PFCS SS劇場!

パラレルファクター カルティベイトサーバーのSSをまとめるブログです。主にツイッターでのやり取りを纏めます!

【バレンタインSS】女子の本格チョコ作り体験!

キャナレット「さてと……今年はやるつもりも無かったけど、集まっちまったもんは仕方ないね。男子禁制、本格チョコ作り教室、早速始めるよ!」
 
一同「はーい!!」
 
キャナ「まずは簡単な自己紹介と、どうしてチョコを作りたいのか訊かせて貰おうか。ここにはオトコなんざ居ないんだ、恥ずかしがって嘘つくんじゃないよ!!いいね!!じゃ、そっちから順に答えな!」
 
アルテルナリア「え……あ、はい……はじめまして、アルテルナリア・ベーレンアウスレーゼと申します……私少々身体が弱く頼りないので、お兄様やお姉様だけでなく、まだ小さい弟からも心配されてしまいます……。自分で何かをやりきったことも多くなく……この機会に日頃のお礼も兼ねてチョコレートを作ってみようかと思い立ちました……」
 
エナン「ボクはエナン。エナン・ポティロン。魔女見習いの修行の一環で、ばばさまにあっと驚くチョコを作りに来たんだ。お菓子は幸せになれる魔法だって、ばばさまも言ってたし」
 
レイリ「レイリ。モスサターニア。今年は息子にチョコをあげたい。きっと喜ぶ。お菓子は手作りが一番。でも、レイリは作り方わからない。教えてほしい」
 
煙慈「あたしは煙慈ってもんだ。恥ずかしながら、鬼ん中じゃあもうお婆さんでねぇ……。老後の楽しみというか。昔、恥ずかしがって出来なかったことを、死ぬ前にたくさんやっておきたくてね。ま、たまには娘に美味しいものでも作ってやりたいんだよ」
 
ミコッシュ「ミコッシュアイガスだよ!そんちょーなの!!」
 
ミジューイ「ご無沙汰しております、キャナレット様!グノーメアの精霊、フロマージュ・パンナコッタでございます。私たち、キスビットから栽培中のカッカォの加工について、一からお勉強させてもらいたくお伺いしました!」
 
キャナ「はいよ、アルテルナリア、エナン、レイリ、煙慈、ミコッシュちゃんにフロマージュだね。よくお聞き!始める前にこれだけは言っておくよ!『チョコ作りは甘くない』からね!!覚悟しておくんだよ!」
 
一同「はーい!!」
 
キャナ「それじゃ、まずは今朝届いたばかりのカッカォを配るよ。いいかい、この無駄に大きな実の中には、とても固くてべらぼうに苦い小さな実がしこたま詰まってるんだ。そいつを取り出すために、この棒を使って……」
 
バコンッ
 
キャナ「こうやって割る。さ、やってみな!」
 
煙慈「へぇ……。案外スポーティじゃないか。あたしは鬼だから、こういうのは有利だね」パコンッ
 
キャナ「ふっふん。鬼だからって手抜いてちゃソイツは割れないよ。遠慮せず、ボカッてやりな!」
 
煙慈「……ありゃー、結構力込めたんだけど割れないなんて、随分丈夫な殻だねこりゃ……。大丈夫なのかい、女の子の力じゃ相当頑張んないとダメそうだよ?」バコォ!
 
アルテ「え、えい……!はぁ、はぁ、えいっ……!!はぁ、はぁ……びくとも……しませんっ!!」ポカッポカッ
 
エナン「な、何かコツがあるんじゃない?キャナレットさんはあんなに簡単そうに割ったんだしっ!!」パコッポコッ
 
レイリ「っ!!わ、割れた……!とても硬い種類のチーズに、似てる……!」バコッ
 
ミジュ「うーん、鉱山の採掘を思い出しますわ。軽く叩いてみて、起点を探して一気に叩くのですよ、村長!」パカーンッ
 
ミコッシュ「うーん、わかんないの!!えい!!えい!!あっ!!」パコッポコッパカンッ
 
エナン「うっ……!み、ミコッシュちゃんが割ったよアルテさん……!」ポコポコ
 
アルテ「ふぅ……ふぅ……す、すみません……私……息があがってしまい……」フラッ…
 
キャナ「おや、大丈夫かいアルテルナリア。でも、諦めんじゃないよ!言ったろう、チョコは甘くない。闇雲にやってたって割れやしないよ。これは女の戦いなんだ、勝つために色々やってみな!!」
 
アルテ「はぁ、はぁ……い、色々……こんなとき、アスペルギルスお兄様なら……」
 
 
 
『ぬはは!!戦争とは常に万全とはいかぬもの、否、それどころか優れた将ならば弱味を決して逃さぬものよ!つまり逆境こそが戦いなのだアルテルナリア!!攻める時こそ勝機を見定め、攻められんとする時こそあらゆる手を尽くし『力』ではなく『知』で勝つのだ!さぁ、我が妹よ!非力な己が巨人を相手に打撃でもって屈服させるつもりならば、そなたが持つべきは強度と利便性に長けている剣ではない!狙うは初激のみ!つまり、『アレ』の出番である!!』
 
 
 
アルテ「……そうです、お兄様……。こんなとき、私が最も扱える武器は……この、『手拭い』……!!」
 
エナン「手拭い?そ、そんなんでいったいどうする気なのさ!」
 
アルテ「簡単です、エナンさん……。この手拭いでカッカォを包んで、端をしっかりと持ちます……そして遠心力をつかって思いっきり……地面に叩きつけます……!!」バコォッ
 
レイリ「こ、これは!!『ブラックジャック』!!」
 
煙慈「おぉ……!恐ろしいねぇ、今のは鬼でも当たったら痛そうだね。女の子でこの威力かい……」
 
キャナ「懐かしいねぇ、若い頃はこれでよく油断した兵士をノしたもんだよ」
 
エナン「な、なんてファンキーな人なんだ……よし、ボクも……!!」パカーンッ
 
キャナ「よし、全員割れたね!!でもまだまだ序の口さ、本当に大変なのはここからだ!今取り出した種を6日程発酵させるんだけど……」
 
エナン「6日!?そ、そんなに待ってられないよ!!」
 
レイリ「バレンタインデーが終わってしまう……!モカのチョコ、作れない!!」
 
キャナ「話は最後までお聞き!!エナン!!レイリ!!せっかちな女は舐められるよ!!」
 
エナン「うっ!ご、ごめんなさい……」
 
レイリ「すまない、良くアセる……。レイリの悪い癖……」
 
キャナ「あたしも忙しいからね、既に発酵させたのを用意してるさ。そっちは記念に持ってかえりな。でも、実を割るのがどれだけ大変か知らないと、ありがたみってもんがないだろ?これも大事な料理の一環さ」
 
アルテ「知りませんでした……私たちの身近なチョコがこんなにも大変なものだったなんて……」
 
ミコッシュ「でも楽しいのー!!次はどうするの?」
 
キャナ「次はこいつを使って『カッカォマス』を作るよ。ようは、すりつぶしたカレー粉みたいなもんさ。この作業は本来とても時間がかかるんだけどね、煙慈がいりゃあちょちょいのちょいだ、交代しながらみんなでやるよ!」
 
煙慈「アタシかい……?ってことは、また力仕事ってことかい。あはは、なんだい本当にハードじゃないか、チョコ作り!楽しくなってきたね!」
 
エナン「それで、いったいどのくらい混ぜるんだろ。六人で回すから……三十分くらい?」
 
キャナ「冗談じゃないよ。生クリームやメレンゲを泡立てるんじゃないんだ、三十分なんて人の手じゃ無理さ。そうさね……煙慈がいるから、早ければ二時間で終わるよ」
 
一同「に、二時間!?」
 
キャナ「こんなことで一々驚くんじゃないよ!!料理は愛情、女の愛は安物じゃないのさ!!手間暇かかってやっとできるからこそ、想いが宿るってもんだ!
 
レイリ「で、でも、ここまでで既に六日……!更に二時間……鬼が居ても二時間かかる……!それ、一人ならもっとかかる……!」
 
エナン「これも力仕事だよ……!と、とてもじゃないけど、いつもおやつに食べる程度のチョコレートにここまで時間かけるっていうのは……」
 
キャナ「おばかだねぇ……いいかい?お前たち!これだけの手間暇を誰にも見えないところで頑張って、それでもかまわないって程の意中の相手に渡すのがバレンタインチョコってものの重みだよ。ここで折れるってことは、所詮はその程度の相手ってことさ!愛さえあれば、戦争にだって屈しないんだからねぇ、大変に決まってるだろうに!」
 
ミコッシュ「むー……困ったの……」
 
ミジュ「村長……ま、まぁ、私たちは単なる体験ですし、またの機会にしても私は……」
 
ミコッシュ「……こんなにチョコを作るのが大変なら、村にもアルファさんが必要なの。レンタル発注の手続きをしなくちゃならないの……」
 
ミジュ「村長……!!……もう既に村の発展のことまで視野に入れて……流石です、村長!発注の件は私に全てお任せ下さい!」
 
煙慈「……(へぇ、このちびっ子、この歳でリーダーシップをとってるのかい。……良い頭領になりそうだね。今度、紫電を誘って村とやらに観に行こうか……)」
 
アルテ「……みなさん、私、最後までやってみようと思います……」
 
エナン「アルテさん……!」
 
アルテ「……身体が弱くても、愛があるならば頑張れる……。なんだか、そんな気がするんです……。人間のパパが我が国を治められた理由が、愛なのですから……」
 
エナン「……うん、アルテさんがそういうなら、ボクだって頑張んないと。負けてられないよね、レイリさん!」
 
レイリ「当然……!モカが待ってる……それだけで、レイリはずっと頑張れる……!」
 
煙慈「そうかい、なら、あたしも乗らなきゃ鬼失格だねぇ!みんなですっごい上等なチョコを作ろうじゃないか!!」
 
キャナ「お前たち……ふふ、良いじゃないか。人は誰だって誰かの為に生きてる。その『奉仕の心』があるなら、オトコなんてみんなイチコロさ!女の強さ、見せてみな!!」
 
一同「はい!!」
 
 
***
 
 
 
