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PFCS SS劇場!

パラレルファクター カルティベイトサーバーのSSをまとめるブログです。主にツイッターでのやり取りを纏めます!

竜の試練:ガーナ編

鳴り響く落雷の音を始め、みな一様に竜の巨体へ向かって走り出す。竜の試練。腕のたつものは心を昂らせ、闘志を燃やす。崩れる岩、巻き起こる熱風の中で、ガーナは一人膝をつき踏み込めずにいた。

 

「傷が疼く…こんな時にか…」

 

横一線に裂かれた腹の古傷は、過去にドレスタニアを脅かした妖怪を封印したときについたものである。《あの妖怪》の持つ「牙」には決して癒えることのない呪いが込められており、ガーナは普段より寝たきりの生活を強いられている。その上でなお、ドレスタニアの中では最も強い戦力なのだ。そのプライドの高さから、国民にガーナの傷を知るものは少ない。故に国民はガーナに期待をよせていた。

 

「大丈夫ですかい、王の旦那。失礼だがあんた、その傷じゃ足手まといだ」

 

名も知らぬ密入国者の老人が、ガーナに背を向けたまま語りかける。冷酷な一言は、紛れもない事実なのだ。ガーナ自身、それは良く理解している。だが、王として退くことを国民は許しはしない。

 

「確かに、私一人ではな。だが心配は無用だ。私にはこいつがいる」


ガーナはどこからか出していた真っ赤な禍々しいケースを地面に置くと、何重にも閉じられた大きな鎖を外し蓋を開いた。その中から現れたものに、老人は振り向いて目を見開く。

 

「犬…?冗談きついねぇ、王の旦那。そんな小さな動物に何ができるってんです?」


ケースから現れたのは、赤い首輪をつけた真っ黒な小型の犬。軽く頭を撫でると、さも嬉しそうにブルブルと首を振って可愛らしく鳴いた。老人に向き直ると、ガーナはニヤリと口角をあげた。


「ふふ、貴殿にはただの小さな犬に見えるか。よく見ておくが良い、我がドレスタニアは元々武力国家……妖怪を畏怖させ、鬼を黙らせ、精霊を従えさせた、能力を持たぬ人間の、この私の戦い方をな」


腰から剣を抜くと地面に刺し、途端、炎の風がガーナと犬の周りに巻き上がる。揺れるマントと赤い髪の毛、黄色く光る紅蓮の剣を強く握りしめ、ガーナは傷の痛みをかき消すように、大きな声で名前を呼んだ。


「行くぞ!シュヴァルツヴェルダー!力を解き放て!!」


黒い犬はその声に反応し、火山の下まで届くほどの大きな遠吠えをした。
瞬間、老人の頭上を通った恐ろしく巨大な尻尾が、ものすごい速度でガーナを叩きつける。


「旦那!!あぶねぇ!!」


とてつもない衝撃音と共に、老人は飛び散る岩の破片を避けるため後方に跳ねて体制を建て直すと、ガーナのいた付近に目をやる。もくもくと立ち上がる砂煙のなかで、徐々に浮かび上がる巨大な影に、老人は無意識に言葉を漏らした。


「だ、旦那…そいつぁ一体…」


前足まで覆うほど大きな漆黒の鬣、恐ろしく発達した筋肉に、剣よりも鋭い爪。稲妻の閃光にも似た光る瞳を持つ、4~5mほどもある狼が、竜の尻尾を牙で捕らえていた。その背中に跨がったガーナは、空中で紅蓮の剣を振るうと、竜に語りかける。


「我が名はガーナ・シュトロイゼル・ドレスタニア。かつて災厄をもたらした黒狼を従え、炎を駆ける騎士である。竜神の試練、我が剣をもって受けてたつ!」


反響する声に反応し、竜神は振り向き答える。


「ほう、その傷で正々堂々、正面からきってでるか。面白い。その騎士道、我に見せてみるがよい!」


竜神が一呼吸置くと、割れた爪が赤く光り、数秒の間に新しい爪へと元通りに戻った。

 


竜神の攻撃はその巨体を裏切るが如く素早く隙がない。
地形は徐々に変わっていき、ガーナは岩の破片を弾きながら狼と共に岩場を跳び移ることで精一杯の状況だった。
既に数十分と竜と対峙しているが、一向に攻めきれる様子は見えない。
だが、ガーナの傷の痛みは昂る感情と共に掻き消され、動きは精密かつ大胆にギアを上げ始める。竜の爪が凪ぎ払いの動きを見せたとき、ガーナと黒い狼は爪の先端に脚をかけ、払いの慣性を利用して空中に飛翔した。

 

「ガーナ君なにその子!面白そう、ハサマにも乗らせてー!」

 

