PFCS SS劇場!

パラレルファクター カルティベイトサーバーのSSをまとめるブログです。主にツイッターでのやり取りを纏めます!

【アイラヴ祭】ひじきのライブ

 ライブ後半、レンの舞台で上の空の観客たちが、疲労感を態度で訴える。激しく動かされた感情の変化によって、悲劇の物語の余韻に浸り夢うつつの中で、ひじきのライブを待っていた。ひじき側のファン達も例外なく、ここから先ひじきのテンションについていけるのかと一抹の不安を感じている。
 まもなくして、イントロが流れ出す。普段ならばこのいつものメロディに期待が膨らんでいき、フライングして爆発するひじきのファンであるが、今日は声をいまいち上げきれない。中途半端な声援とともに、ひじきはその姿を現した。


 カツ、カツ、カツと、舞台に響くヒールの音。暗い紫色のスモークに、不気味なライトがさえぎられる。表情は髪に隠れて見えない。エナメルの真黒なロンググローブが鈍い光をチラつかせ、ステージ中央のマイクをさするように撫で、マイクスタンドから取り外した。

 

──疲れているのね、あなたたち。

 

 歌いすぎで枯れたような声。曲は急に、音が飛ぶようにして煩く止まる。すべての観客は、空気に押し負けて黙り込んだ。短すぎるスカートの端を持ち、しわを丁寧に戻すひじき。

 

──私もよ。あんな情熱的で美しいステージ、本能が揺さぶられないわけがないもの。本当に素晴らしい。久しぶりに、泣いてしまったわ。

 

 顔を上げるひじきの目元は、ほんの少し化粧が崩れて、黒くにじんでいる。常連の観客たちから観ても、ここまで弱々しいひじきは珍しく、心が痛む気分に陥った。応援の為に何かを叫ぼうとしても、喉もとで言葉が詰まる。涙袋を撫で、ほんの少し鼻をすするひじきに、その場のファンは罪悪感を抱いた。

 

──こんな気持ちの時……一体、どうすればいいのか、知ってる……?


 観客はどっしりとした空気に身体ごと沈んでいく。プレッシャーに耐えられなくなったのか、足に力が入らず、目線が若干下がってくる。ゲストの観客も、体勢が崩れていく。重々しく息苦しい空気に耐えられず、膝をついた者もいる。汗が額から流れ落ちる。
 いや、違う。ファンは徐々に気づいてきた。身体が重いのはプレッシャーなどではない、本当に『物理的に重くなっている』のだ。
 首を上げるだけでやっとの状態まで沈み込む。みんな必死でひじきの顔を見ようと目を凝らすと、そこには……。

 


 とびっきりの笑顔で笑う『妖怪』が観客を『見下し』ていた。

 


──辛いのは、『我慢している』から。泣きたいならば泣きましょう?笑いたいなら笑いましょう?何も恥ずかしいことはない。そうよだって、どんなにきれいにしてたって本当は、人は皆……

 

 ビリビリ!!と、音を立ててスカートの端を破く。バツン!と、開いた胸元のボタンが飛ぶ音をマイクが拾う。だらしなく振り乱された青い髪の毛を無造作に掻き上げると、マイクスタンドを足で払い除けて前に一歩踏み込んだ。

 

──『醜く汚いもの』なんだから……!!!!

 

 マイクを持つ手を思い切り振りあげる。すると、観客たちは身体が宙に浮くようにとても軽くなり、重さに逆らっていた反動で飛び跳ねる。手に持っているものを落とし、隣の見知らぬ観客と身体がぶつかり合い、ビックリした拍子にみな声を上げてしまう。
 変な声がドッと会場に広がると、緊張が突然ほどけ、恥ずかしくなってみんな笑いだす。さっきまでの重い雰囲気は完全に払拭され、広がる笑顔を見たひじきが楽しそうに微笑んだ。

 