キャナ「よし、そろそろいいんじゃないかねぇ……。ちょっとざらつきが残るかもしれないが、かえって風味が出て美味しいもんだ。アルテルナリアは無理しないでそこで見てなさいな」
 
アルテ「……す、すみません……不甲斐ない限りで……」
 
エナン「そんなことないって!!今日、一番頑張ってるのは絶対アルテさんだよ!ボクはそう思うよ!」
 
レイリ「アルテルナリア、最後までやった……!愛がなきゃできない……!」
 
ミコッシュ「すごいのー!!そんちょーよりもたくさん頑張ったの!」
 
ミジュ「えぇ、決してあきらめずに……素晴らしいですわ!」
 
煙慈「自慢じゃないけど、体力には自信のあるあたしでさえキツかったんだ。良くやってたさ!こっちの士気も上がるってもんだ!」
 
アルテ「みなさん……」
 
キャナ「いいかい、これからこいつに多量の砂糖と、あらかじめ絞り出したカッカォバターを加え、いよいよチョコになる。ここからは湯銭で焦らずゆっくり温めながら混ぜれば、みんなも知っての通りのとろけたチョコレートが完成さ。頑張った分、その味はどんな高級チョコも目じゃない、絶品の愛の結晶の誕生だよ!」
 
エナン「お、おぉ……!!すごくきれいなチョコレートだ……早く食べてみたい……」
 
レイリ「エナン。プレゼント用って忘れてる。あせっては駄目。まず、型に入れて冷蔵庫!」
 
煙慈「ははは、レイリに言われてるんじゃ駄目だねぇエナン!なに、気長に待つのも楽しみの一つだよ。船旅は帰るまでが冒険だからね」
 
エナン「わ、わかってるさ!いつもうるさい使い魔達に言われてる!」
 
ミコッシュ「動物さんにもあせってるっておこられちゃうの?エナンかわいそう!」
 
ミジュ「ふふ、エナンさん、墓穴を掘られましたようですよ」
 
エナン「あ!ち、ちが……!!くそー!!でもばばさまは褒めてくれるんだぞ!!」
 
アルテ「……エナンさんは……ばばさまが大好きなのですね……愛を感じますよ……ふふ……」
 
エナン「な、なな!!なんだよーう皆してボクをからかって!!みんないい人たちだと思ったのに!!くそー!!」
 
キャナ「はいはい、なごやかなところお邪魔するよ!時間が勝負なんだ、みんな好きな型選んで流し込みな。その上でもまだ沢山あるからね、各々ケーキとかの為に持ち帰るといいさ。氷の属性を込めたガーディアンストーンもつけるから、遠くから来たって子も安心しな。これなら砂漠にいたって溶けないよ!」
 
エナン「みんなどれにするの?ボクはシンプルに星かな……。よく夜空観てるし、結構こういうの魔女っぽいって思うんだよね」
 
レイリ「蛾の形あった。これがいい。モカも男の子だ、大きな羽がかっこいいはず」
 
煙慈「それ蝶々じゃないかい……?まぁ、紫電にあげるならこのうさぽんの形とか気に入りそうだね……口では嫌がるだろうけどねぇ」
 
アルテ「私は……これがいいです……トカゲの形……ふふ……なんて可愛い……」
 
ミコッシュ「鳥さんがあるの!!これにするの!!キスビットにも大きな鳥さんがたくさんいるの!!」
 
ミジュ「あら、宝石の形もあるんですね。エレガントですわ!私はこちらで……」
 
キャナ「うんうん、皆、自分らしいものを選んだみたいでわたしゃ安心したよ。ここまできて適当に選ばれちゃ、たまったもんじゃないからね。全く、こういう女ごころをわかってないからぼっちゃんは未だ愛に気付かないんだ……さっさと結ばれちまえばいいのに、意気地の無い王様だよ……!」
 
エナン「誰の話してるの、キャナレットさん?」
 
キャナ「あぁ、いやこっちの話さ。身内にどう見たって両想いの良い歳したカップルがいてね。毎日一緒に居るってのにどっちもアタックしないんだ。もどかしいったらないよ」
 
煙慈「えぇ?なんだいそりゃ。そんなの見たら突っつきたくなっちまうじゃないか!……あ、いや、こういうとこがまた『おばさん』って言われちまうのかもしれないな……ははは」
 
レイリ「レイリ、わかる。結婚、いつでもできるとは限らない。行けると思ったら行くべき!!子供、大切!!」
 
エナン「そういうもんなのかなぁ……。ボク、考えたこともないや。良い人なんてほんとに見つかるのかな……」
 
アルテ「エナンさん……弱気じゃ駄目ですよ……。恋は突然に現れると言いますから……」
 
ミコッシュ「なんだか大人の会話なの……。ミジューイも、好きな人いるの?」
 
ミジュ「そうですねぇ、異性というのであれば、私も変わり者ですが精霊ですから……もうお亡くなりになられましたけれども、偉大な前精霊長様の事をお慕い申しておりましたね。そう考えますと、恋愛観も種族によって違うのでしょう」
 
エナン「じゃあさ、みんなどんな人がタイプなの?ねぇねぇ!」
 
レイリ「子供に尽くすタイプ……!」
 
煙慈「あたしはもちろん、強さだね!腕っぷしだけじゃなくて、度胸や覚悟も強い男が良いオトコの条件だよ!」
 
アルテ「私は……趣味を理解してくださる殿方が良いです……毒蛇にも怖がらない方……」
 
ミジュ「私は先ほどの繰り返しになりますが、信仰心がより強く正しい偉大なお方に惹かれます。エナンさんはどんな方を?」
 
エナン「え、ぽ、ポク!?いや、い、いないよまだ!そもそも男ってあんまり話したことないし……」
 
煙慈「またまたー、自分で振っておいて答えないのはナシだよエナン!白状しな!!」
 
レイリ「大事……!!貴重なチャンス、逃さない為にも決めるべき!!」
 
アルテ「ドレスタニアの聖騎士さんとか……どうですか……?綺麗な顔立ちがそろっておりますし……」
 
キャナ「あはは、ダメダメ!あんな朴念仁ども、好きになったら痛い目みるよ!ま、それでも好きになっちまったら、剣ふるよりこっちを見ろって耳にタコができる位言うことだね!」
 
ミコッシュ「あ!!わかった!!キャナレット、せーきしと付き合ってたんでしょ!!」
 
ミジュ「あぁ、なるほど!さっすが村長、するどいですわ!!」
 
キャナ「ちょ、ちょっとやめとくれ!もう随分前の話で今はあんな奴ら……」
 
レイリ「キャナレット……!!……チョコ、固まるまで時間ある……!!」
 
煙慈「へぇ~?ずいぶん昔に、騎士様と……?なになに、愛の匂いがするじゃないか、えぇ?」
 
エナン「な、なにがあったんだよ!!……別に気になるってわけじゃないけど……勉強の為に聞きたい!」
 
アルテ「ドレスタニアのロマンスでしょうか……うふふ……アンナさんをお呼びするべきでしたね……」
 
キャナ「ちょっとちょっと!!なんだい皆して!!……別に楽しくもないよ!バタバタしてただけで!!この話は終わり!!」
 
ミコッシュ「でも、いっぱい愛してたんでしょー?」
 
ミジュ「当然ですわよねぇー!あんなに愛について詳しいのですもの!ね、村長!」
 
キャナ「あぁーもう!!お前たち今更元気になってどうすんだい!!長くなるよ!!この話は!!」
 
レイリ「なるほど……!!これが愛の力……!!」
 
キャナ「欲の力だよ!!お馬鹿!!」

【アイラヴ祭】B・S・K

常務「だ、駄目だ駄目だ!!私は許さんぞ!!絶対に許さん!!貴様、あの合宿が一体何を意味しているのか理解しているのか!?」


テイチョス「あぁ、過去のデータからドレプロのおおよその目的は推測している。合宿中、他社のアイドル達と競合することで各分野のフレッシュな流行を取り入れ、より時代に見合った戦略を練るというものだ」


常務「そこまでわかっているならば当然、開催元が『わが社のみではない』ということにも気づいているんだろうな!?あの合宿に送り出すアイドルは言わば我々の『看板』のようなものだ!社の信用に関わることは別に度外視しても構わん、だが問題は『他のアイドルに関わる』という点だ!!いいか、合宿で何かあればドレプロアイドル全ての敵に回りかねんのだぞ!!」


テイチョス「ふむ。だが、そこまで言うのであればこの二人、『美水しずく』と『紅夢來』は一体何故参加している?彼女達はタオナン達と同期であり、未だ目立った活躍はしていないこれからのアイドルである筈だが」


常務「ぐ……!!(クソ、軽率だった……!今年の参加者がほぼ居ない状況で唯一新人の中でも伸びの良い二人が自主的に立候補した為に、猫の手も借りようと特例として許可したが、まさかそんな小さなスケベ心にアイツらが嗅ぎ付けてくるとは……!侮っていた、なんて奴等だまったく……)」


大崎「いいではありませんか常務。いや、むしろ面白い。琴浦蓮すら顔を歪めるあの合宿に、新人参加とは前代未聞……やる価値はあるでしょう」


常務「大崎……!し、しかし今度ばかりはリスクが余りにも高すぎる。私はあのへっぽこ共を心配してだな……」


大崎「ならば私にお任せを。ようは、三人組にみなが納得する理由を与えれば良いのでしょう。それならなんとでもなるというもの。恐れながら提案しても?」


常務「理由だと?……なんだ、言ってみろ」


大崎「合宿に、あの子を参加させてみてはいかがでしょう。天帝序列四位、精霊『白玉きくり』を」


常務「きくりだと!?そんなことできるわけが……いや、まてよ、確かにあの子ならば可能性も……ふふふ、なるほど、なるほどな。それならばあの三人組、ついでにしずくと夢來にも充分な意味がある……新人育成の面でも……」


