PFCS SS劇場!

パラレルファクター カルティベイトサーバーのSSをまとめるブログです。主にツイッターでのやり取りを纏めます!

【アイラヴ祭】不穏な進捗

目白「…………」ブツブツ


常務「む……おはよう、目白。今帰りか……」


目白「…ントラ……ベントラ……スペースピーポゥ……」


常務「おい、目白。聞こえてないのか?」


目白「ヒイイイイィィィィィ!!!!!!!!あ、常務……お憑かれ様……です……」


常務「お、おう……朝四時の廊下でやられるとさすがの私でも困る反応だ……」


目白「……なんでもないわ……うん……この人は大丈夫だから……」


常務「(誰と話しているんだこいつは……)」


目白「珍しくお早いのですね……常務も屋上で交信ですか……?」


常務「いや、やり残しが少しあってな。ちょうど良い、軽くお前の方の進捗も報告してくれないか。本の少し受け答えする程度で構わん」 


目白「えぇ……わかりました……良いですよ……」


常務「すまないな、帰りがけに。蘭のプロデュースはどうだ?」


目白「上手くいってますよ……ランさんは素質があるのか喚びやすくて……」


常務「喚ぶ……?」


目白「私の手持ちの水晶も全部染まりましたし……今は特に貯まってますから……」


常務「……ソロデビューの舞台は決まったのか?」


目白「申請はしておりますので相手様次第です……。ランさんも毎晩相手の子を意識して森でたくさん打ってますので心配はいりません……」


常務「意味はよくわからんがとりあえず準備は出来てるということか……。相手、というと共演の予定だな?手の空いたアイドル、誰か残っていたか……?」


目白「お暇な方がいるではありませんか……。うふふ……まだハッキリと決着がついていないんでしょう……?」


常務「お前まさか………………いや、なるほどな……確かに悪くないな……くくく……わかった、手配してやる。その代わり、次は警備を固めた上での全国配信だ。不正はさせんぞ」


目白「ありがとうございます……ランさんもお喜びになります……」

 

 


常務「楽しいことになりそうだ。初めてだよ、あいつに再戦を申し出た奴は……」

『ユグドラシル』の言い伝え

「ところで、ジェリー婦人とはどういった関係だ」


「なんです、藪から棒に」


「いや、知り合いのようにもとれる話し方だったのでな。同じく、グノーメアは人間と共存する精霊の都の一つだろう」


「えぇ、元は私たちも一つの国ですからね」


「精霊史は部外者に厳しくてな、あまり資料も寄贈されない。戦後は特に警戒も強く、我が時代は受け入れられることは無かった。平和になりつつある今こそ、彼らの文化を知りたいのだ。これは王としてではなく、個人的な探求心なのだが……」


「私の知っている範囲でしたらいつでもお答えしましたのに」


「時代が時代だ。若い頃の私ならば、その内容次第では危険因子とみなし早期に潰すこともありえた。過激派が何かしようものならお前にも訪ねたが、彼らは復讐心に取り込まれるほど弱者では無かった。唯一、遥か昔からシルフィールとは親睦があったが故に、義理を守る必要があったのだ」


「まぁ、ご安心ください。そこまで重大なことではありませんよ。先祖達が精霊と共存を始めたのは、一つの国の内乱による分裂が始まりです。その国は、世界樹を信仰する大いなる聖都『ユグドラシル』」


「ふむ……?ユグドラシルといえば、精霊作家の『C・C・プディング(キャラメル・カスタード・プディング。ペンネーム)』による長編小説、『腕輪物語』の架空の国ではなかったか?」


「あれは、史実を元にしたファンタジー小説ですよ。高齢の精霊達的には結構懐かしいシーンとかあるらしく、それもあってベストセラーです。子に伝えたい本ナンバーワンですね」


「若者向けの流行小説に出てくる魔法の国が実在していたとは初耳だな。もはや伝承のレベルか」


「太古の話ですからね、私も長老達が子供に聴かせるおとぎ話のような形でしか知りませんでした。ユグドラシルには火、水、土、風の四属性を全て保有する、森羅万象の象徴だったと聞きます。ただ、信仰を続けるにあたり、加護として授かる属性にばらつきが生じ、『我こそが一番の加護を授かった精霊だ』と主張する四人の祖が現れたのです」


「力の奪い合いか。人間も特別な力、例えば強大な兵器などを前にすると、あるものは他者に使われることを恐れるが故に、あるものは他を服従せんがために、欲と恐怖によって醜く争い合うものだ。愚かだと、本人達すら理解していてもな」


「一説によりますと、ユグドラシルに宿るとされた大きな竜が、世界を護るために四人の守護者を選定する目的で自身の力を四分割したとも言われていますが……残念ながら、争いの結果世界樹は枯れてしまい、直前に残された種を各地に植えることになりました。大いなる意思によって人間の住む四つの土地に植えるよう啓示を受けた四人は、それぞれ民を募って別れたそうです」


「ふむ。その土地の選定に何か共通点は存在するのか?」


「信仰心ですね。当時の人間達にも信仰はありました。とはいっても、生きていく為に豊穣の祈りを捧げたり、山の怒りを沈めたりするために神殿を建てたりと、神々への信仰ですね。世界樹の根の張っていたところでもあったそうな。私たち人間側も、神の遣いとしてやってきた精霊が起こす数々の奇跡を喜び、快く受け入れたと」