──まだまだ体力あるじゃない♪ここはライブ会場よ。恥も後悔もない。壊れちゃってもいいじゃない?我慢しないで素直になりなさい。そんなあなたたちが一番魅力的。

 

 会場が一気に明るくなる。虹色に輝くステージのライト。演出の花火が次々に暴れだす。ひじきの手が動くと観客が思い切り引っ張られ、互いの客が抱き合ったり、勢いに任せたカップルがキスをしたり、好き勝手に揺らされながらいろんなハプニングが会場に広がっていく。
 誤解を生じるような見知らぬ男女の悪気のないボディタッチ、女性の悲鳴とともにひっぱたかれる男たち、気まずい空気のさえないカップル、同性同士のもつれあい、反応する変わった趣向の人達。


 泣いたり笑ったり、叫んだり驚いたり。そんな大混乱の中、みんなの顔には笑顔があった。指揮者のように楽しく手を振るひじき。妖怪だけが扱える『呪い』の技。まるで身体を糸でつるされた人形のように動き出す観客たちを、面白おかしくあやつるひじきのその技の正体、それは、『空間の重力をゆがませる呪い』。


 不可抗力の観客は、徐々に抵抗をあきらめ、ひじきのいたずらに身体を任せることを選んだ。

 

──うまいうまい、そう、身体の力を抜いてしまいなさい。全力で楽しんで。貴方たちのためのこの歌、全身で聴いてちょうだい?心を込めて歌うわね。『嘘に口づけを』!!

 

 

 

 気づけば、会場は汗の熱気で湯気が立っている。全員、曲のテンポに動かされながら、無我夢中でひじきの操る空間で暴れ、ある人は号泣し、ある人は本気で叫び、またある人は笑い続けた。一体感のまるでない空間。真面目そうなスーツの男性が猛々しく吠えたり、凛々しい美女がわんわん泣いたり、地味なカップルがどさくさにまぎれて熱いキスをしたりした。
 ライブが終わり情けない姿を晒したみんなが、恥ずかしさで顔を背けあう。しかし、きっとそれは、その人の今まで隠してきた本当の姿なのだろう。ひどく荒れた髪、崩れた化粧、汗だくの身体を見ても、不快感は不思議と感じなかった。

 

──何も心配はないわ。今日は秘密の一日。一緒に楽しんでくれて、ありがとう。大好きよ。

 

 ひじきが投げキッスをして帰ろうとすると、ハイヒールが折れて転ぶ。慌ててスカートを押さえて顔を赤らめると、会場は笑いで包まれた。立ち上がったひじきは先ほどまでの妖艶な顔つきではなく、一人の少女としての初心な笑顔で、ペコちゃんのようにあざとく舌を出して照れ隠しをし、早足で会場を去った。


 こうして、ひじきによる後半のライブは笑顔で幕を閉じた。

【アイラヴ祭】途中休憩

紫電「か」


ひとこ「っ」


タオナン「こ」

 