空を高速で飛ぶ狼の背に手も添えず両足で着地するハサマ王。ガーナは驚いたが、ハサマ王に目配せを送りながら竜を睨んだ。

 

「後で存分にお貸ししよう。しかしながらハサマ様、私だけでもやっとの隙の中、いざ飛び込むという時に背に乗られては、貴方を傷つけず竜に近づくのは難しい」

 

ハサマ王は残念そうに首を振ると、片足で狼から飛び立ち、冗談でおおげさに不貞腐れた顔を作りながら指を空中に向けて掲げた。

 

「そんな気にしなくていいのに…。傷が痛むんでしょ?風貸してあげるよ。がんばってね」

 

パチン、と指先から音をたてると、突如ガーナの背に向かってとてつもない衝撃波が巻き起こった。風というより、半径5mはありそうな気圧のハンマーを力一杯叩きつけたかのような威力である。ガーナは衝撃を壁にして、空中を蹴った。

 

「ビックリした!!助かるが加減をしていただけるとなお嬉しい!寿命が縮む!!」

 

「えー、加減したよ、物凄く。」

 

クスクスと笑うハサマ王を背に、竜へ目をやる。すると、竜は口を大きく開けて喉の奥を黄色く光らせていた。まもなく、恐ろしいほどの熱気と共に、黒い煙を撒き散らし、青白い光を含んだ高熱の熱線をガーナに向かって吐き出した。

 

「…!しまった!これは流石に剣のみでは…!!」

 

顔を紅蓮の剣で防ぎ、炎を周りに分散させようと試みたが、このままでは狼も無事ではすまない。万策尽きたかと諦めかけたその時、目前で熱線は八方向に弾け跳んだ。

 

「これは……」

 

目の前の剣を横向きに直すと、目の前にいたものはライスランドからの使者オムビス。手に持つ槍を回転させ炎をまともに受けながらも臆すことなく、寡黙に熱線を弾き飛ばし、熱線が途切れる時、槍を振りかざしてガーナの前に炎の道を作り出した。

 

「…すまない、恩に着る」

 

その熟練の技にみとれかけたが、絶好の機会にいっそう身を引き締めて狼と共に炎の道を駆け出した。狙うは頭部に構える禍々しい四本の竜の角。そのチャンスは一度きりであることを、腹部の軋む音が言い聞かせてくる。今しかない、ガーナは一気に竜に詰め寄った。
目前には角を守らんと飛んでくる両双の爪。一かバチか、その隙間をタイミングよく潜り抜けようと身をかがめたガーナ。だが、ここにきて古傷の呪いが邪魔をする。


「ぐぅ…!!こんなときに……!!」


ほんの一瞬の腹部の痛みに、爪は容赦なく襲いかかる。迎え撃とうと剣をつきたてるが、よくて身を守ることで精一杯だろうと諦めかけた。その時である。

 

「俺様さんじょーう!!せっかく破壊したってのに元に戻ってたんじゃあドラゴンズネイル・クラッシャーの名折れだぜ!」

 

「クォル殿…!!」

 

爪に食い込ませるように上から叩きつけた大剣で、驚くべきことに竜の力をねじ伏せ、あろうことか笑みを浮かべ軽口を飛ばす、リーフリィの使者クォル。そのままガーナに向き直り、片腕で胸をたたいた。

 

「無理すんなって言っただろ、王さん。もっと仲間を頼んなよ。ここは俺様に任せて、あんたは先に進みな!」

 

振り向きざま、剣を爪から引き抜いて一歩後ろに跳ぶクォル。瞬間、ヒビの入った爪に、眼にも止まらぬ速度の斬撃が一閃。縦一列に分断された二重の爪を、更に斜め下から弾き飛ばすように一撃。開いた両爪を、身体を大きく捻った振り下ろしでクロスを描くように、短刀より素早く鮮やかに切り刻む。

 

「なんと見事な……感謝する。このまま先に進ませてもらう……!」

 

割れた爪に跳び移り、一気に竜の頭上へと駆け抜けるガーナ。クォルからの激を背に感じとり、信念のままに突き進んだ。

 

「いつでも力になるぜ!!……ってちょっと待って!後のこと考えないで全力出しちゃった!!うわああぁぁ力入らねえぇぇぇ!!!落ちるうううぅぅぅ!!!」

 

背後でハサマ様のため息の音が聞こえ、ガーナは一応の無事を確認した。


改めて竜の瞳と間近で睨みあう竜と王。お互いに傷を受けた身体で最後の試練の時である。ガーナはその瞳に国を想い、竜の神はガーナの内に秘める正義を見透していた。竜は語り出す。