「なるほど。また興味深い言い伝えだな。戦争で随分荒らされてしまったが、未だ健在なのは素晴らしいことだ」


「四人の精霊長も一度の過ちを心底悔やみ、ユグドラシルが枯れたあとは受け継いだ種を植え、いつの日かまた一つの世界樹に育つまでと代々伝えていったのです。風は私の国でもある『シルフィール』、土はジェリー婦人の故郷『グノーメア』、他にも、火の国『サラマンド』や水の村『ウィン・ディーネ』と、それぞれ四方に別れていますね。ジェリーとは親戚同士の腐れ縁です」


「グノーメアとシルフィールは城側に近いが、サラマンドとウィン・ディーネはかなり遠いな。これらにも知り合いはいるのか?」


「いえ、どちらも癖の強い国でしたから。子供の頃と、ショコラ様が即位された後に外交官として訪ねたことは何度かありますが、今でもあんまり行きたくはないです。特にサラマンド」


「ふむ、差し支えなければ」


「声がうるさいんですよ。全力で挨拶する文化があるようで暑苦しいです。火山も近くて肌にも良くありませんし……。あと、ウィン・ディーネ村の人たちは凄く心配性で、よそ者が来るというだけで男女問わずすぐ怯えて影に隠れてしまい、何故か無駄に罪悪感がありますね……」


「それは色々と凄いな……。シルフィールの民も自由気まますぎて困ったもんだが」


「のびのびしてて良いじゃないですか。戦闘になると好戦的ですが……。それを言い始めたらグノーメアも大概ですよ」


「働きすぎで死者がでるくらい真面目だな。仕事熱心といえば聞こえは良いが、休みを与えるとかえってストレスになる難しい民達だ……」


「なんでも、去年のグノーメアの子供達が憧れる有名人第一位はショコラ様だそうですよ」


「あんまりあれを真似されては困るのだが……」


「参考になりませんからね……」


「今度サラマンドに顔を出しに行こう。案内を頼む」


「えぇー……なんでまた。エルギスさんとかで良いじゃないですか」


「いや、実はサラマンドの精霊には聞きたいことがある。レーヴァテインは恐らく彼らと関わりがあるのではないだろうかと思うのだが」


「まぁ、そういうことならお供しますよ。確かに、その剣には随分禍々しい加護を感じますし」


「危険因子の可能性も大いにある。あまり考えたくはないが、他にもこういった『世界を壊す兵器』があるかもしれん。悪意に満ちた輩に見つかる前に回収したい」


「今屋上でお金数えてる人とかですか?」


「俺が先に見つけたら、真っ先に王の旦那に売りやす。安心してくだせぇ」


「だからお前に見つかるわけにいかんと言ってるのだ……」


「旦那は金払いが良いですからねぇ……くっく、確かに、領収しやした」


「昨日も『仕事』してもらったんですか?あんまり彼を頼るとろくなことありませんよ……」


「いやその、賭けポーカーでだな……」


「……」


「まぁ、金の心配はない。ちょっとギャング転がしとけばすぐ貯まるからな。次は負けん」


「ちょっと用心棒さんを雇ってきます」


「おい待てわかった、わかった!!もうやらんから!!この通りだ!!」
「ただの悪ふざけでさぁ!!冗談に『兵器』持ち込まれちゃたまったもんじゃねぇですぜ外交官の姐さん!!」


「(今度からこの作戦で行こう)」

ジェリー・ムース・バーバロア嬢

エリーゼ「公園にお菓子をばらまく貴族が現れた?」


兵士「はっ、馬車で駆けつけては、大量のお菓子をばらまき、高笑いして去っていくそうです」


エリーゼ「それは、危ないわね。一部に毒でもまぜられたら大変だものね」


兵士「そ、それは残酷であります……!なんて悪魔的発想!!思ってもいませんでした!!」


エリーゼ「……だから侵入者一人に攻め入れられるでしょう、あなたたち……。少しは頭使いなさい」


兵士「は、はっ!すいませんでした!!」


エリーゼ「とにかく向かうわ、それはどこの公園?」

 

***

 

エリーゼ「ここね、怪しい人は……と、あれは……!」


ジェリー「オーッホッホッホ!!さぁ皆さんお拾いなさい!!ガムとチョコレートですわぁ!!オーッホッホッホ!!」


エリーゼ「誰かと思ったら、ちょっとジェリーさん!?何をされているのかしら!?」


ジェリー「オーッホッホッホ!!ごめんあそばせ、エリーゼさん。見ての通り、支給品を庶民の皆様にお分けして差し上げておりますの。邪魔しないでくださる?」


エリーゼ「そういうわけにもいかないわ。こんな国民の警戒心を下げるようなことは私が認めません。今すぐ配るのをやめなさい!!」


ジェリー「な、なんですの突然!?法律上の問題はありませんことよ!?ちゃんと確認しましたわ!?」


エリーゼ「配り方ってもんがあるでしょう!貴女のせいで国民を縛る法律が増えたらどうするおつもり!?罰則はなくても、倫理的にアウトよ!とにかく、馬車を降りなさい!!」


ジェリー「納得がいきませんわ!!わたくし、皆様に感謝されることはあっても、迷惑をかけることはしていませんわよ!!恵まれない国民たちに愛のお菓子配りですわ!!」


エリーゼ「子供じゃないんだから……いい?あなたのは国民の救済ではなくて、『餌付け』よ。そうやって国民をいたずらにたぶらかしてるとね、そのうち国民は貴女に甘えっぱなしになって、自分で何もしなくなる。一日だけならまだしも、継続的にやられては国の将来性にも影響が出てしまうわ。それに、悪い人が貴女を模倣して毒入りのお菓子をばらまいたり、どさくさに紛れて貴女の配るものの中に一つでも何か良くないものを混入させたりしたら、どうするんです?」


