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PFCS SS劇場!

パラレルファクター カルティベイトサーバーのSSをまとめるブログです。主にツイッターでのやり取りを纏めます!

マッハ・ダガーのチュリグ・サバイバル

マッハ・ダガーは思考していた。
ここチュリグではハサマ王に一度裁かれている者が歓迎される筈がなく、同時に国外に出ることもできない。外国へ行くことを誰に強制されている訳でもないのだが、マッハ・ダガーは悟っていた。《ここからは逃げられない》。
少しでも脱出の算段を企てようものなら、脳に直接、性別も年齢もわからない声がこだまする。恐怖という感情はマッハ・ダガーにとって、もはやデフォルトとなっていた。
集落の外れに奇怪な植物の森があり、近づくものもいなかったため一度そこで食べれる草を探したが、得意のサバイバル術で身に付けた毒味法で全敗。特に危険を感じた草は一見可愛らしく見える白い花びらの肉厚な葉をつけるやや大きめの野草。一枚の4分の1程の花びらの破片を舐めた瞬間、目の前に《ハサマ王の顔》が写りこんだ。転倒した拍子に回りの草を見ると、万華鏡のように過去の映像が葉に反射して目に飛び込んでくる。そして、あの「アルビダの瞳」が全ての映像でうつりこみ、仮面をつけた自分の顔だけがたくさん現れた。
つまり、幻覚を誘発する花である。マッハ・ダガーは森で食料を探すことを諦めた。かといって、この国で動物を狩っても良いものかどうかの判断がつかない。店に売られているものならば安全だろうが、彼の罪を知らない国民は既にいなかった。ここチュリグでは、噂は瞬時に広まってしまう。彼に物を売る人はおらず、目も合わせてもらえない。恐らくは、3%くらいの原因に彼が《海パン一丁》で歩いているということも入るだろう。彼には服が無いのだ。
今回、流石に空腹に耐えきれそうになかったマッハ・ダガーは、意を決して狩りをするため、海岸付近の岩場へと歩みを進めた。偶然拾った観光マップに、「食べられるウミウシ」の写真を見つけたのだ。まるで赤白青の歯磨き粉が攻撃性を持ったような見た目のウミウシであり、特徴的ですぐわかるとのこと。類似する種類のウミウシは生息しておらず、炙って乾燥させれば保存食にすることも可能である、とされる。曰く、どこにも毒はないらしい。
ついでにこの岩場は釣りスポットとしても紹介されており、この付近では個人で釣ったものを食しても罰せられないようなニュアンスの紹介をされていた。マッハ・ダガーは極限まで追い込んだ過酷な状況下で、サターニアの限界を超えた集中力を発揮しているのだ。
岩場をぐるりと一周。既に夜更けであることから水辺は少し危険である。夜行性の毒魚、岩場に生息するゴカイ類に、ウツボや毒タコ。アンティノメルにもその類いの生物はいたし、チュリグでの危険性はその30倍は覚悟し、慎重に行動した方がよい。マッハ・ダガーはチュリグのサバイバルに徐々に適応し始めている。無事に帰れたら心を入れ換えて本を書こう、心でそう誓いつつ、慎重に慎重に岩場の回りを確かめながら少しずつ進んでいく。
だが、違和感を感じた。《いない》のである。ウミウシの事ではない。《虫一匹すらいない》のである。マッハ・ダガーの脳裏に危険信号が走る。しかし、ここで引いたら餓死してしまうかもしれない。マッハ・ダガーは更に集中力を増した。弱いものが死ぬ、それがサバイバルだ。
そして、岩の裏に顔をおそるおそる近づけると、その隙間に蠢く影を発見した。