「満身創痍だな、王よ。他のものに助けられ、足を引っ張りながらここまで来たのか。一国の主が、滑稽なことだ。」


その言葉には意図的に込められた皮肉が入っている。問いかけの内容次第では、この試練は無駄になるだろう。


「して、王よ。そなたの本心、欲望は何を求める」


ガーナは目を逸らすことなく、一息、深呼吸をした。決して悩むための間ではなく、竜に対しはっきりと言葉を伝えるための、言わば《竜に覚悟を決めさせるため》の間である。そして、赤い瞳で突き刺すがごとく、最後の一言を発した。


「愚問。我が名はドレスタニア。国は我が身であり、我が身は国である。竜の神よ、その力、我が国のために私が使う!この一太刀、その身に刻み付けるがいい!!」


竜に笑みがこぼれる。そして、先程までとは違う、とてつもない重圧が付近一帯にまとわり始めた。戦いを好む竜の神は、この一瞬において一度だけ力を解放する決意をしたのである。それは、ガーナへの最大の敬意にして、未熟な王への叱咤の圧。巨大な咆哮が天を黒く染め、剣を天に向けたガーナの髪を逆立てた。ガーナはその手に持つ紅蓮の剣に、一筋の光を溜めて強く握りしめる。おそらく、攻撃は相殺され、衝撃はガーナを引き裂くだろう。しかし、王としての誇りが、ここで引くことを許さなかった。覚悟を決め、両手に剣を持ち変えて、ガーナは対抗するかの如く竜のように雄叫びをあげる。

 

「行くぞ王よ…!我の攻撃、その身体で受け止めよ!!」

 

口を大きく開き、喉の奥に光の玉が現れる。ガーナはその時、自身の最後を悟りかけた。臆したわけではないが、その現実は覆ることはないと判断した。そして、ドレスタニアを始めとするすべての世界に、祝福を祈った。

 

 

━━その時、背後から小さな声がガーナの耳に入ってきた。

 

 

「諦めるのは数十年早いですぜ、王の旦那」

 

 

突然、竜は口を閉じて激痛に苦悶の表情を浮かべた。ガーナの後ろに現れた老人は、指から光の筋でようやく視認できるほどの糸を踊らせ、線のようにビシリと竜の身体を縛り付ける。竜は驚きと痛みに耐える呻き声をあげた。

 

「貴様……!いつの間に!?」

 

老人は帽子をスッと正位置に正すと、竜にもガーナにも向き直ることなく、空を見上げて呟いた。

 

「卑怯ですいませんねぇ。だが、戦いにおいて油断なさるのは、いくら神とはいえ迂闊だ。勝機は逃さん。呪うならテメェを呪いな、神さん」

 

老人が手を広げ、交差させるように紐を引っ張ると竜の身体を纏う硬い鎧の甲殻がバキバキと割れていった。竜は身をよろつかせ、老人を睨み付けたが、ふとガーナから視線を逸らしてしまったことに気がつき、急いでガーナに向き直る。

だが、時は既に満ちていた。

ガーナの頭上に伸びる大きな灼熱の光。炎は昇り竜を形取り、火花がやがて火柱へと形を変える。竜対竜、ガーナの信念、それは勝者こそが正義。故に負けてはならない。その剣は、悪をねじ伏せ従える王者の一振り。紅く光るルビー色の瞳は獲物を前にした百獣の王の軌道を描き、万物を喰らうが如く解き放つ。大地を焦がす熱風を振るう一閃は、無数の刃を束ねた終末の一撃。雄叫びをあげ、大陸を裂くガーナの覇道は、竜神の瞳に刻み付けられた。

そして、剣は裁きの輪を作りながらプロレキス・オルタの頭蓋を掠め、ガーナはその剣の真名を口にする━━

 

 

 レ ー ヴ ァ
『煉獄を創造りし━━』

 

 


━━溶岩をも掻き消されるほど紅く染め上がる光で竜の四本の角を《蒸発》させた。

 

 

 テ  イ  ン
覇道の聖剣━━!!!!』

 

 

 


数キロ先まで届くかのような衝撃波。地平線を煉獄へと染める紅い焔の光。レーヴァテイン。かつてドレスタニアを襲う災厄を追い払い、国を統一した覇王の剣。ガーナのみ扱うことができる王の呪いの剣。やがて黒く広がった曇天の空は、天地創造の如く引き裂かれて光が差し込みはじめる。

 

「━━見事だ。」

 

竜の神は賛辞の言葉を一言だけ囁いた。気を失い、黒い狼から落ちるガーナを風で浮かすハサマ王。ゆっくりと落ちていった先の竜の手に支えられ、ガーナの試練は終わりを告げたのだった━━