ジェリー「ど、毒……!?え、エリーゼさん、なんて恐ろしい犯罪を思い付くんですの……。サイコの発想ですわ……」


エリーゼ「貴女ね……。はぁ……つまり、ことと次第によっては問題が起きかねない方法をしているの。すぐにやめないとしょっぴきますわよ?」


ジェリー「わ、わたくしはただ、『もしお金持ちになったら、貧乏な子を助けたい』っていう幼少期よりの夢を叶えたかっただけですの……。人助けが犯罪になるだなんてこれっぽっちも考えていなかったのですわ……」


エリーゼ「まぁ、戦前は貧しい国の生まれで、戦後、地下鉱脈発見による莫大な富で爵位を得たバーバロア家の事情もわからないわけではないわ。思想事態は淑女として尊敬すべき正しい事よ。ですから、人助けするにもちゃんと手順を踏みなさい」


ジェリー「どうすればいいんですの?わたくし、お金は毎日三食程のカルボナーラをいただける位手元にあれば充分ですわ。ドレスなら自分で編みますもの」


エリーゼ「そうね……お金の使い道がわからなければ、今ある孤児院に寄付するとか、学校に教科書を買うとか、そうすれば恵まれない子にもちゃんと届きますわよ」


ジェリー「ほんとうですの!?あ、でも……今配っていたお菓子は、施設に入っていない子達に向けて行っていたのですわ。私は、今苦しい子達にむけて届けたいんですの……」


エリーゼ「慢性的な孤児院不足は我が国の悩みの種でもありますからね……。どうにかしてあげたい気持ちは我が国王も持って活動しているわ」


ジェリー「そうですの!!『お菓子を配るのがダメなら孤児院を建てれば良いじゃない』ですわ!!」


エリーゼ「そうねそれなら……って、貴女ちょっと、それは流石に寄付しすぎじゃ……」


ジェリー「構いませんことよ!!わたくし、貧しい子の為ならなんだってしますもの!!孤児院の設立はどれくらいかかるのかしら?20億ドレスタニアドルくらいで充分かしら……」


エリーゼ「我が王宮より遥かに大きな城が建つわよそれは……200万ドレスタニアドルくらいでも大層立派な孤児院ができますから、他は活動費に回しなさい……」


ジェリー「となると次はどこに建てるか、ですわね……。子供たちが遊べて、空気も美味しく、ホスピタルの近い場所が好ましいですわ。何匹か羊や鶏も飼って、命を育てながら楽しく過ごしていけるような……」


エリーゼ「貴女ったら、本当に献身的なのね。どうしてそこまでして尽くそうとするの?」


ジェリー「……戦争の記憶が胸に残っているから、ですわ。貴女方シルフィールの民は戦死が主でしたでしょうけど、私の国『グノーメア』は『餓死』が普通でしたの」


エリーゼ「……そう。ねぇ、ジェリーさん。貴女には貴女にしかできない事が沢山あるわ。でも、貴女に出来ないことが貴女を苦しめたときは、私や王にご相談下さいね。私たちにとっては、貴女も『救われるべき国民』なのですからね」


ジェリー「エリーゼさん……。えぇ、わかりましたわ。ご迷惑をお掛けしたことを、再度改めてお詫びいたします」


エリーゼ「良いのよ。孤児院の完成、楽しみにお待ちしてます」

 

***


ガーナ「なるほど。それであの大きな建造物を建築中という訳か」


エリーゼ「えぇ、久々に有意義な建造物ですから、仕事の際に度々立ち寄ってしまいます」


ガーナ「しかし、探してみれば随分と多いな、孤児の数は……なぜ今まで把握しきれなかったのかが気になるが……」


エリーゼ「彼らの主な生活方法は、スリや窃盗だそうです。兵士や我々から逃げてたんじゃないでしょうか?」


ガーナ「平和になっていくように思えても、表面上の話だけなのかも知れないな。バーバロア嬢はどうなさっている?」


エリーゼ「未だに孤児を集めてお菓子を配っています。前みたいに大々的に行っているのではなく、一人一人に手渡して歩いているみたいですわね」


ガーナ「立派なことだ。食堂の使用を許可するとお伝えしろ」


エリーゼ「はい。ありがとうございます」


ガーナ「孤児院ができたら伝えたい者が何名かいるのだが……また、複雑な気持ちだな、これは」


エリーゼ「どなたをお呼びしたいのです?」


ガーナ「セレア、解剖鬼、グリム殿、ハサマ様」


エリーゼ「一度に呼ぶのは難しいですね……」


ガーナ「思想は同じ筈だが、立場ややり方、環境が違う。国との戦争の縮図そのものだ。こればかりは致し方あるまい」


エリーゼ「少しずつでもわかりあえたら素敵なことですけどもね」


ガーナ「この孤児院には、どこかそういう啓示を感じさせるものがあるな」


エリーゼ「ショコラ様もさぞお喜びになることかと思われます」


ガーナ「あぁ、ようやくあいつらしい国になってきたようだ」


エリーゼ「本当に……」

【アイラヴ祭】普通という『個性』

紫電「それじゃ、またあとでな」


タオナン「ひとこ、気を付けなさいよ。あたし達もうプロなんだから!変な人についてっちゃダメよ!?」


紫電「気が早すぎだぜ!?まだ世間に出てないってのに」


ひとこ「あはは、うん、気を付けるね。行ってきます!」

 