見つけた。ついに、食料となるウミウシを発見したのだ。マッハ・ダガーは高揚した。胸の鼓動音が歓喜の太鼓を打ちならした。これで空腹から解放されるのだ。マッハ・ダガーはここにきてガッツポーズをとった。
だが、こぼれる笑みは徐々に力をなくしていく。挙げた拳は緩んでいき、唇には震えが、額には汗が、無駄に鍛え上げられた胸筋にはサブイボが現れる。顔面はアルビダの如く蒼白に変わった。
致命的なミスを犯した。彼は見落としていたのだ。そこにいるのは、画像通りの歯磨き粉みたいな色のウミウシ。もちろん毒は無い。そう、毒など《必要ない》のだ。そのウミウシは、全長が少なく見積もってゆうに200cm超え。恐らくは400~600kgクラスの重厚な肉体に、張り付くため岩を完全に貫通させている四本に伸びたゲル状にも見える肉のトゲ。隙間なく張りついたボディで岩場に棲むであろう虫たちは、一匹残らずこのウミウシにじゅるじゅると取り込まれていたのだろう。その光景に圧倒され硬直していると、マッハ・ダガーの目の前に五本目の肉のトゲが伸びてきた。マッハ・ダガーは悲鳴をあげて岩肌を転がる。フジツボのような貝の表面でボロボロに傷を作るも、痛みは捕食者からの重圧で全く感じることはない。マッハ・ダガーはその場から逃げるため、右足を岩場の出っ張りの前に引っ込めると、その右足があった岩場の《下》から、鋭く白い歯磨き粉色のカラフルな肉のトゲが飛び出してきた。もう少しで右足はウミウシに串刺しにされ、そのままボディへと飲み込まれてしまうところだっただろう。もはやマッハ・ダガーの顔面は鼻水と涙でぐちゃぐちゃである。


何度も転びながら無我夢中で森を駆け抜けたマッハ・ダガーは、気づいたら自分が張ったテントのすぐそばにいた。涙をぬぐうマッハ・ダガー。今朝国民の子供が遊び半分で投げつけてきたがなんとかキャッチした、やや危なそうな卵をフライパンに割り落とすと、少し不安な色の目玉焼きが出来上がっていく。これを入念に焦げ付かせ、生の部分が完全に消滅するまで蒸しつづけると、それを大事そうに食べた。マッハ・ダガーの最後の非常食だった。調味料は使わなかったが、滴る涙で微かな塩味がついていた。
ふと、右腕に不快感を感じて見てみると、真っ黒の少しエグイ模様の入ったヤマビルのような生物がはりついている。マッハ・ダガーは一瞬焦ってはたき落とそうとするが、ふと、一瞬魔が差した。

このヒルは食べれるんじゃないか。自然界では天敵はいないとされる、食用ではまずあり得ないヤマビル。マッハ・ダガーは幼少期よりサバイバルを趣味としていたため、普通よりもヒルには耐性がある。
かつてどこかの国で、こいつらを乾燥させて漢方にしているという逸話を耳にしたことがあった。なんでも、滋養強壮、つまり耐性力の増加が期待できるらしい。マッハ・ダガーにもはや選択肢はなかった。

ためらいなく鷲掴みにし、フライパンに投げ込む。凄まじい動きと共にやがて縮こまっていくヒル。たった今吸ったであろうマッハ・ダガーの血液が焦げる、嫌な臭いがする。よく焼けたかと思われるタイミングで、拾ったフォークの先でツンツンとつつく。意外と堅い。マッハダガーは覚悟を決めてその黒いベーコンのようなものを口に放り込んだ。ギュムギュムと不快な食感がある。塩気も苦味も無いが、よくわからない生臭さが喉の奥に広がった。むせたい気持ちを耐えながら、煮沸した湧き水のお湯を音をたててゴキュゴキュと喉まで流し込み、ゴクン、と黒い異物を飲み込んだ。マッハ・ダガーは壁を超えた。
しばらく毒性をおそるおそる待っていたが、疲労による強烈な眠気を感じ、マッハダガーは就寝した。


翌日、朝から勢いよく起き上がると、身体への異常をせわしなく確認する。昨日の岩肌で傷ついた部分は少し腫れているが、発疹や蕁麻疹の類いはない。それどころか、体調事態はすこぶる調子がよかった。漢方にしている、とは本当のことだったのだと、マッハ・ダガーの目は少年のように輝いた。
結局珍味とされるウミウシを食べることは出来なかったが、マッハ・ダガーに絶望感はない。彼は、またひとつ賢くなったのだ。


《チュリグのヒルは食べれる》


恐らく、この発見はマッハ・ダガーが最初であり、最後だろう。ついにマッハ・ダガーはチュリグサバイバルでの食糧難を解決し、生きる希望に胸が膨らんだのだった。

 

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