動き出す観客たちを、面白おかしくあやつるひじきのその技の正体、それは、『空間の重力をゆがませる呪い』。


 不可抗力の観客は、徐々に抵抗をあきらめ、ひじきのいたずらに身体を任せることを選んだ。

 

──うまいうまい、そう、身体の力を抜いてしまいなさい。全力で楽しんで。貴方たちのためのこの歌、全身で聴いてちょうだい?心を込めて歌うわね。『嘘に口づけを』!!

 

 

 

 気づけば、会場は汗の熱気で湯気が立っている。全員、曲のテンポに動かされながら、無我夢中でひじきの操る空間で暴れ、ある人は号泣し、ある人は本気で叫び、またある人は笑い続けた。一体感のまるでない空間。真面目そうなスーツの男性が猛々しく吠えたり、凛々しい美女がわんわん泣いたり、地味なカップルがどさくさにまぎれて熱いキスをしたりした。
 ライブが終わり情けない姿を晒したみんなが、恥ずかしさで顔を背けあう。しかし、きっとそれは、その人の今まで隠してきた本当の姿なのだろう。ひどく荒れた髪、崩れた化粧、汗だくの身体を見ても、不快感は不思議と感じなかった。

 

──何も心配はないわ。今日は秘密の一日。一緒に楽しんでくれて、ありがとう。大好きよ。

 

 ひじきが投げキッスをして帰ろうとすると、ハイヒールが折れて転ぶ。慌ててスカートを押さえて顔を赤らめると、会場は笑いで包まれた。立ち上がったひじきは先ほどまでの妖艶な顔つきではなく、一人の少女としての初心な笑顔で、ペコちゃんのようにあざとく舌を出して照れ隠しをし、早足で会場を去った。


 こうして、ひじきによる後半のライブは笑顔で幕を閉じた。