 

 

 


紫電「……とは言ったけど、やっぱ心配だなひーちゃん……」


タオナン「何も小学生ってわけじゃないんだし、おでかけくらいで心配しなくたっていーでしょ」


紫電「いや、気のせいだと良いんだけどさ、その……ひーちゃんってもしかして、自分が目立ちにくいこと、気にしてるんじゃないかってさ……」


タオナン「……やっぱ紫電もそう思う?」


紫電「タオも?」


タオナン「自分らしい歌詞にって烈火が言ったとき、ひとこ、若干表情が曇ったのよね。あの子って結構、考え続けちゃうタイプじゃない?思考の輪から抜け出せないっていうか……」


紫電「前回、烈火さんの精霊ライブの後もさ、俺も落ち込んだけど、ひーちゃん程じゃなかったよ。繊細なんだよな、ひーちゃん……」


タオナン「あたし達が能天気すぎるっていうのもあるかもしれないけどね」


紫電「自覚はあったんだな……」


タオナン「でも、あの子は繊細だけど、逃げたりはしないじゃない。きっと解決してくるわよ」


紫電「そうだよな。俺たちはいつも通りにしてないと、かえって悩ませちゃうもんな」


タオナン「そうね。自然で行くわよ、自然で」


紫電「自然……自然……」

 

 

テイチョス「……??(タオナンが珍しく掃除をしている横で紫電が何故かジェンガをしている……何かあったのだろうか)」

 

 

***

 


ひとこ「心配させちゃったかな……はは、悪い癖だよね。すぐ顔に出ちゃうんだもんなぁ……」


『ファンが聴きたいのは、うまい歌じゃなく《個性》。自分らしさを歌詞にすること。特に……いっこちゃんはね』


ひとこ「烈火さんはずっとわかってる。まだ、私は何にもなれてなくて、何かになるのが怖いんだ……。でも、デビューっていうのは『アイドルになる』ってことだから……。私も何かにならなきゃいけない……」


『天帝はみんな、《この分野において誰にも負けない》という何かをもっておる』


『負けん気なら誰にだって負けないわ!!』


『俺は鬼だから、どんな無茶だってついてくぜ』


『この歌の続きを、私はいつか歌いたい』


『僕にも夢があるんだ。決めていたことだから』

 


━━ひとこは、なんでアイドルになったの?━━

 


ひとこ「……っ」


ひとこ「(二人の足を引っ張るだけかもしれない……。ただアイドルになってみたかったって、ただ、天帝を近くで観たかったからって、生半可な気持ちでここまで運良くやってきて……。私、馬鹿だ……。後悔したって、もう退けない……)」


ひとこ「……ぐすっ」

 


ひじき「あらあら、たまに外の空気を吸いに来てみれば、良いことあるものねぇ。道に迷ったのかしら?」


ひとこ「……!!あ、あなたは……!?」


ひじき「あら、あなた、レンくんと一緒にいたひとこちゃんじゃない。どうしたの?こんなところで独り泣いちゃって」


ひとこ「ひ、ひじきさん……!?あ、あのっ、これはその……」


ひじき「ほら隠さないの。気にしなくていいわ、作ってる笑顔なんかよりずっと素敵な顔なんだからぁ。とりあえず、上がんなさい?」


ひとこ「え、あの、ここに住んでるんですか……?」


ひじき「そうよ。凄いでしょう?」


ひとこ「(お、おんぼろのアパートだ……)」

 


***

 

ひじき「何か飲む?お酒はダメな年齢よねぇ……あら、大変、一番新しいジュースが賞味期限4か月前だわぁ……」


ひとこ「あ、おかまいなく……(少女漫画の上にカップ麺の容器……爪切りと綿棒……マスカラ……?)」


ひじき「こぶ茶しかないけど、ごめんなさいね。多分大丈夫だから、多分」


ひとこ「す、スゴく、変わった生活されてますね……」


ひじき「女性なんてみんなこんなものよぉ。見た目ばっか綺麗でも仕方ないわ。ありのまま生きたら、トップアイドルなんて言われててもファンたちと何も変わりない。どうでもいいものねぇ、私生活なんて」