テイチョス「すまないが解説をお願いしたい。白玉きくりと言えば天帝とはいえジュニアアイドルの筈だが、参加する事で皆の合宿にどう影響するのだろうか。現時点のデータでは照合しかねるが……」


大崎「なに、至極簡単なことだ。ドレプロが開催するあの合宿は、当然他社のトップランカーが集まる超スパルタ合宿であることは知っているな。現時点で新人達が個人参加すれば、いかなる才能があってもキャリアの面で敗北を味わうのは明白。常務の公認である二人組は身の程を知ることになるだろう。今回はほぼそれが目的と言える」


常務「烈火のところでトレーニングを積んできた奴等だ、本人達は自覚してないだろうがな、奴のプライドの高さは確実に受け継がれている。アイツらは『烈火の保護下』にいるということを忘れがちだ。危機感を感じればすぐに烈火に泣きつくし、烈火はなんだかんだ乗せられやすいタチだからな。あの二人、特にしずくはそういうポーカーフェイスがやたら上手いのが長所であり短所だ。いずれは目ざとく、小さな努力で楽しようという魂胆がうかがえる。だからこそ、一度反省してほしかったわけだ」


大崎「貴様の担当する三人組は、恐らくはリーダーであるタオナンの提案なのだろう?ならば参加の意図は他のアイドルとの競合ではなく、オリジナリティの開拓と見える。新曲の発表に先んじて、実践経験のあるアイドル達の胸を借りようということだろうが実際、その考え方自体は悪くない。何故ならば、わが社のアイドルは本来誰かしらのアイドルの側で技術を習う為研究生からでも付き添ってステージに上がるものだが、三人組はそのリスクが余りにも高すぎるために、セレア・エアリスによる手引きしか行われていないからだ」


テイチョス「成る程。他とスケジュールが大きく違うのはその為だったか。府に落ちる説明だ」


常務「あぁ、だがなにもへっぽこ三人組のアイドルとしての実力が足りないから、という理由ではないからな。あいつらは既に誰よりも目立つ個性を持っているため、組ませたアイドルと衝突する可能性がある。そもそも個性とは諸刃の剣だ。後々武器になる要素であっても、最初のうちは危険物のようなものだ、どんな子でもな」


大崎「期待のルーキー二人の鼻を明かし、あの三人組の個性にも一切動じることなく、他社にドレプロのレベルの高さを誇示することができるアイドルなどきくりを置いて他にない」


テイチョス「つまり白玉きくりのサポーターという名目で合宿に参加すれば、ドレプロの信用を落とすこともなく、各々が目的達成する成功率も上がるということか。その話が正しいデータならば、幼い身で天帝であることにも頷けるが……」


大崎「早合点するなテイチョス。合宿参加の名目はサポーターなどではない」


常務「奴等にしてもらうのは……単なる『子守り』だ!」


テイチョス「子守り……?」


大崎「あぁ、参加の名目は『きくりの子守り』とする。あの子はまだ年端もいかない少女だ。合宿には付き添いが必要となる。当然私が同伴することになるがレッスン中は目を離す事になる為、あの子の目付役が必須。その役割を新人五人組にはやってもらう」


テイチョス「なるほど。……しかし、五人共子守りというのは無理があるのではなかろうか。いくら子供とはいえ……」


常務「馬鹿者、白玉きくりを甘く見るな!何のためにわが社のチート社員である大崎をわざわざプロデューサーに回していると思っている!」


大崎「五人程度で数時間世話しきれるならば私が直々に有能であることを認めてやっても構わんぞ。出来るものならな。テイチョス、あの子の異名はインプットされているか?」


テイチョス「いや、未入力だ」


常務「ならば覚えておくといい。あの子の異名は『BSK』……」


テイチョス「BSK……?」


常務「『バーサーカー・しらたま・きくり』だ!!」

【武闘大会】闘士VS弱虫【Aブロック第二試合】

 Aブロック第二試合、青コーナーからは鬼も驚く筋骨隆々腹筋バキバキの女性、グラッセ・マロンキントンが入場。まさに武道大会にふさわしい戦闘士のようなその体格は会場の空気を一変させ、大歓声が巻き起こる。今回、ドレスタニアから審判を買って出た精霊エルギスは、グラッセのたくましい姿に感激し、まだ到着していない赤コーナー『取地金しゃも』選手が入場するまでの間に余興として小さなデモンストレーションを提案した。
 対戦前に体力を減らしてしまうのではないかと心配したガーナ王があの脳筋の暴走を止めるように伝えると、グラッセは会場の中央でエルギスからマイクを受け取り応えた。
 
「心配はない!私は戦士だ!手の内を隠すような弱々しい真似はしないし、与えられた試練から背を向けたりはしない!その瓦、今ここで割ってみせようじゃないか!!」
 
 猛々しい声が会場にこだまする。高く積み上げられた12枚の分厚い瓦は、デモンストレーションで良く使われるという割れやすいノッシ瓦ではなく、職人の技術によって丹念に焼き固められた非常に丈夫なサーン瓦。鬼でさえ、3枚以上重ねられれば素人には難しいものである。学問の観点からその存在を知っていた実況のタニカワ教授はそれを説明し、人体に相当なダメージが残りかねないとしてエルギス審判に訴えたが、グラッセはそれすらも意に介すことなく口許に嘲笑うかのような笑みを浮かべた。
 身体中の全神経を右拳に集中するグラッセ。深呼吸はやがて唸り声に変わっていき、一気に気合いの咆哮を放つ。
 
「ふああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
 
 巨大な叫びは広い会場の隅々まで響き渡り、まるで波動となって、反射した振動が行き場を失い雑音のように広がっていく。その音はまさに地響き。グラッセの身体は筋肉が膨張し、ギリギリと音を立て始めた。
 そして、足先から腰へ、腰から肩へ、肩から肘へと高まった力を一気に解放し、空を切り裂くが如く思いっきり瓦へ拳を振り下ろした。
 
「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!だりゃああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!」
 
 爆発音と共に砂ぼこりが舞う。弾き出された破片がカラカラと音をたてて落ちていく。雄叫びが止まり、残響が静寂へ変わるその瞬間、右腕を剣のようにブンと振り回して埃を振り払ったグラッセの足元には、原型の面影すらもない粉々の瓦と三方向にひび割れた床が見えた。
 会場は割れんばかりの歓声をあげ、胸を張って仁王立ちするグラッセを称えて嵐のような拍手を贈った。かのガーナ王も顔つきを変え、一瞬だけ目を見開きつつ口許を緩めた。
 グラッセは女性でありながら男を遥かに凌ぐ、正真正銘、本物の『闘士』である。その誇り高き姿に多くの人々は優勝候補の予感を抱いた。
 
 
 
 
「(かか……か…………勝てるわけ……ないじゃないかぁ…………)」
 
 彼はその光景を、誰よりも近い距離……具体的には目の前でしっかりと見てしまった。足が震え目が霞み、溢れ出る冷や汗が足元を濡らし、急激に襲いかかる吐き気に思わず声を絞ったままの嗚咽が込み上げる。下腹部に熱をもった湿り気を感じ、不甲斐なさと圧倒的恐怖、更には耐えきれぬ後悔に涙する。
 
 そう、実はこの『取地金しゃも』選手、何を隠そう『最初からその場に居た』のである。
 
 アスラーンである彼の身に授かったその呪詛は、『恐れた対象から身を隠す』というものであり、勇気を出して入場したものの極度の人見知りが災いし、その観客たちの視線すらも『恐がってしまった』のだ。
 そして反射的に帰ろうとしたが、グラッセが入場した瞬間の突然の歓声に足がすくみ動けなくなってしまったところで、いきなり目の前に積まれていく瓦、瓦、瓦。指先すらも震え、腕すら上がらなくなってしまった瞬間にあの大きな咆哮、しまいには、丁度『股間の真下』を貫いた拳。大人の階段を登り始めたしゃもにとってはあまりにも屈辱的な、女性の目の前での失禁というダメ押し付き。尚更バレるわけにはいかなくなったしゃもの呪詛は、もはや微塵の気配すらもこの世から消え去るほどであった。
 
「(あああぁぁぁ……こんな歳で、こんなにみんなが観てる場所で……もうやだよおぉぉ……!!なんで僕ばかりこんな目に……!!う、うずらが勝手に申し込んだりしなければ、こんなことにはならなかったんだ……女の子との喧嘩ですら一度も勝ったことないのに僕なんて……勝てっこないじゃないかぁぁ……)」
 
 取地金うずら。16歳。ウソ泣きの上手い、しゃもの妹である。うずらは頭がよく、誰に対しても愛想がいい。ツインテールでアイドルのような外見と、人懐っこい性格から、取地金家は近所からも評判だった。だからこそ弱虫の兄・しゃものうじうじとした性格が目立ち、兄妹は常に比べられて育ってきたのである。だがしかし、実はこの評判はすべて天才児であったうずらの作戦であり、うずらはしゃもを踏み台にして常に世渡り上手でいたのだった。
 ある日、珍しくテストの点数が悪かったうずらは両親への報告をうやむやにするため、しゃもの名前を使ってこの武道会の申し込みをし、両親をこころの底から喜ばせた。あの弱虫なしゃもが自分の意志でこのように勇気ある大会に参加したことを祝福したのである。しゃもはうずらに頼まれて隣町まで特売のヤサイの買い物中であり、口の早いうずらは既に近隣住民を味方につけ、しゃもが気付く頃にはその期待のまなざしは引くに引けないものとなっていたのだった。
 