烈火「良い」


こはね「✨」


セレア「(ひとことこはねやっぱり地味じゃのう……)」


紫電「こんなの、観たことないぜ!アイドルのライブというより、完全にミュージカルじゃんか!!」


タオナン「はっきり言って金額に見合ってないわ。もちろん、安すぎるって意味でね。明らかに会場が小さすぎる……」


ひとこ「れ、レンさま……」


烈火「……セレア、これ、かなりまずいね」


セレア「うむ……烈火もそう思うかのう……」


紫電「何こそこそしてんだよ。あ、ひじきも天帝だから仲間として悔しかったり?」


タオナン「今さら逃げられないわよ!もう完全にレンが飲み込んだじゃない!消化試合の塩ライブというのもそれはそれで楽しみだしね!今さら後悔しても遅いわ!」


こはね「ちがうの……その逆よ……」


ひとこ「逆、ですか……?」


テイチョス「解説が必要なようだな


タオナン「テイチョス!!どうしてここに!?」


テイチョス「このライブ、警備会社の元締めは私たちの会社の系列だ、タオナン。たまたま人手不足で警備している」


セレア「事実だけを述べると、先ほどのライブ……まず間違いなく天帝クラスじゃ」


紫電「う、うん、そりゃこんだけすげぇならひじきとも対等に戦えるんじゃないかって……」


烈火「そんな生易しい話じゃない。天帝クラスっていうのは、他の天帝を含めて『ある一点においてトップ』ってことなんだよ、ばってんちゃん」


ひとこ「天帝の中でも……トップ?」


こはね「烈火なら野外ライブで右に出るものはいない……私にも……セレアにもそういうものがある……」


セレア「それは才能の二文字で済ませられるほど単純ではないのじゃ。レンは、今のライブ中、明らかに狙ってひじきを倒しにきた」


烈火「みんなの様子見える?ショックでしゃがみこんでる子もいる。……しのっちの番に渡す前に、客の体力を削りきろうとしたんだ。レン君は、きっと今までの自分のライブも、観客の精神的な体力を最初から最後まで楽しめるよう、上手くコントロールしてたんだろうね」


こはね「体力……知恵……技術……。レンはきっと、『努力』のエキスパート……。ストイックな性格だから、妥協が一切ない勝負に強いタイプ……。きっと、今まで好敵手がいなかったから、目立つことが無かっただけ……」


ひとこ「つまり……初めて自分の本領を発揮できた、ということですか?」


テイチョス「そうだ」


タオナン「なら、なんの心配もないじゃない。一体なんの心配をしてるのよ!めんどくさいわね!」


セレア「先程烈火が言ったじゃろ?天帝と呼ばれる条件は、『ある一点においてトップ』じゃと。忘れちゃだめなのじゃ。『ひじきも天帝』と言うことを」


こはね「ひじきの別名……『ネクロマンサー』……。あの人は、ファンのテンションが低ければ低いほど真価を発揮する、『逆境の魔女』なの……」


紫電「逆境の魔女……!?」


烈火「ここまで会場の空気が変わったのは天帝序列五位、『楠 千都世』……ちせちーの対バン以来、初めてのことだよ。つまり……今日のしのっちは超久々に、正真正銘『本気』で来る。君たちも覚悟した方がいいよ。天帝クラス同士のこのライブ、『大混乱』になるよ……!」


タオナン「今までのライブも全力じゃなかったってこと……?……の、望むところよ!!ここから巻き返せるもんなら、やってみなさい!!テイチョス、解説ありがと、もういいわ!!」


テイチョス「うむ


セレア「(なにしに来たんじゃこのアルファ…!)

【アイラヴ祭】レンのライブ

 砂嵐が駆け巡るような轟音と同時に暗くなる会場。バイオリンの音が静かに流れ、観客の声が完全に途切れる。やがて、その音は小さくなり、闇は音も光も、何もかもを飲み込んだ。その空気に息も据えない観客たち。
 突然、ステージの中央に、薄暗いライトがあてられる。一本の剣を地面に刺すように、膝をついて頭を下げる騎士のシルエット。きらりとライトに反射するサファイアの指輪が、観客の視線を集めた。


──我が剣は主の元に。信じるならば手に取るがいい。今宵、僕があなたの剣となろう。


 シルエットはゆっくりと立ち上がる。首から下げた飾りが、シャランと音を立てた。そして、突き刺さった剣を勢いよく引き抜くと、頭上に掲げて一気に太陽のごとき光がバックステージから輝き、各スピーカーから爆発する炎のようなドラムの音が会場をたたきつけた。
 観客は剣を構えたレンの姿に見惚れるも、ドラムの音に合わせて、まるで戦場の戦士の如く叫ぶ。レンは空を見続け、剣は天空の先を指しつづける。その光景は、まさに聖戦の前夜。集まるは2000人の兵士たち。共鳴は大隊の志気を鼓舞し続け、観客のテンションが最大まで引きあがる。
 しばらくしてレンは、興奮する兵に向かって剣を振り、観客の声が切り払われるように再度静寂を生み出した。奥からドレス姿で現れるラン。手に持つバイオリンをゆっくりと鳴らしながら歩く。
 ステージ中央でお互いを見ると、レンはランを背に向けた