ひとこ「で、でも、もし何かでこんなところ見られでもしたらまたスキャンダルになっちゃうんじゃ……」


ひじき「わたし、隠してないわよぉ?普通に配信してるし、部屋の写真何枚もブログに載せてるもの。ファンも知ってるわよ、良く怒られるけどもね、掃除しろダメ女って」


ひとこ「えぇ!!……なんてメンタル……」


ひじき「そーれーよーりっ、何か悩んでるんじゃないのぉ?隠してないで吐いちゃいなさいよ。気になって仕方ないわ」


ひとこ「そ、そんな、ひじきさんに迷惑かけるわけには……」


ひじき「迷惑どころか、楽しみで呼んだのよ。蜘蛛に捕まった蝶々らしく、観念しなさいな」


ひとこ「……その、私……今度ユニットの曲でデビューすることになったんです」


ひじき「あら、凄いじゃないその若さで。余程期待されてるのねぇ」


ひとこ「でも、三人組の中で、私だけが影が薄いんです。個性もなくて、でも、その曲の歌詞を自分らしいものに変えなくちゃならないんです……」


ひじき「(烈火が作曲してるというのは知っているけれど、また酷な課題を出しちゃうんだからぁ、あの子ったら……)」


ひとこ「私の個性ってなんでしょうか……私に個性なんてあるんでしょうか……私は……」


ひじき「個性って、どういうものかしらね。ひとこちゃんはどんな子が『個性がある人』だって思うの?」


ひとこ「えっ……そのっ……例えば……特徴的で覚えやすくて……」


ひじき「ふんふん……」


ひとこ「一言で言えばコレっていう、何かがあって……」


ひじき「なるほど?」


ひとこ「みんなから注目されてるような……そんな人です」


ひじき「じゃあ、ひとこちゃんは自分の事を一言で言えばなんなのかしら」


ひとこ「わ、私ですか……?えっと……『普通』っていうか……」


ひじき「それなら、試しにちょっと電話してみましょうか」


ひとこ「電話……?誰にですか?」


ひじき「あなたの『ファン』達に、ね」ピポパ


ガチャ


烈火『しのっち?どったのいきなり。お金は無いよ?』


ひじき「ごきげんよう烈火。ちょっと聞きたいのですけどぉ」


烈火『なぁにぃ?お金は無いよ?』


ひじき「あの新人アイドルの、『フツーの子』いるじゃない?なんて名前だったかしらぁ……」


烈火『ひとこの事?ま、まさかしのっち!あたしのいっこちゃんにまでタカろうってんじゃ』プツ


ひじき「危なかったわねぇ」


ひとこ「あ、あの……一体……(お金……?)」


ひじき「まだわからないかしらね。それなら次は……」ピポパ


ガチャ


常務『なんだひじき。給料は一昨日払ったばかりだろう』


ひじき「常務さん、お疲れ様です。一つお聞きしたいのですけどぉ」


常務『先に言っておくが前借り制度は一昨年に廃止している。なんだ?』


ひじき「最近のぉ、あの『フツーの子』いるじゃないですかぁ。」


常務『霜月ひとこのことか。あまり他アイドルの情報をお前には言いたくないんだがな。それより貴様、この事務所宛の大量のピザの請求書は一体なん』プツ


ひじき「間一髪だったわねぇ」


ひとこ「(請求書……?)」


ひじき「もう、鈍いわねぇ。片っ端からかけるわよ?」ピポパ


ガチャ


レン『普通?ひとこの事かなぁ。ところで、この前の打ち上げの代金が君だけ1000円足りないと思うんだけど』プツ


こはね『フツー……多分ひとこ……ちゃんと名前で呼んであげてほしいの……私にも気持ちわかるから……あと……毎回お財布もちゃんと忘れず持ってきてほ』プツ


セレア『ひとこをフツーと呼ぶでない!気にしてるかも知れないのじゃ!!それと、わらわのグッズ転売してるのっておぬ』プツ


ひじき「どう?わかった?」


ひとこ「フツーと言うだけで……私だってみんなすぐ気づいて……」


ひじき「そう。『普通といえばひとこ』って、みんなはすぐにあなたを思い浮かべるわ。『普通』があなたの『個性』なんだもの」


ひとこ「普通が個性……考えもしませんでした……でも、それって良いことなんでしょうか……普通って……」


ひじき「順序がぎゃくなのよ、ひとこちゃん。人って言うのはね、『覚えたい』と思うから『覚える』の。普通っていうのはただの『あだ名』よ。あなたはその前から魅力的で、魅力的だから注目される。そのあなたの魅力に名前をつけるとしたら、『普通』という名前が付くだけよ。あなたが普通なんじゃない。『普通があなた』なのよ。まだ難しいかしらね……」


ひとこ「普通が、私……普通という魅力……あの、ひじきさん……私は、普通のままのアイドルで良いんでしょうか……」


ひじき「良いのよ。むしろ、あの二人とずっといるのに普通でいられるなんて、逆に普通じゃないわ。凄いことなんだから。そのままが一番素敵。でも、頑張んなきゃダメよ。普通でもね」


ひとこ「はい……!ありがとうございます……なんだか、胸が軽くなった気持ちです!!」


ひじき「(薄いものね)」


ひとこ「あの、……また悩んだら相談してもいいですか……?」


ひじき「良いわよぉ。お菓子持ってきてくれたらね」


ひとこ「はい!!」

 


***

 

 

ひとこ「ただいま!!」


紫電「はうっ!!」ガラガラ


タオナン「やだ、紫電!!そこ拭いたばかりなのに埃たてないでよ!!今ワックスかけてんのよ!?」


ひとこ「……ふたりとも何やってるの?」


紫電「な、何って、いつも通りジェンガだぜ!?なな、何も心配してないぜ!ひーちゃんは安心していい!!」


タオナン「そ、掃除よ!!文句あんの!?いたって変わりない日常じゃない!!気楽にくつろぎなさいよ!!」


ひとこ「……??」


テイチョス「なるほど、分析が完了した。恐らく二人は落ち込んでいるひとこに気を遣ってあえて負担にならないよういつも通り過ごそうとしているが、『無意識』を意識したことにより本来小脳で行動していた原理を改めて疑ってしまい、『いつも通りとは何か』を思考した結果、各々の考える『いつも通りという状態』を『再構築』し、全くいつも通りでない行動をとってしまっている、というわけだろう」