 かくして取地金しゃもは、うずらの策略によってまんまと武道大会に出たのである!なおうずらは現在連休を利用してクラスメイトとラビリンスまでバカンスに行っている。
 
「いつまで時間を稼いでいる、取地金しゃも!!私は逃げも隠れもせずここにいるぞ!!かかってこい!!」
 
「(ひいいいぃぃ……!!)」
 
 大声で赤コーナーに呼びかけるグラッセ。そのパフォーマンスに熱狂し巻き起こるグラッセコール。もはやこの会場は、グラッセのホームと化していた。目立つことを嫌うしゃもとは対照的に、グラッセは嫌がることなく観客のエールを歓迎する。
 
「不戦勝にはしないのか、審判!!この空気では、来たところでブーイングは避けられまい。今、自業自得で敗退した方が恥をかかずに済むのではないか!」
 
「(は……!そ、そうだ……このまま怖がったままやり過ごせば僕は居なかったことになる……!!父さん母さんには悪いけど……『どうせあいつのことだ、逃げたんだろう相手強そうだったし』って呆れられる程度で終わる筈だ……)」
 
 しかし審判は首を振る。Aブロックまさかの、二連続の選手の遅刻。もはや観客の熱はいつ冷めるかも知れない状況であったのにも関わらず、エルギス審判はそれを許可しなかった。
 
「まだだ!!彼はまだ若いが、男!!紛れもない男なんだ!!諦めるわけがない!!必ず来る筈だ、しゃも君を信じろ!!俺も信じろ!!うおぉ、負けるなしゃも!!苦しくても立て、立ってこの場に来てみろしゃもぉぉぉ!!」
 
「(なああぁぁ余計なことをしないでくれえええええぇぇ!!!)」
 
「やれやれ……。まぁ良い。逃げるならばそれも良し、来るならばなお良し。私は男でも女でも、大人でも子供でも、挑戦者には敬意を払う。だが、向かってこない軟弱者には興味などない……向こうで休ませてもらうぞ審判!」
 
 グラッセは手に持ったマイクを投げ渡し、ステージの端まで歩き出した。が、その先には……
 
「(へっ!?ま、待って!?こっち来る……!?いやそれはダメだ!!絶対ダメだ!!逃げないと、逃げないと!動け!!動けよ僕の足!!うごけええええええええええええ!!!!!!!)」
 
 そう、願い空しくすっかりと動けなくなったしゃもが居たのである。
 
「……む?」(ホニュン♥)
 
「わわわ、わぶっ!!」
 
 女性とは思えぬ身長差から、胸元に顔が埋まるしゃも。恐怖で硬直した手足は抱きつくような姿勢で固定され、固そうな見た目とは裏腹に大変柔らかいスベスベの肌の感触が密着して伝わって来る。威圧感からゴツく見えるグラッセだが、その体型は誰もがうっとりするほどグラマラス、顔つきはとても凛々しく美形であり、体温はほっこり高め。至近距離からは潤いを保ったやわらかな唇と輝く金色の眼が見える。そしてキツすぎない仄かな心安らぐ果物のようなボディソープの香りは、ティーン真っ盛りの少年には余りに刺激が強すぎた。
 心臓の鼓動音が、古代の楽器を連想される激しいBPMで喧しく鳴り響く。どれほど声を殺していようとも、百戦錬磨の戦闘の達人であるグラッセには密着した状態でのこの振動、無論、気づかぬ筈は無かった。
 
 対戦相手の、闘士の女性の肌に抱きつくこの状況、興奮を上回る程の死の恐怖にしゃもの鼓動はどんどん速度を増していく。気絶寸前のしゃもを前にグラッセは無表情で立ち止まる。
 
「……成る程。面白い。見えぬ身体……貴様、それが己の能力か」
 
 しゃもは答えない。というより答えられない。うずらのお陰で完璧な女性恐怖症となっていたしゃもが、あろうことか大胆にも胸元に顔をうずめたという事実、そして半裸の身体に密着し続けている状況が、男の本能を刺激し、思考をドロドロに溶かし続けた。至近距離から直接伝わる女性ホルモンは、彼を夢の国の向こう側へと連れて行ったのである。今、しゃもはショックにより植物人間と化したがしかし、建前の思考とは裏腹に本心の動揺は、肌を伝わる汗と鼓動、全身の熱と震えでもってすべてグラッセに伝わっていく。
 
「さて、気配を殺し、私の身体に組み付いたまでは評価してやろう。だがどうする。姿を見せぬ限り勝負は始まらないぞ。今何をしたところで、貴様の反則負けだ。……闘士ならば正々堂々、胸を張って姿を見せよ!」
 
 会場は未だグラッセコールで興奮中であり、エルギス審判は赤コーナーに向かってエールを送り続けている。会話は誰に聞かれる事もないというのに、しゃもは一言も発しない。やがてグラッセは、床から立ち込める異臭に気がついた。
 
「……まさか……。貴様……いや、君……。君は戦いに来たのでは無いのか……?」
 
 目の前の見えない塊を手で触りながら、それがなんなのかをゆっくりと理解するグラッセ。震え続けるしゃもを抱えたまま冷静に彼の心拍数を数え、額と思われる位置に掌を置いて体温を測り、胸元を濡らす涙と過呼吸ぎみの呼気の湿気を感じ取る。戦闘のエキスパートであったグラッセには、姿を見ることもなくしゃもの状況を分析でき、そして即座に理解してしまった。
 
 
 
「……(私はこの状態を知っている。……かつて、平和に暮らしていた私達一族の前に現れた野蛮な者たち……まだ幼児であった私は真っ先に捉えられ、腕の中で声を殺したまま咽び泣いた。……その時の記憶は私が最も捨てたい過去……しかし、何よりも鮮明に覚えていることだ……。この少年のように臆病で、どれだけ泣いても過去は取り戻せないと悟った時、私は……強くなる道を選んだ……)」
 
 
 
 思い出される嘆きの過去。かつてどの部族よりも優しく、命の尊さを見守ってきた『キントン族』。その生き残りが彼女、グラッセ・マロンキントン。グラッセとはキントン族の言葉で『儚さ』を意味し、マロンとは『慈しみ』の心を示す。怒りに身を任せ、修羅を歩み続けていたグラッセは、されど正真正銘の『キントン族』であったのだ。
 
「……少年」
 
 沸き立つ歓声の中、二人の静かな時間が共有されていく。震える背中を支え、恐怖を和らげようとしゃもに言葉を投げ掛け続けるグラッセ。その声は澄んでいて優しく、温かく、安心する。
 しゃもは母親のおなかの中にいるような心地よさの中で、意識を徐々に取り戻していった。
 
「……あれ、僕は……」
 
「……良く聞け少年」
 
「!!ひっ……」
 
 再び震えようとしたしゃもの身体をグラッセはひしっと抱きしめ、勢いあまって再度胸の奥に顔を埋める形になる。だが、そこに恥ずかしさはなく、途方も知れない幸せをしゃもは感じていた。
 
「私はとても強い。この身体は長い月日を注いで磨きあげた武器であり、この心は精神統一の日々を乗り越えてきた私の生の証だ。故に、君に負けることは絶対にないと言い切れる。……だが、『強い』と言ったのは体のことじゃない」
 
「……」
 
「強さとは、『勝利』のことじゃない。『肉体』のことじゃない。……どんなにみっともなくとも、どんなにみじめであろうとも、『立ち上がること』だ。……君はね、最強の私の前に、こうしてずっと立っていたんだ!君は、私が認める強い男なんだよ、少年!!」
 
「!!」
 
 気付けば、グラッセは確かにしゃもの目を、しっかりと見つめて話しかけていた。真剣そのものの表情に嘘はなく、しゃもの鼓動は激しく、されど強く、猛々しく鳴り響いている。しゃもは自分の中に、全く知らないもう一人の自分を感じていた。それは勇気ある自分。誇り高い自分。そして、いつか夢見たまま心の奥底にしまっていた、『最強の自分』である!
 
「(……今まで考えもしなかった……これが本当の僕……。一体何を恐がっていたんだろう……一体何に怯えていたんだろう……戦うことも、向き合うこともしないで、僕は勝手に自分を押し付けていたんだ……僕は、本当は強いんだ……!!)」
 
 キッと前を向くしゃも。震えは止まった。鼓動は高鳴っている。そして、一切の恐怖は払拭された。弱虫なしゃもではなく、武闘大会の一選手として、男として、そして、一人の『闘士』としてのしゃもであった。その姿は気高く、ついに誰の目にもハッキリと姿を現したのである。
 
「……ようやく会えたな。戦士しゃも!!改めて名乗ろう……我が名は『グラッセ・マロンキントン』。『優れた動体視力のシックスセンス』を持つ、誇り高きキントン族の末裔だ。」
 
「初めまして、グラッセさん。……僕はアスラーン、名は『取地金しゃも』。『己が恐怖した相手から見えなくなる呪詛』の妖怪です」
 
「……良いのか?自分の能力を、そんなにもあっさりと明かして」
 
「えぇ……。いいんです。だってきっと……」
 
「……」
 
 
 
「僕には、『二度と使えない呪詛』ですから……!」
 
 
 
 迷いのない目は、自信に満ち溢れている。会場の誰もが目を見張って驚いた。あの、筋骨隆々な猛々しい女闘士に、未成年であるあの若者のアスラーンが憶することなく対峙しているのだ。
 そして誰よりも驚いた者……それは、会場に来ていた両親であった。
 
「あのしゃも造が、あんなに強そうな選手を前に胸を張っておる……!」
 
「えぇ、お父さん……。あれが私たちのしゃもなんですよ……!私は信じていたんですよぅお父さん……!」
 
 圧倒的歓声によってざわつく会場の向かいにある実況席に座る解説のガーナ国王は、一人眉間にしわを寄せて集中した。あの少年から感じる覇気からは『素質』を感じさせる。『覇王』と恐れられしガーナだからこその観察眼である。善性か、悪性か、それは誰にも分らないが、確実にあの『取地金しゃも』という少年は……
 
 『王』としての才能が覚醒しかけていたのである。
 
 ガーナ王のその表情を見たタニカワ教授は、背筋に悪寒を走らせた。あの強大な力の予兆は、かつて世界を恐怖に陥れたという兵器『エアライシス』にわずかに似ていた。使い方次第、教え方次第で、良いものにも悪いものにもすぐに傾いてしまう曖昧な力の渦。複雑な心境の中で、ただ二人の決着を見届けるしかなかった。
 
 この短時間で著しく成長をしたあの『しゃも』という少年。彼の才能は、たった今グラッセの愛によって開花したのである。ついに、二人の決戦が今!!始まる!!
 