 

 

──この剣を抜いた日の事を あなたは覚えておりますか。

 


 左手に持つマイクに囁くように歌う。剣を片手で振るい、地面と平行に持つ。剣先は全くぶれず、二人の柔らかい髪の毛だけがふんわりと踊る。

 


──止まない雨が唇を震わせた あなたを守りたいと思った。

 

 剣はそのままランの首元に宛がわれる。ランは、バイオリンを引く手をやめることなく、切ない顔でレンの胸に背中を預けた。

 

──傷つける事しか叶わない刃 血に呪われた僕へ口づけしたあの日

 

 ゆっくりとなぞるように引いた剣を、腰につけた鞘へ収める。数歩、規則正しい動きで下がると、片ひざをついて右手を左胸にあて、目を瞑る

 

──許されるのならば今一度 あなたの剣としてお傍に。

 

 バイオリンが静かに最後の戦慄を奏でると、綺麗な音が長く、長く響いた。やがてランはバイオリンを下に置き、レンの前に手を差し出す。

 

──光指す丘の上で忠誠を誓う 我が剣は主の元に。

 

 完全な無音の中で、マイクを通すことなく、誓いの言葉を口にするレン。そのまま差し出された手にキスをする。最初と同じように証明が消え、暗闇が全体を包んだ。


──僕に構わず、お逃げください!


──なりません!貴方も私と共に!


──このままでは二人とも無事ではすみません。我が剣は主の為に……。


──……必ず、戻ってくるのです……。死ぬことは許しません。私の傍へ、必ず……!


 暗闇の中での掛け合い。証明が明るくなると、ボロボロの衣装を纏ったレンの姿のみ立っている。長い前髪で顔が隠れ、肩を抑えながら足を引きずる。膝を折り、地面に剣を置くと、悲壮感のある小さなメロディにのせて、弱々しくか細い声で歌う。

 

──誓いの証 サファイアの指輪 血塗られた僕の瞳は 未だ蒼いままだろうか


 剣に写る自分を見て、笑みをこぼす。揺れる髪の隙間から見えるその瞳は、宝石のように蒼く光った。


──我が剣は主の元に この命尽きようとも 僕はあなたを守り続けると誓う 永遠に……。


 倒れるレン。無音の中、ハイヒールの音を響かせながらランがステージへ現れる。ゆっくりとレンの傍へ歩き、手を握りしめる。


 やがて、落ちている剣を拾い、腰に納めた。その場を離れるラン。ステージの中央、立ち止まって地面に剣を突き立てると、両手で顔を押さえてしゃがみこんだ。

 


 レンとランの舞台は幕を閉じる。一切の挨拶もなく、前半のライブは恐ろしいほどに綺麗に終わった。明らかに異質、元々のレンのファンでさえ、あまりの迫力に圧倒され、その場の誰もが絶句する。この日、会場の全ての者が最大の興奮と同時に身を震わせるような感動、虚無感を抱いた。
 ゲスト席の三人の研究生は声も出せず、その隣の天帝までも、予想外の表情を作りながら、レンの姿に完全に飲み込まれていた。

【アイラヴ祭】ライブ開始

鴬谷(デブ)「レンちゃん、そろそろ始まるっす。代表曲のサビに合わせて入場するっすよ」


レン「デ……鴬谷さん、すいません、代わりに組んでもらって……」


鴬谷(デブ)「今結構取り返しのつかない言い間違いしかけたっすよね?」


レン「やっぱり、僕のやってることはプロデューサーにとって、迷惑なことなんでしょうか……」


鴬谷(デブ)「スルースキル高いっすね。新橋さんのことなら気にしなくても良いって、常務が言ってたっす。」


レン「プロデューサーだけじゃない、本当はランにだって迷惑かけてるって知ってる……。ひじきと言い合ったとき、僕は、白状すると怖かった……。出会って間もないのに、心の奥底を見透かされた……」