タオナン「な、テイチョス!?馬鹿!!なんてデリカシーがないアルファなの!?」


紫電ジェンガはみんないつもやってるもんじゃないのか!?し、知らなかった……」


テイチョス「私の判断によると、タオナン、君たちの行動は85%を上回る確率で逆効果だ。まだサンドバッグを叩く方がいつもの君らしく見える筈だが……」


タオナン「な、なんですってー!?」


ひとこ「……ぷっ」


紫電「ひーちゃん、これにはわけがあって……あ!!」ガラガラ


ひとこ「あっはは!!なにそれ、変なのー!!ははは!!」


タオナン「わ、笑わなくたっていいじゃない!!なし、今日のは無し!!」


紫電「……はは、やっぱひーちゃんがいて、これがいつも通りだよな」


タオナン「……まぁ、そうね、むしろ、なんかこっちが安心したわ……。なんでこの私が掃除なんかしなきゃなんないのよ!」


ひとこ「ねぇ、みんな。私って『普通』かな?」


タオナン「ひとこ?」


紫電「ひーちゃん……」


ひとこ「ひじきさんが言ってたんだ。『普通』が私の個性なんだって」


紫電「……うーん、俺はひーちゃんを普通だとか思ったことはないけど……でも」


タオナン「うん、とりあえず今日でわかったことが一つあるわね」


テイチョス「そうだな、君たちは……」

 

 

 

『三人一緒が『普通』だってこと!!』

【アイラヴ祭】ランの行方

新橋「ランが帰ってこない?」


レン「そうなんだ。ライブ以降、僕が活動休止しているから別々に生活してたんだけどね。ランはバイオリニストだから、命とも言えるバイオリンを置いて数日家を空けてるだなんて何かあったんじゃないかって」


新橋「アイドルは兼業だったな。しかし彼女もマニアックだがそれなりの支持を得ている立派な有名人だ。警察に届け出は出してるのか?」


レン「前から一人でフラッといなくなることはあったから、まだ出してない。騒ぎが起きたばかりで僕が勝手に動いていいものかと悩んでるんだ」


新橋「ふむ、事情はわかった。とりあえずは、一刻も早く届け出るべきだろう。それこそ、お前たち二人に関係しているかもしれない」


レン「お願いします……。ランに何かあったらと思うと、苦しくて……」


鴬谷(デブ)「新橋さんとレンちゃんじゃないっすか。打ち合わせっすか?」


レン「いや、なんでもないですから」


新橋「空気を読め。どうみてもお前が出ていい回じゃないだろ」


鴬谷(デブ)「酷いっすよ。慣れてるっすけど。ランちゃんの話が聞こえたんで、出てきたっす」


レン「ランのこと何か知ってるんですか!?」


新橋「前置きする暇があったら早く言えと言ってるだろ!!」


鴬谷(デブ)「……いや、単に昨日自分、靴取り上げられて6時間サビ残させられてたんすけど、真夜中で事務所にランちゃん来てたもんで」


新橋「深夜……?なぜ夜中に……?」


レン「一人で来てたんですか?」


鴬谷(デブ)「ウチの深夜デスクいるじゃないっすか。確か……目白さんでしたっけ……?」


新橋「あぁ、あの変わり者の女性社員か……。なんかスピリチュアルがどうとか、京極冬彦マニアとか、色々聞いてるが」


レン「深夜に働いてる方がいるの?」


新橋「フレックスタイム制でな。普通はやらないが、形式上真夜中に出勤することは禁止されていない筈だ」


鴬谷(デブ)「目白さんとブツブツ何か話してたっす。声が小さい上にすごい低音の早口で、前髪長すぎて口しか見えなかったっすが……」


新橋「ふむ。ウチの社員が絡むということは、常務が何か知っているかもしれないが……。気が立ってる今話しかけるのは自殺行為に近いな……」


常務「なんの話だ新橋。また飲み比べするか?ん?」


新橋「じょ、常務!?この時間は新幹線の中では……!?」


常務「お前のスケジュール把握能力は素晴らしい限りだ。先方が客とトラブルがあったらしくてな。予定をズラせとのことで直前で引き返してきた。」


鴬谷(デブ)「すいません、ちょっと頭割れそうなんで右手離してもらっていいっすか?」


常務「ダメだ」


レン「常務!ランのこと、何か知ってますか!?」


常務「今このデブが言ったように、蘭は目白と共に仕事をしてるよ」


レン「い、いつから!?なんで何も言ってくれないんですか!?」


常務「落ち着け蓮。お前たち間で話し合いが無かったのは今知った事だ。だが、ここから先は話すわけにいかない。どちらにせよお前はお前のやるべきことをするんだよ」


レン「そんな……。だ、だってランは僕の……!」


常務「家族だろうが姉妹だろうが、仕事上は他人だ。蘭がどんな事をしていても、逐一お前が知る必要はない。そのような義務もない」


レン「そ、そうですか……すみません……」


新橋「お言葉ですが常務、少し言い過ぎではありませんか?レンはただランが心配なだけで……」


常務「馬鹿者。蓮は他者に依存しがちだ。そのくせ自分のプライドは強く持ち、今回のように自己中心的なトラブルを引き起こす。お前は少し今回の事を反省しろ。お前もだ、新橋。蘭は、むしろお前の事を思ってだな……」


レン「ランが僕を……?それって……」


常務「おっと……口を滑らせた。とにかくだ、お前はお前の事をしろ。新橋が持ってきた仕事の準備だ。世に自分を売るなら、今まで通りコツコツとやれ。新橋の方針は変わらん」


レン「は、はい……。って、次の仕事決まってるんですか!?もう!?トラブル起こしたのに……」


新橋「ピンチは時にチャンスになるんだ、レン。お前が誠実に、しっかりと会見で受け答えしたお陰で、何件かタレントの仕事が回ってきた。アイドルとはまた少し違うが、お前は世に出るんだろう?」