「よし、それでは両者離れて……試合、開始ぃぃぃぃぃぃぃ!!」
 
「来るがいい!!しゃも!!」
 
グラッセ!!これが僕の全力の力だ!!!はああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!」
 
 真正面から勢いよくとびかかるしゃも。その雄たけびの迫力は、会場の人々の心を強く震わせた。あの優男の姿は、どんなに過酷な状況であろうと決してあきらめない、まさに『英雄』の姿である。
 ある者はしゃもと共に叫び、ある者は涙を流し、その一瞬に皆が目を奪われたのである。実況席に座っている王と教授は、彼のその得体のしれぬ才能の正体を今、確信した。
 
 『カリスマ』……。弱きものの心を知りながら、強き者として立ち向かう、それこそが王たる条件。国が、時代が許していたのであれば、恐らくは脅威となっていたことだろうと元国王はのちに語る。
 
 決着はすぐに決まる。そう、誰もが確信し、長い長いその一瞬を見守った。
 
 
 
 
 
「……(少年。忘れないでほしい。人はみな強く……そして儚い。)」
 
「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
 
「……(強さの源には、『弱さ』があるんだ……)」
 
「あああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
 
「……(そして、その弱さを知りながらも……弱さを抱えながらも『強き者』に立ち向かう姿こそが……!!)」
 
「ああああああああああああああああぁぁぁぁぁ喰らええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
 
「その姿こそが!!『真』の強さなんだああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 かくして、『取地金しゃも』対『グラッセ・マロンキントン』の戦いは決着した。
 
 巻き起こる拍手の音は選手が退場するまで弱まることは無く、
 
 担架で運ばれるしゃもの勇姿を称え続けたのだった。
 
 
「見えるぞしゃも。見えるさ。この私にも、観客にも、かの国の王にも、はっきりと見える。本当に強い、『英雄の姿』がね……。君は、恐れを知らない本物の闘士だぞ……」
 
 
 
 Aブロック第二試合、勝者、『グラッセ・マロンキントン』

【アイラヴ祭】晶まどか、参戦!!

まどか「盛り上がってんのかばっきゃろー!!」


『うおぉー!!もえる!!もえるぜあきらちゃーん!!』


『最高だぜあきらちゃーん!!』


『激萌えだぁー!!』


まどか「っしゃー!!今日もアツく騒いで燃えつきてってくれよなバーニィーン!!」

 

 

 


戸田P「……(あの出会いから早半年。俺の思った通りの大反響だ。もう、路上なんて小せぇ場所で苦情気にして吠えることはねぇ、もうわかっただろ?おめぇの居場所はステージなんだぜ、アキラ!)」


まどか「信じらんねーぜ戸田P……観たか……?ついにおれのソウルはライヴ会場を満席にするほどアツく燃えたんだぜ!!おめーのおかげだ戸田P!!」


戸田P「……」


まどか「……?どうしたんだ戸田P……お、おめーだって嬉しいだろ……?目標タッセーだぜ、なんか言えよぉ!!」


戸田P「バカヤロー!!こんなことで喜んでんじゃねーぜアキラ!!」


まどか「なっ……!?……ど、どーしてだ戸田P!!おれわかんねぇぜ……!!良いことじゃねーのかよ!!」


戸田P「ったく、小物みてーに小せぇことではしゃぎやがって……いいかアキラ。確かに俺たちはこれまでこのステージを満席にすることを目標としてきた。だが、これは『通過点』だ。俺たちはまだスタートラインにすら立っちゃいねぇ!」


まどか「なっ!!こ、この歓声が……この熱が……まだ準備運動だったってのか……!?」


戸田P「ったりめーだ。俺がおめーと交わした約束、忘れてんじゃねぇだろうな、アキラ。俺はおめーになんっつったよ?え?」


まどか「……はっ!!世界を……変える……!!」


戸田P「そうだ!!俺たちの目指す地点は『人気アイドル』なんてちゃちなもんじゃねぇ。とるべきもんはただ一つ、『トップアイドル』だ!!世界をロックで染めるんだろ、アキラァ!!」


まどか「う、うおぉぉぉ!!トップアイドル!!ロックの頂点……!!おれは、全世界のソウルを征服すんだ……!!こんなとこで立ち止まっていられねー!!」


戸田P「おぉアツいぜ!!そうだ、それがおめぇだアキラ!!そのアツいシャウトで全世界を『萌え萌え』にしちまえ!!」


まどか「わかったぜ戸田P!!伝わって来たぜ、アツいソウル!!おめーのロックがよぉ!!任せな!!おれがこの星全ての魂を『燃え燃え』にしてやるからよー!!」


戸田P「おう!!(はっははは!!笑いがとまんねぇぜ……!!こいつは思った通りの……いや、それ以上の逸材だった!!就活に失敗しこんなしょっぺえプロダクションにしか入れなかったが、俺様の野心はまだ燃え尽きちゃいねぇ……!俺とコイツで獲ってやるぜ、アイドルのテッペン、あの『ドレプロ』をよぉ!!)」


まどか「……で、具体的にこっからどーすんだよ戸田P。通過点だってんならよー、この先またどんどん新しいことすんだろ?もったいつけねーでおしえてくれよ!!おれがんばるからよー!!」


戸田P「ったく、落ち着けアキラ。おめぇもアツくなってばっかじゃカッコつかねぇぞ。時にはクールになんだよ、それでこそロックじゃねぇのか」


まどか「んだよばっきゃろー、冷めちまうじゃねーか!……わかったよぉ……」


戸田P「よし(今の『わかったよぉ』、超可愛いなおい……)。いいかアキラ、よく聞け。おめーの次に目指す場所はここだ!」


まどか「あん?『プロアイドル合同強化合宿』……?ちょ、ちょっと待てよぅ戸田P!!ま、まさかこんなナンパな場所に行けってんじゃないだろーなおめー!!」


戸田P「そのまさかだ。おめぇはまず、ここの天下を獲れ。俺たちのスタートはその後だ」


まどか「か、カンベンしてくれよ……!!だってこんなん、おめー、『ふりふり』で『ぴょんぴょん』してやがるようなオンナばっかが集まる場所だろーがよ!!こんなとこ行ったら、おれのシャウトが甘ったるくなっちまうよ!!」


戸田P「ビビってんのかアキラァ!!おめー、こんなアイドル共に戦う前から尻尾巻いて逃げるつもりかよ!?」


まどか「んだとぉ!!おめー!!ケンカ売ってんのか!?ゆ、ゆるさねーぞチキショー!!」


戸田P「あぁ!?なんだなんだ、おめぇの言う『ロック』はアイドルの世界じゃ通用しませんでしたってことか!?おめぇのシャウトはアイドルが束になったって敵いっこねぇんじゃなかったのか!?えぇ!?」


まどか「ち、ちきしょー好き勝手言いやがってコノヤロー……ちぃっ!!わかったよくそー!!」


戸田P「(舌打ちを声で再現すんのたまんねーな)」


まどか「出りゃいーんだろ!!こうなりゃヤケだ!!こんなアイドルだなんてヌルいヤツら、おれのアツいハートで燃やし尽くしてシンリャクしてやっからな!!それよりてめー、このおれにでけークチ叩いてどうなるかわかってんだろーな!!」


戸田P「わかってらぁ!!俺も覚悟の上よ!!なめるんじゃねーぜアキラ!!」


まどか「よしっ!!それじゃあよぉ!!」


戸田P「おう!!行くぞスイパラ!!おめぇの好きな『バニラヨーグルトパフェ』、好きなだけ食いやがれ!!」


まどか「やったぜー!!財布空っぽにしてやっから覚悟しとけよバカヤロー!!」


戸田P「(わりぃなアキラ、あの店、食べ放題だからいくら食っても俺にはノーダメージなんだよ!!チョロいぜハハハ!!!)」

ロボット系男子

「来週の連休さー、エスヒナんちでしゃぶしゃぶやらない?」


「いいよー。ってか、ほんとしゃぶしゃぶ好きだねぇリコちゃん」


「ったりまえよ!ほら、豚肉ってコラーゲンあるし美容にも良いしさー?体もあったまるじゃん!」


「野菜もちゃんと食べなよー?そんで他にだれ誘う?」


「んだねー、ラミ呼べば紫電も来るかなー」


「男子はおっけー?」


「ダメー。しゃぶしゃぶは女子パがいい」


「わかるー」


「コムコムとか、無害そうなのは考えてもいーね」


「でもどうする?案外鍋奉行だったりして」


「あはは、ありえるかも!あいつめっちゃかったいからねぇ~!」


「おっと、噂をすれば!」


「おぉ、待って!ナス先と一緒じゃん……!」

 

 

 


「レンティナス先生」


「どうしたコムタム」


「小テストの問い3、「Aのとった行動の対象は何か」の答えについて、消去法で点はとれたものの、今一腑に落ちません。例文から明らかにコーンスープとなりますが可能性としてはコーヒーの方が正しく思います」