ラン「レン……私は……」


レン「本当は勝つことよりも、僕はただ天帝としての舞台に、一度で良いから立ってみたかったんだ。今ならひじきと対戦して脱落していった子達の気持ちが良くわかる。きっと、ひじきが僕にくれたのは、夢を叶えるチャンスじゃない。『夢を諦める最後のチャンス』なんだ。みんな、ここでわかる。今まで身の程をわきまえず、夢を追い続けたせいで引き際がわからなくなっているという『現実』を」


鴬谷(デブ)「レンちゃん……」


レン「キャリアが長いから、僕の同期がどうなったか、僕は見てきてる。烈火以外はみんな、早いうちから身を引いてる。僕だけなんだ、こんなに長く、夢ばかり追っているアイドルなんて。」


鴬谷(デブ)「……自分は、ラーメンを毎日食べるっす。ここだけの話、医者に止められてるレベルっすよ」


レン「……ラーメン……?」


鴬谷(デブ)「自分が好きなラーメンはコシの強い極太の特性麺。粉っぽいこのタイプの麺の強みはその重厚な重みと表面のざらつきによって発生する強力なスープリフト力、豚の背油から丹念に作り出した特濃スープに絡みこんだ絞りニンニクを限界のギリギリまで麺に乗せ、上がってきた油分たっぷりの汁を吸い込むように流し込むっす」


レン「うぇ……」


ラン「無理……」


鴬谷(デブ)「事務所から車で25分の所にある『フールシティ奏山店』の常連は、完食完飲、勿論当たり前の高ランクサブロリアンの店で有名じゃないすか」


レン「いえ、知りませんけど……」


ラン「キモ……」


鴬谷(デブ)「大食いアイドルの路線とか狙ったことないっすか?いい線いけそうな恵体なんすけどね」


レン「考えもしなかったですしこれからも考えませんが」


鴬谷(デブ)「そこの店の常連、この三ヶ月でみんな引退したんすよ。色々話聞くと、妻に泣かれた、ドアが通れなくなった、車イス生活、色んな理由があったっす」


レン「なんでそんなになるまで食べてるんですか……デ……鴬谷さんもそうなっちゃいますよ……」


鴬谷(デブ)「構わないっす」


レン「えっ」


鴬谷(デブ)「構わないっす、死んでも」


レン「なっ……」


ラン「うわぁ……」


鴬谷(デブ)「デブは、一日に100回は罵られるっす。その上、その中の40%くらいは同時にダイエット法だの健康に良い食べ物だのトレーニングだのといった余計なお節介をしてくるっすよ。100kgの壁を越えられない軟弱な『準デブ』なんて、決まって言うっす。『俺ですら毎日ラーメンはヤバいと思うよ』って」


レン「正論だと思いますが」


鴬谷(デブ)「だけど、そんなことは知ってるっす。このままだと死ぬ、言われなきゃわからないデブなんていないっす。レンちゃん。これは自分で決めたことっす。自分で命かけたデブは、弱音なんて絶対に吐かない。食べたものも絶対に吐かない。そう言えるのは、自分の決断に誇りを持って食べ続けてきた人だけなんすよ」


レン「自分で……決めたこと……」


ラン「(……最後の吐くとかの下り、絶対にいらない)」


鴬谷(デブ)「だからっすね、つまり……」


『ガチャ』


新橋P「レン、顔を下に向けるな」


レン「プロデューサー……!?身体は!?」


ラン「……(新橋P……)」


鴬谷(デブ)「新橋さん!?無事なんすか!?」


新橋P「そのデブが言ってることは八割は詭弁だ。だが、芯は似ている。わかるな?」


レン「は、はい……その……」


新橋P「自分で選んだ道に後悔する奴はデブ以下だ。それにな、そこのデブは確実に報われず死ぬだけだが、お前の努力には可能性がある。俺たちはいつだって無茶をしてきただろう。それは何のためだ」