レン「新橋さん……。ありがとうございます!!それで、どんな仕事なんですか!?」


常務「これが企画書だ」


レン「どれどれ……」

 

 

『イケメンナイト☆レン様の温泉マラソン一人旅!宿から宿まで持久走!目指せ全国制覇!』

 

 

レン「………………」


常務「三馬鹿のレッスンが終わる頃に合わせてある。たまには羽を伸ばして温泉巡りなんて言うのも悪くないだろう?まぁ、交通費は無いが」


新橋「レン、俺はお前ならやれると信じている。というか人間じゃ間違いなくお前しかできない。これはチャンスだ。」


レン「………………覚えてろよな、ひじき……」

【アイラヴ祭】ひじき謝罪会見

記者『ライブでの八百長とは!?ファンを騙してたんですか!?』


ひじき『……盛り上げようとちょっとイタズラしただけよ』


記者『いままでもずっとそういうことしてきたんですか!?』


ひじき『いいえ、初めて。でも、いつでも不正できるように準備はしてたわ』


記者『なんですかその態度は!!ファンに申し訳ないと思ってないんですか!?』


ひじき『思ってるわよ。でもあなた達ジャーナリストさんはファンじゃないでしょう』


記者『悪びれず高圧的な態度!!八百長は肯定されてると発表していいんですね!?』


ひじき『もう発表してるじゃない。やーね、テレビに向かって嘘つけっていうの?』


記者『反省の色は無し!!ドレプロの信用に関わりますよ!?』


ひじき『勝手に好きなだけ下げたら?ファンのみんなには申し訳ないと思ってますし、反省もしているつもりです。けど、ただしんなり謝るよりも、生放送でマスコミと揉める方が楽しいに決まってるじゃない♪みんな観てくれてる!?本当にごめんなさい!!だからいっぱい楽しめるよう、できるだけ誌面を炎上させてみせるわ!!これからも応援よろしくお願いしまーす!!』

 


***

 

紫電「ハンパねぇこの人……社長とレンさん、後ろでドン引きしてるぜ……常務なんて顔押さえてる右手の血管バッキバキだ……」


ひとこ「ニカ生のコメント、『w』の数で画面見えなくなってるよ……。な、なんか、さすがエンターテイナーだね……」


烈火「あーはっはっは!!おっかしー!!しのっち最っ高ー!!」


タオナン「株の動きスゴいわよ!やば、面白くなってきた!!」


テイチョス「恐らくテレビ局の何社かと契約が切れるだろうが、それでも需要が尽きることの無い以上、メディアはかなり攻撃的に彼女を支援するだろう。元々本来もっとも敵に回したくない者達のアイドルだ。それが彼女の最大の強みでもある」


烈火「それもこれも、みんなしのっちのことをめっちゃ理解してるっからなんだよ。アイドルとして、あの子は一流だよ。こういうスキャンダルがあろうと信頼してくれるファンが何人もいる」


タオナン「視聴者も、ひじきについていけば面白いことがあるってわかってるのね。そもそもの閲覧数が桁違いだもの」


ひとこ「レン様はひじきさんの分まで謝ってるね……。質問にもしっかり誠実に答えてるし」


紫電「水と油に見えるけど、表現が違うだけで似た者同士なんだよな。二人とも、こういうところでもファンに自分の強さを見せてる」


烈火「どんなときでもアイドルとしての自覚を持つ。セレアっちゃんも言ってたっしょ?今後は強くなんなきゃダメだよ、アイドルならねー」


ひとこ「ところで、なんで烈火さんがここにいるんですか?」


タオナン「遊びに来たんじゃないの?暇そうだし」


烈火「ちょおーっとぉ!!怒っちゃうぞ子猫達め!!ちゃんと今日は仕事しにきたってのー!」


テイチョス「曲を製作する上で数ヵ所、それぞれの言葉に直してほしい部分があるそうだ」


烈火「概ね仮メロできてるんだけどね~。名っ曲なんだけど、ちょっとね、アーティストとしては気に入らないわけ」


紫電「まだ良くできるってことか?」


タオナン「まぁ、作るからには妥協されたくないものね」


烈火「のんのん、これだからシロートはまいっちんぐなんだから」


紫電「それ、かーちゃんの世代のネタなんじゃないかな……」


烈火「あたしはどっちかっていうと、完璧すぎたから『ぶっ壊したい』んだよねー」


ひとこ「えぇっ!?」


タオナン「ちょ、ちょっと!何それ!?意味わかんないわよ!!」


テイチョス「ふむ……」


烈火「なんでもかんでも良いものにすればバランスがとれるってわけじゃないんだよ。私が出したい音は、『あんたたちの味』なの。デビューシングルを外注に頼まなかった大きな理由は、曲で三人のもってる個性を消されたくないから。他人が作った曲を自分らしく歌う『高等技術』、あんたたちもってんの?」


タオナン「ぐぬぬ、全く言い返せないわ……」


ひとこ「はわわ……(歌の話になるとものすごく真剣になる……かっこいい……)」


紫電「ポエムバレの時点ですでに俺らしくないって言われてるからダメージすげぇ……」


テイチョス「素直に従っておくべきだろう。彼女はトップアイドルにして歌のエキスパートだ。どのように歌うのか想定が可能ならば、ボイストレーニングも効率が上がる」


烈火「君ったちのデビューなんだかんね!!気合いいれなよー!?」


ひとこ「は、はい!!」

ドレスタニアの闇(?)