「出だしの四行目においてAの育ちは貴族では無いと強調して描写されたことを失念しているのだろう」


「フードではなくドリンクだという解釈でしょうか」


「そうだ」


「納得しました」


「ところでコムタム。このプリントを小等部まで届ける時間の余裕はあるか」


「至急でしょうか」


帰りの会の前までに優先されるべきものだ」


「5分の猶予があります」


「助かる」


「それはワタシが届けよう」


「テイチョス先生」


「よろしいでしょうか」


「代わりに高等部へ過去問題用紙を頼みたい」


「ではそれは私が持っていこう」


「ありがとうございます」


「そしてワタシはレンティナス先生に用件を伝えに来た」


「優先度は?」


「緊急連絡との事」


「了解。して用件とは」


「明日の防災訓練はエリーゼ先生の出張により中止です。レンティナス先生の通常授業になりますので教科書等の忘れ物をしないよう、お伝えいただきたい」


「了解。至急向かいます」


「ところでコムタム。先日のテストの最終問題が空白だったが見過ごしていたのか」


「いえ、代入の数値を導き出す為に必要な数式が用紙の余白では足りないと判断した為暗算で行いましたが、とても一日では計算不可能であった為間に合いませんでした」


「そうか。ちなみに正解率は0%だ。スペクター先生の悪ふざけなので気にしないように」


「了解しました。ところで、正解は0.831で合ってますでしょうか」


「合っている。答えを導き出した生徒は君で二人目になるな」


「もう一人とは?」


「バクセラ・ヴァッサメローネだ」


「納得しました」


「正解した生徒にはスペクター先生が賞状をくれるそうだが」


「結構です」


「了解した。部活動の活動時間が明後日から変わる。気を付けるといい。それでは、失礼する」


「ありがとうございます、テイチョス先生」

 

 

 

 


「……異次元の会話だね」


「頭いたくなるわー……」


「コムコムとレンティナス先生とテイチョス先生が鍋やったらどうなるかな……」


「もはや工業地帯www」


「工業地帯wwwヤバいねwww」


「超見たいwww」

封印された日

 かつてのドレスタニアは暴虐の王によって一度、煉獄の地へと変貌した。文字通り焼き払われた瓦礫の中で一人、膝から倒れた彼の王は、終わらない怨嗟の日々を根源から断ち切る代償としてこの地を生け贄に捧げる決断をしたのである。
 国民は一時的に故郷へと返し、出身がドレスタニアである者達はシルフィールに避難させるも、その詳細は家臣にすら知らされることはなかった。
 孤独のまま死に逝く運命によって呪われた『紅い血』は尽きる。独断の決行は、死後に国民が忌むべき存在がこの血であったということを知らしめる為の布石。悪政を敷いた血族であるにも関わらず国民に愛されていた弟であれば、後の世に恨まれることはないだろうと、出来ることならばこの名に縛られず生きてほしいと最期に祈る。
 騎士団長ショコラ。氷のように冷徹でいて、炎のように暖かいと言われたドレスタニアの聖騎士。戦場においての評価はいかに相手の首をとったかで決まるが、彼の戦果は騎士団最多の出撃回数に反しゼロ人。仕留めることなく戦意を喪失させるという剣の腕前は、疑う者もいない程、人間離れしているものだった。
 戦場に出ること幾星霜、実践で得た彼の優れた観察眼は、王である兄の考えを透視するまでに至る。まるで予知にも似たその力をもって、この日を既に見据えていたのである。そして彼は情報を集め続け、兄よりも早く、この地の異変の答えに辿り着いてしまった。
 一時、ショコラはこの世界から消えていたことがある。誰もが知るドレスタニアの記念公園、その中央にある噴水の流れる水路の先、手順を踏まなければまず気づくことの無い、文明に反する仕掛けの先に、遥か過去より隠された場所がある。否、そこはドレスタニアではなく、まるで産まれたばかりの異界の空間。見渡す限りの青い空は、ガラスの世界のような閉塞感が胸を苦しめる。
 何者かの手によって作られた世界を、何者かが閉じ込めている。きっと時間ごと止まっている。その世界は、何かを隠すように、決して見つからないように、幾重にも仕掛けを施して、巻かれたゼンマイを閉め続けていた。そのような世界に、ショコラは辿り着いてしまったのである。
 ドレスタニアの呪われた血とは、恐らくこの封印された世界のものだ。そしてその力は、やがて厄災をもたらす。故に、こうして封印されているのだろう。その鍵と一目でわかるように、丘の先に刺さっている一本の剣。これを抜けばドレスタニアは呪われる。そしてその呪いは、この剣でしか対抗し得ないものだとショコラは理解した。きっとこの剣は、何年も、何千年も、この世界を守り続けたのだろう。そして、これからも守るのだろう。ならばこれは抜くわけにはいかない。そう考えることが当然だった。


 だが、もしもこの封印しているものが、何千年もの時をかけて『別の手段』を手にいれていたら……。
 ショコラは兄、そして父の研究を思い出していた。妖怪という種の謎と、異質な進化形態。そして産まれた、新たな災厄。兄が命をかけて焼き払わんとしている、『呪詛』の存在。すべてを喰らう者。もしもそれが、この剣の封印している何かに通じているのならば、ショコラは剣をとらねばならない。厄災は、この剣でしか倒せないのだから。
 抜いてしまえばこの世界は再び何者かに脅かされるかも知れない。一度溢れた呪いは、再び封印することは難しいだろう。封印されるとわかっている者達が、対策をとらないわけがない。


 それでも、ショコラは抜いた。それは、かけがえのない家族の為でもあり、世界中、全ての人々の為でもあった。


 そこから先に何があったのかは、ショコラにもわからない。剣を抜いた代償に、自分が虚空と化していることが実感として感じ取れる。辺りを見回すと、黒い泥のようなもので世界が汚染されていた。目の前に現れ、突然飛びかかってきた幾何学的な何かに驚き、手にした剣で切り裂くと、泥となって飛び散った。
 あぁ、この黒いものは、肉片なのだ。この世界を染めたのは、自分なのだと理解するのに時間はかからなかった。よみがえってくる客観的な記憶。汗一つかかず、表情を変えず、しかし怯えながら無我夢中で魍魎を斬り続ける自分自身。止まった時の中で、体感としておよそ何ヵ月かの間、この世界に溢れる呪いを斬り続けていたのだ。
 意思など持ち合わせていないであろうその呪い達は、ただゼンマイが動き出しただけで、自動的に襲いかかってきたのだろう。この剣を丘に突き立てた者を止めるために。
 空にはヒビが入り、隙間から黒い空が覗く。あそこからこの世界を染めていくのだろう。封印は解かれた。これからは侵食されないように努めなければならない。きっと、その為の自己破壊なのだ。


 丘から戻ったドレスタニアは、炎で紅く染まっていた。煉獄の炎が燃やすのは、黒い泥達である。一つ一つの種火を切り払い、消していく中に大きな火柱が上がる。
 そこに居たのは厄災の呪いを身体に受け、外に出すまいと己を焼く兄の姿であった。


「ただいま戻りました、お兄様」


出るはずの涙も凍てついたショコラは、誰にも知られる事なく、孤独にこの日の出来事を封印したのである。

【武闘大会】女帝VSおみくじ【Aブロック第一試合】

 Aブロック第一試合、オーロラ信仰精霊、『女帝』こと、キャヴィアーヌ・トリュフォア・ド・グラウニウス26世、対するはおみくじ信仰精霊、吉凶みくじ。開始早々から精霊同士の加護対決という題目にどのような頭脳戦が待っているのかと期待が膨れ興奮冷めやらぬ観客達であったが、みなの本命である名前からして謎の深い女帝・キャヴィアーヌの到着が遅れて既に三十分が経ち、期待が空回りし続けた事によるストレスで、空気がどんよりとざわつき始めていた。
 
「不戦勝!!これは私の勝ちであるべきですよ審判!!何故なら相手が逃亡したからです!!早いとこ私の勝利を確定させてしまいましょう!!ね!!いいでしょうもう私の勝ちで!!往生際が悪いです!!」
 
 椅子もない戦地に立たされ続けてついにしびれをきらしたみくじは、せわしない様子のままキスビットより派遣された審判役を務めるアルファ、テイチョスに対し抗議を続ける。内容は不戦勝を認めろというものだ。
 この大会の基本ルールでは、審判が候補者の中から毎試合ランダムで決まることになっていて、勝ちも負けもその時の審判次第である。無論、複数の審査員より『公平』であることを認められたもののみが審判を務める事ができ、彼らの一言が試合において絶対である。当然ながら、安全性を第一に、万が一の時にも身体を張ることのできるエキスパートたちだ。
 テイチョスは表情を変えず、静かに彼女を説得する。
 
「それはできない。トラブルの可能性があるからだ。今しばらく待機していただきたい」
 
 やれやれ、というジェスチャーを加えながらいなし続ける。そう、彼はこういう手合いの扱いを知っていた。誰かさんの我儘はこの比ではないのだ。歳の差もそこまで離れていない為、いつものように真顔で言葉を受け流し続ける。
 しかし、時間稼ぎはみくじにとって逆効果であった。この少女、テイチョスの良く知る女の子よりも大胆であり、端的に言って『節操』がなかった。あの手この手を試しつくそうという気合がオーラのごとくあふれていることを、『問題児センサー』にてキャッチしたテイチョスは、一筋縄ではいきそうにない事をすぐに予感した。
 
「そんなことしたら間に合ってしまうではないですか!!私は勝ちたいのですよ!!楽して!!運良く!!漁夫の利で!!ですのでえぇ、それなら仕方ありません!!サービスしますよ審判さん!!ほ、ほら!!おへそくらいなら見せてあげますから!!ちらり!!ね!?是非ここは私の勝ちにしてください!!よろしくお願いします!!」
 
