シモン「なんかお肉って苦手なんですよね…そこらへんで歩いてるのと同じじゃないですか…」
??「ああ……その気持ちよくわかる。鳥の股肉と解剖した人間の股の肉が凄くよく似てたんだ。それ以来、肉が食えなくなった」
シモン「やあどうも、はじめてですね」
指で空中を掻きながら、首元を気にしている。
シモン「わたしは幸い食べられますけどね、お肉が靴なんてはいて歩いてるのが嫌なんですよね」
??「はじめまして」
漆のような髪の毛をかきあげる。
??「クックッ。なるほど、そちらか。確かに理解できんな。血肉袋が衣服を着て出歩くのは。少なくとも本来あるべき姿からはかけ離れているな」
シモン「独り言を呟いた途端、重装備なお肉さんに話しかけられたほうが不可解ですがね」
??「すこしくらい馬鹿馬鹿しいことがあった方が面白いだろう」
自らのペストマスクを人差し指でコツコツと叩く。
シモン「馬鹿馬鹿しい、ですか。わたしには無縁ですねえ、それが一番いいのですが」
相手の方を見ず、手に持った蛇の杖を弄んでいる。
??「無縁か。クククッ。そうか。なら貴方は何を目的として生きているんだ?大抵の奴等ははたから見れば下らん娯楽に人生を費やしているが……」
じっと話し相手の目を凝視する。今話をしている人物に興味が沸いたのだった。
シモン「目的?そんなものはないですよ」
にこりと微笑んでみせる。目はいつも閉じたままだ。
シモン「娯楽にも身を堕とさず、ひとときの楽しみさえもなく、平凡に生きているだけですよ」
??「平凡を幸せとするか。それもまた一考か」
少し間を置いて、くぐもった声がマスクから響いた。
??「徹底して平凡を維持するにもそれなりの努力も必要だ。貴方はとんだ天才のようだ。私にはとうていかなわん」
なんの皮肉もない、ただの賞賛である。
シモン「ええ、何も無いことがいいのです。なにごとも。ひさしぶりに聞きましたよ…天才、ねえ」
閉じた眼からちらりと翠が見える。
??「……フッフッフ!満更でも無さそうだな。では、私はここらで失礼しよう。貴方のような方と話せて本当によかった」
丁寧に一礼する。彼の瞳を見れたことに、なせがとてつもない満足感を得ていた。
??「貴重な『平凡』を邪魔して悪かった」
シモン「…行ったか」
金髪の男の首元から蚊の鳴くような声が聞こえる。
シモン「ええ、おかしなひとに絡まれましたね」
独り言のように呟く
シモン「なにか特殊な能力の臭いがしましたよ」
■「あいつの能力を奪うのか?」
シモン「…いいえ」
男はそのまま、街へと消えた。
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解剖鬼「(はっはははっ。なんとか助かった……。興味本意で話しかけたが、危うく奴を崇拝しそうになったぞ。……絶対にしてはいけないとわかっていても。何であんな奴が町中を歩いているんだ?はぁ……、ドクターレウカドにお香でも炊いてもらうか)」
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レウカド先生「なんか寒気がしたな…一応だが店じまいしておくか…」