エリーゼ「エルドランから輸入?大丈夫なんですか?」


ガーナ「あぁ、ノア教が去った今現在あの国を裏で掌握しているのは奴だ。変な動きがあればすぐわかる」


エリーゼ「裏切らなければ、の話ですけどね」


ガーナ「そのリスクはお互い様だ」


エリーゼ「全盛期のあの頃に戻りつつありますね」


ガーナ「なに、身体の方はこの有り様だ。寝首をかかれても不思議ではないのでな。剣がそばにあるうちはまだその心配はないが」


エリーゼ「この前凍結してましたけど……」


ガーナ「……(生きていたのは時間を封じていたセイカの力のお陰だ。考え方次第では僥倖でもあった……しかしあまり老人には知られたくない情報だが、切り札が増えたというこちらの余裕はある程度悟らせておきたい。下手に動かれないようにな)」


エリーゼ「それにしてもガーナ様。輸入するにしてもこれはいくらなんでも……」


ガーナ「『呪詛酒』のことか?税は多目にかけるが。娯楽嗜好品は心配か?」


エリーゼ「扱い的には、アルコールというより『ドラッグ』に近いのでは?人体への影響力も心配ですし、製造方法も少々キナ臭くありませんか?」


ガーナ「輸入の時点で度数に制限を設ける。アルコールとは別に呪詛の度数が決められていて、人間の人体に影響が及ぶのは20%からだ。解剖鬼に細かく調べてもらった成分表がここにある。我が国に輸入する際の許容度数は10%に抑える」


エリーゼ「はぁ……」


ガーナ「製造法は、妖怪の呪詛を浄化する装置があってな。その装置でもって採取されたろ過済みの呪詛エキスに、果物などをつけて発酵させるのだ。エルドランに我が国の工場を建設する予定で、呪詛はドレスタニアの郊外から集める。実質国産ということになる」


エリーゼ「なるほど。つまり、どちらかというと我が国の戦争跡の浄化を目的とされてるわけですね」


ガーナ「それもあるが、半分だな。もう半分は『妖怪の失業率』の改善だ……」


エリーゼ「失業率……?」


ガーナ「一部の妖怪を除いて、我が国は大部分人間の手によって経済が回っている訳だが、工場の流れ作業や清掃、酒場や娼婦など、裏の商売は主に妖怪の仕事だ。しかしながら、夜は法律によって一部エリア以外の外出を禁じている為、中々生活も苦しいらしい」


エリーゼ「な、なるほど……。し、しかし、昼間働くことを禁止されてるわけではないでしょう……。ランプ屋のアルビダの娘さんだって普通に働いてますし……何も、差別が強いわけでも……」


ガーナ「……それがな、恐らくは他の国ではこんなことにならないと思うのだが……」


エリーゼ「はぁ……何か問題が……?」


ガーナ「我が国の妖怪は、どうやら遺伝子的に『変態』が多いようでな……」


エリーゼ「へ、変態……ですか……?」


ガーナ「なんというか、よくわからんが、好きであぁいう仕事をやってるらしい。今まで仕事による不満の声はなぜか出なかったのだが、街頭調査をしてみたところ大半の妖怪が『趣味と実益を兼ねているから幸せ』と……」


エリーゼ「ま、待ってください、汚い仕事も多いですよ!?娼婦はわかりたくないけどわからないでもないですが、清掃員とか配管工とか、あぁいうのはどうなんですか!?」


ガーナ「『匂いがいいよね』『暗くて狭いところが好きなんだ』『じめじめしてて最高』などなど……」


エリーゼ「うわぁ……」


ガーナ「酒場でも結構歪んだ店員とかがいるようだ。この前の発光型のアルビダも元は酒場で働かされてたらしいが……治安はそんなによろしくないからな、できればもう少し安全なところで性癖を解放したいそうだ」


エリーゼ「あの娘からよく聞けましたね……」


ガーナ「未だによくわかっていないが、やたら協力的でな……好意を断ると究極に面倒なことになりそうで……」


エリーゼ「ち、ちなみに、もう一人の方は……?」


ガーナ「用心棒をしているそうだ。無理矢理。実は今、夜中の我が城の庭で警備をしていたりする……」


エリーゼ「えぇ……ここに居るんですかあの人たち……」


ガーナ「腕は確かだ……既に侵入者や害獣を何件も解決している……100人の兵士より有能なのがまた皮肉でな……」


エリーゼ「でしょうね……」


ガーナ「まぁ、とにかく、ボランティアとして呪詛汚染区域の除去に一役買ってくれている者が多いので、支援してやりたいと思う気持ちもある。エルドランへのパイプ役としても妖怪は必要だ。呪詛酒も、他種族にはダウン系のドラッグに近いが、妖怪にとっては今まで薬草からしか採取できなかったような健康に良い成分が多量に含まれている。多少博打だが、国民の繁栄も祈りつつ輸入に踏み切ったのだ」


エリーゼ「まぁ、むしろ制限してる方が妖怪的には衝動的な犯罪率上がりそうですもんね。警戒はするに越したこともありませんけど」


ガーナ「前々からすこし感じてはいたのだ。この国の妖怪って他国に比べて異常性癖率高すぎるんじゃないか、と……」


エリーゼ「思い返してみれば……血液嗜好症、妄想癖、被虐願望、サディスト、背後に立つのが好きなピエロ的な……確かに色々歪んでますね……」


ガーナ「際立ったそいつらを除いても、さりげない日常で変な妖怪は多いようだ……一応原因を調べているが……」


エリーゼ「ダメだこの国……」