 謎の焦りからプライドまでかなぐり捨てて色気皆無のやわはだを晒す。はっきり言って魅力のかけらもありはしない、少々だらしのないちょっとむっちりした腹部。華奢ではあるが筋肉が赤子のソレであり、内臓が持ち上がらずみっともなくややたるんでいる。つまるところ着やせしたら安心してしまうタイプだろう。これに魅了されるものは相当なニッチであることは明白である。
 会場の客達がいる前でも堂々とろくでもない交渉をするみくじに呆れて苦笑するものもいれば、その図太い精神にむしろ感心するものまでいた。
 
「ワタシはアルファだ。色欲の機能は備えられていないし、審判の買収は反則行為にあたる」
 
 みくじは彼の機械的な反応にわざとらしくびっくりし、両手を上にあげてひょうきんに笑う。はっきりいって彼女にとっても相当恥ずかしいことなのだ。しかしもしかしたらという期待にワンチャンかけてみたものの、いざ意味が無かったと知ればこれはもう本来ならば切腹モノの恥さらしである。だが、そんな限りなく低い可能性にかけなくてはならぬほど、今のみくじには余裕がなかったのだ。
 
「なんですとぅー!?今の無し!!無しでお願いします!!っていいますか試合まだ始まってないですしセーフ!!ギリギリセーッフ!!はい!!次行きましょう次!!」
 
 ぱっぱぱっぱとさらなる作戦の為に袖から目薬を取り出す。次は少女という年齢を活かして泣き落とし作戦を決行するハラだ。そんな様子も会場からは丸見えであり、誰もがその時こう思った。『それは恥を晒す前にやれ』と。
 そうこうしているうちに、何やらただならぬ気配を察知する。
 
「やれやれ……。む、生体反応アリ。どうやら間に合ったようだ」
 
 選手の入場コーナーから規則正しい足音が聞こえてくる。会場の全員がその音に注目し、みくじは一人頭を抱え、絶望的な顔でその場にうずくまった。
 
「ああぁ……不戦勝かと思ったのに……!戦う前におみくじ引くんじゃなかったですよ……!!今日の私は大凶なんですよおぉぉぉぉ!!」
 
 冷や汗と涙を垂らしつつあわあわとろくろを回すしぐさで心を整えようとする。『運気が悪い時は一時的に信仰を捨てろ。むしろその方がマシになる』とは、父がまだ母と出会ったばかりの頃に、ビシっとかっこいい服と絶景のデートスポットの丘で、いざ告白しようとした瞬間に頭に鳥の糞が落ちてきた時に学んだという吉凶家に伝わりし格言である。端から見ればずいぶんと怪しいが、出来合いのエア・ろくろに浮気信仰している真っ最中であり、これは大まじめの儀式なのだ。
 
「七番!早く壇上に…………?なんだこの夥しい数の生体反応は……」
 
 異様な気配に審判と言えども身構えるテイチョス。しばらくして現れたのは、数にしておよそ数百、たぐいまれなる屈強な肉体をもつ、ガチムチな精霊軍であった。ぶっちゃけるともう加護に頼る必要すらない見た目で分かるほどのタフガイ達。したたる汗にドン引きするみくじは普通にヤバイものを見た女の子らしい心からの悲鳴をあげ、多足類を連想させる全く新しいムーヴで隅っこまでシャカシャカと後ずさる。
 
「ひ、ひえぇぇ!!なんですかあの軍団は!!どれが対戦相手ですか!!出来れば端っこのやや小さい人がいいんですけど!!って、何あのキングサイズのベッド!?」
 
 むさくるしい大群の真ん中辺り、みれば、兵士達が大きなベッドを御輿のように担いでいるではないか。金の光沢に色鮮やかな宝石が埋め込まれた単純にしてゴージャスな最高級っぽいベッドである。それを肩に担いだまま整列した兵士達は、声を揃えながら百獣の王の如く猛々しく叫ぶ。
 
『女帝様のぉ!!おなーりぃぃぃぃ!!!』
 
 会場の歓声がかき消される程の叫びは、ビリビリと空まで響いた。戦士たちによる一斉咆哮、会場の全ての者たちがびっくりしない筈もなく、有無を言わせず静寂に包まれる。しばらくするとベッドから起き上がった、細く、艶やかで、太陽の輝きに反射するお肌が綺麗で、それはそれは眩しい、大変に、もう大変に、超、超、超グラマラスな女性が、ゆっくりと腕をあげておしとやかにあくびをしたのである。
 
「……ふあぁ……。妾のお昼寝を妨げる者は誰ぞ……」
 
 そう、それはただのあくび。なのになぜ涙が出てくるのだろう。眩しく、芸術的な程美しく、その場にいた者はみな見惚れてしまう程に神々しい。女帝を中心に七色の輝きが放たれる。キラキラと、色味豊かに光だす。昼のオーロラ……それはきっと誰もが予想すらしなかったものだろう。辺り一面が楽園と化す、幻想的なこの世界そのものこそが、彼女の持つ加護である。
 
「おぉ……これは……辺り一面が七色に……」
 
 アルファといえどこの現象は解析不可能。何故なら、これは『信仰』だからである。そう言ってさえおけば誰も口を挟めないのが、精霊のズルいところである。故にこの美しさは、データに表すことは不可能。生で見れない者たちは残念だったと、のちに語られることだろう。
 
「寝起きこそ美しくなくてはな……妾の加護ぞ……ありがたく受けとるがよい……ところでここはどこぞな……」
 
「はわわ、ただのあくびがとてつもない美しさ……断食後に見る霜降おにくのよう……つ、強そう……」
 
 ビクビクとしながらもなぜかよだれをたらしかけるみくじ。当然、このみくじも精霊の一人。一般人とは見えているモノが違う。同じ精霊同士、相手の格が知れてしまうというもの。だからこそみくじは恐怖したのであった。
 満を持して登場したこの女帝こそ、第一試合の対戦相手、オーロラ信仰の加護を持つ大精霊キャヴィアーヌである。
 ……だが、本人は何がなんだかわからないといった顔で辺りをキョロキョロ見回していた。
 
『女帝様!!誠に恐縮でございますが、第一試合でございます!!』
 
「第一試合とな……。はて……」
 
『武道大会にございます!!女帝様自ら家臣の反対を押しきって参加表明をしたことをお忘れですか!!昨夜まで再三お伝えして参りましたがやはりお忘れですか!!』
 
「あぁ……そんな話もあったな……が、しかし許せ……鏡を見ると妾のあまりの美しさで忘れてしまうゆえな……」
 
 これはまずい、と察する兵士。それもそのはず、この幸せそうなうっとりとした顔つき……『二度寝』の予兆なのだ。焦る兵士に割り込むように、彼女の前に立つは審判、テイチョス。
 
「……試合放棄であれば八番の不戦勝となるが……」
 
 女帝は扇子を持つような手つきでパタパタと顔をあおぎつつ、テイチョスに向けてクスクスと微笑んだ。仕草一つにまばゆい輝きがついて回る。これがテイチョスでなければ恐らく身動きすらとれないことだろう。見てほしい、あのみくじの可哀想な姿を。残念ながらあれほど濃いキャラとして初登場デビューしたはずの彼女が、インパクトで完全敗北である。あの涙はきっと目薬ではないだろう。
 
「そこなアルファよ……。それでは、妾を運んで来た美しき兵士たちに申し訳がたたぬであろう。受けてしんぜよう、その試合とやら……感謝するがよいぞ……」
 
「ち、遅刻してなお上から目線……!!このひと強い……!!」
 
 不適な笑みを浮かべるキャヴィアーヌ。だがその行動も全て美しく映えることに下唇をかむみくじ。信仰度の違いでここまで誰にでもわかるほど圧倒されるものなのかと、父親に対し妖怪ばりの呪詛の念を送る。
 このまま付き合っていてはらちがあかないと判断したテイチョスは、みくじを横目にしつつ多少強引に試合開始を試みる。
 
「それでは改めて試合開始の合図を……」
 
「ちょーっとまったああぁぁぁぁ!!」
 
「うむ……?」
 
 この土壇場に来て大声をあげ試合開始を新たに阻止しようとしたみくじ。もうアルファであるにも関わらず非常に億劫な顔を作るテイチョス。まだ何かあるのかと一周回って期待する観客。これが最後のチャンスとみたみくじ。目を優しくこする女帝。
 
「どうした8番。トイレは試合前に済ませるようアナウンスした筈だが」
 
「と、トイレじゃないですって!!ハレンチですねあなた!!そんなことよりですねぇ、試合の前にここはひとつ、お近づきの印にとおみくじなぞ用意しておりましてぇ」
 
 お前どこから出したんだ、とヤジが飛ぶ謎の大きな六角形の箱をシャカシャカとふりながら、みくじはまるで営業スマイルのような笑みで近づいた。この顔は確実に良くないことを企んでいる顔だ。その場の誰もが一瞬で悪事の予兆を察したが、目をこすっていた女帝はぼやけまなこでよく見えなかったので、普通に反応してしまったのである。
 
「おみくじとな……?」
 
「えぇ、おみくじですよおみくじ!この試合の勝負の行方を占うんですよ女子っぽく!!ね、いいでしょうこういう趣向も悪くないでしょうそうでしょう!?」
 
 やべぇこと企んでる、と警戒し、ゴッツ重そうな剣をがちゃり、と構える兵に対し、女帝は美声のまま「よい」と兵を止めて微笑んだ。
 
「ふむ……現代のおなごの戯れというものか……。美しくは無いがしかし妾は好意を無下にしない系のナウい女帝よ……アゲアゲよな……」
 
 唐突な若者言葉にみくじは一瞬ひるみかける。当然、兵もひるみかける。意外にも軽すぎて観客もひるみかける。だが、みくじはこれをチャンスとばかりに、食いぎみでたたみかける。
 
「あぁーっ!!話がわかる女帝で良かったです!!なんかすいません!!ではお先にどうぞ!!しゃかしゃかぽい!!」
 
 サッと六角形の箱を前に出すが、一瞥してベッドから降りようとはしないキャヴィアーヌ。騙された感満載で困惑の表情をつくるみくじ。いや、思い出せ。今お前が騙してんだよみくじ。
 
「妾は引かぬ。そなた、代わりにはよう引いて参れ」
 
『は!恐悦至極!』
 
「ななな、なんですとおおおぉぉぉぉ!?!?」
 
 唐突に指名された兵士はガシッと六角箱をつかみ、ひっくり返してシャカシャカした。みくじの顔が青ざめ、冷や汗がだばだば出る。ふふ、と微笑みながらキャヴィアーヌは、両手を太陽にかざしてうっとりと語る。
 
「この通り……わらわは既に『まにきあ』を塗っておるでな……今日一日、何も持つことかなわぬ……ふふ……美しきかな……」
 
 そんな馬鹿な、と兵士が振っている箱を奪い返そうと、みくじが咄嗟に飛びついた決して痩せてない自身のウエストよりはるかに太いその二の腕は、みくじ程度の重りなど空気のようなものであると知らしめるように止まらない。あられもない顔で身体ごと降られながらみくじはおみくじの中止を訴える。
 
「ちょっ!!ちょっと待って貰えます!?やっぱりおみくじ無しにしましょう!!えぇ!!絶対大凶ですから!!意味ないですよおみくじなんてははは!!ね、お返しください!!ちょっと、あっ!!ダメ!!」
 
 その忠告に手を止めた兵士がひっくり返していたおみくじ箱から、強烈な急ブレーキの拍子におみくじ棒が出てきてしまった。しかしその棒は、まるで血塗られているかのごとく真っ赤であり、でかでかと『大凶』の文字がかかれている。
 
『女帝様!!ご報告致します!!我らの大凶でありました!!』
 
「あっぶねぇぇぇぇぇ!!っしゃああぁぁぁぁぁ!!」
 
 みくじはガッツポーズで吼えた。何事かと誰もがその奇行に驚き、何か敵に塩を贈ってしまったのではないかと顔を青くした兵士は、キャヴィアーヌに跪き頭を下げて謝罪した。
 
『申し訳ございませぬ!!なんなりと罰をお与えください!!』
 
「よい……おみくじなど気の持ち方次第よ……よい、妾は許す……大義であったぞ……」
 
 愉快愉快と、邪気のない笑顔で許すその顔に、兵は至福を感じていた。かくも美しい女帝からの許し。今の彼にとってこの笑顔こそが大吉であったのだ。
 微笑ましい一連の流れをぶった切るように、みくじは顔芸レベルの邪悪な笑みを浮かべ、女帝に向けて指を指す。
 
「ところがどっこいぎっちょんちょん!!そうはイカの黄金焼き!!ひっかかりましたねぇ!!近くばよって目にもみよ!!これがわたくし吉凶みくじの天駆ける大吉ですよぉ!!」
 
 バァン!!と手に大吉のおみくじ棒を掲げたみくじ。その姿に感心した様子の女帝。そう、先ほどのだらしない少女とは比べ物にならない程の『出来る女オーラ』がみくじに宿っている。彼女の加護、『おみくじ信仰』の真骨頂である。彼女はこの『大吉』という結果に対し、どんな天啓よりもアツい信頼を寄せるのだ。故に、博打じみた瞬発性の加護であり、この大会のように短期決戦の戦いにおいては恐ろしいほどの効果を発揮する。特に、この加護には『それまでの運気が最悪だった時程大吉の効果がアップする』という特徴がある。当然、おみくじとは『良い結果だけはガチ信用するもの』だからである。必死なのだ。
 
「……ほう……。小娘にしては見事と言わざるを得ない加護を感じるではないか……。よいよい、げに美しき信仰よな……」
 
 漏れ出す加護の気を読み取る女帝。他の精霊の信仰度を一目で判断するのは一流の精霊たる証拠でもあるため、会場の精霊たちはみな女帝の持つポテンシャルに注目した。無論、みくじも一瞬動揺したが、自身の有利が傾くことはないと自分に言い聞かせふんばった。何せ大吉である。
 
「大吉により私の総戦力はおみくじを引いた相手に対してのみ竜人をしのぎます!!うふふ、負ける気がしないっ!!さぁ、試合開始です審判さん!!」
 
 ドヤ顔が場の空気を燃え滾らせる。みくじの大吉パワーは、今まさに自覚となって現れる。間違いなく今の自分は『大凶より強い』のだ。何故なら、大吉だからである!
 
 が!!
 
「引いたのは妾ではないがの」
 
「あっ」
 
「試合開始!!」
 
「ちょまああぁぁぁぁぁぁ!!!待って待って違うんですうううぅぅぅぅ!!!」
 
 パニックに陥るみくじを前に、女帝はゆるりと動き出す。光の残像がオーロラを作りながら放物線を描く。送り出すように光り輝くベッドから、まるで重力を無視するがごとく、優雅にふわりと地上に舞い降りた。
 
「久々の真剣勝負よな……ふふ……腕がなるわ……」
 
 その長い髪が太陽光に撫でられて七色の輝きを放つ。当然会場はその様子にみな見惚れたまま。そのあまりの美しさに言葉までも失い、会場は静寂に包まれた。
 
『女帝様がお立ちになられた!!なんてお美しい姿!!』
 
 鼓舞するかの如くほめたたえる女帝の従者達。一丸となってエールを送られる姿はまさに大国の王たる証拠。まぎれもない、正真正銘の女帝の姿がそこにある。このキャヴィアーヌ、まさに本物のカリスマがここにある。
 場の空気に飲まれかけたみくじは、圧倒する覇気に負けないよう、大声を張り上げながら目を見開くと、女帝に向かって一目散に走りだした。
 
「くうぅぅぅぅぅ!!こうなったら先手必勝!!全身全霊の捨て身タックルううぅぅぅぅ」
 
「……」
 
 疾走するみくじから目をそらすこともなく見つめ続ける女帝に、兵たちはまるでうろたえるかの様に騒ぎ出す。ここに来て更に予想外の行動を起こせるのかと、彼女に可能性すら感じてしまう。一応、彼女も大吉である。相手が大凶ではないとはいえ、このタックルは『大吉』のタックルである。それはある意味、とても怖いものなのかもしれない。
 
『女帝様!!まともに受けては危のうございます!!お避けください!!』
 
 一人の兵士が絶叫にも近い忠告をするが、尚も女帝は動かない。ぶつかるあとすんでのところで静かに目を閉じると、口元に優しい微笑みを浮かべて呟く。
 
 
 
 
「……足が痺れたでな……」
 
 
 
 
 会場は再び凍てついた。
 
「どりゃあああぁぁぁぁ!!」
 
 一人、状況を把握せず無我夢中で雄たけびをあげて向かってくるのはまぎれもなく対戦相手の精霊である。いかに少女であろうと、全くの無防備な相手に対しての全力のタックルは相当の衝撃になるに違いない。だらしない身体がここにきて武器に代わる。これぞ大吉パワー。そして、このみくじ……岩をも砕くと言われる程に、石頭で有名なのだった。
 一流の精霊であれば、息をするかの如く自然と自らの因果律を遡ることができるという。かくいうこのキャヴィアーヌもまた、自他ともに認める大精霊であった。眼を開き続けることで、この先身に降りかかるであろう出来事を嫌でも予測してしまう。
 
「(あれなるは、恐らくあの日、ウミガメのスープで口をやけどしてしまった時に勝る痛い出来事なのだろう。ならば妾には耐えられぬ)」
 
 女帝・キャヴィアーヌは痛みに対する覚悟を考えるのをやめた。
 
「あぁ……これが世にいうところの走馬燈……ふふ……これはこれで美しいものだが……なかなかおもはゆいではないか……」
 
『女帝様ああぁぁぁぁぁぁ!!』
 
 
 
 
「そこまで!!」
 
「オヴッッ」
 
 アルファ式ホイッスルが鳴り響く。息をのむような攻防の決着は、審判であるテイチョスの手で止められた。勢いを殺すことなく突っ込んだみくじのみぞおちが鈍い音を響かせ、その美しくない音に女帝は恐る恐る目を開いた。
 
「……おぉ、審判とやら……」
 
「勝負あり!!戦意喪失により8番の勝利!!」
 
 審判の右手が大きく上がる。同時に、会場からは割れんばかりの拍手が巻き起こる。終わりよければすべてよし。この勝負、精霊同士のハイレベルな掛け合いがあったのだと、よく訓練された観戦者達は脳内補完したのである。あの女帝相手によくぞ敗けずに戦った、次も応援するぞ、と会場から激が飛ばされる。
 だが、肝心の勝者である吉凶みくじは遅れて襲ってくる残酷な痛みに集中しており、その声が彼女の耳に届くことは無かった。
 
「ミゾオチ……ハイッテ……ガクリ」
 
 みくじの綺麗な気絶顔を見て、女帝はほほ笑んだ。足のしびれがやっととれたのである。そして、会場の歓声につられてなんだか楽しくなってきたので、とても清々しい顔で会場から去っていった。
 
「げに美しき試合であった……みくじとやら……ないすふぁいとであったぞよ……」
 
 上機嫌な女帝がみくじを称賛する意味を込めて去り際に放ったオーロラの輝きは、この世のものと思えないほどの美しさであり、その場のものはみなその光景に目を奪われた。みくじのみぞおちが大変なことになっているという現実を誰もが忘れ、夢心地な気分のままで女帝の退場を見送った。
 
「誰か……オイシャサマを……ゴフッ」
 
 みくじは会場で一人、腹部の痛みを相手に第二ラウンドを繰り広げていた。故に彼女はしばらく目覚めることはないだろう。しかし、彼女はあの女帝に勝ったのだ。運も実力のうち。これもまさに『大吉』のお陰である。恐るべしおみくじ信仰。恐るべし吉凶みくじ!!
 
 Aブロック第一試合、勝者は精霊・吉凶みくじ!!せめて読者だけは、彼女に惜しみない拍手をお願いしたい!!