レン「……勝つため……!」


新橋P「その通りだ。お前が見るのは下じゃない。今日のために集まってくれた、2000人のお客の顔だ!!お前の全てを出してこい!!レン!!」


レン「はい!!」


ラン「(やっぱり、レンにはこの人が……)」


レン「ラン、行こう!!もう少しだけ、僕の背中を守ってほしい!!」


ラン「もちろんです、レン……!」


鴬谷(デブ)「応援するっす!!レンちゃん!!」


レン「結構です!!行ってきます、プロデューサー!!」


新橋P「おう、お前の覚悟、しっかりと見せてもらう!!」

 

 


***

 

 


紫電「舞台が暗く……始まるぞ、ひーちゃん、タオ!」


ひとこ「うん……!!(なんて重い空気……!レンさん、応援します……!)」


タオナン「しっ……!来た……!!レンの入場よ!!」


烈火「(このイントロ……完全な暗闇からのこの入りは、レン君のクライマックスに使うもの……最初からやる気だね、琴浦蓮!)」


こはね「(私にはわかる……今のレンの鼓動……自信で溢れてる……今までの比じゃないやる気なの……)」


セレア「(ひじき……お主の相手は、どうやら舐めてかかれる相手ではなさそうじゃ……。今日は荒れるじゃろう……!!)」

 

【アイラヴ祭】ライブ目前

紫電「うっわ……すげぇ……これ、まだライブ始まってないんだろ……?」


ひとこ「ファンが応援の練習してるね。い、勢いに潰されそう……」


タオナン「怒鳴り声もあるわよ!半分喧嘩じゃない!!テンション上がるわ!!」


紫電「なんでだよっ!(笑)」


タオナン「そこに火が燃えてたら油とか注ぎたくなるでしょ?」


ひとこ「そういえばタオちゃん、紫電ちゃんが怒ったときに加勢してたもんね」


紫電「派手好きな奴だよな……」


セレア「意外とタオナン向けのライブかもしれんのう……」


タオナン「レン側声出てないじゃない!!何やってんのよー!!」


紫電「しかし、こうやって上からみると面白いな。レンさんのファンとひじきのファン、全然違う」


ひとこ「ひじきさんのファンはみんな各々好きなようにジュース飲んでたり、座ったりして喋ってるけど、レンさんの方は凄く綺麗に整列してて、荷物や飲み物とかも邪魔にならないところに丁寧に置いてるね」


セレア「マナーの守られたレン側のファンからみれば、ひじきファンのだらしなさは許せないじゃろうな。レン側はより一層、ひじきに対し悪い印象を抱くじゃろう」


こはね「つまり、今この瞬間が一番公平ってこと……並みのアイドルじゃ、敵のファンの心を動かすなんてことはできないの……」


紫電「でも、ひじきは相手のファンを奪うタイプのアイドルだって言ってたじゃんか相当エグいことするんだろ?」


烈火「それは違うよ、むらさきくん」


紫電「のわ!!烈火さん!?」


こはね「烈火……珍しいね……みんなと一緒に観るの……?」


烈火「こはね……。私のいっこちゃんに内緒で手出されたくないかんね。問題ある?」


こはね「ううん、嬉しいの……。烈火と一緒にライブ楽しんだこと、無いから……」


烈火「ぐぎぎ、あざとい……いっこちゃん、あいつ、近寄っちゃだめだかんね!一般人のふりして虎視眈々と首を狙う魔性の子だ!ほっぺたぷにっぷにだから、触ったら一巻の終わりだぞ!」


ひとこ「そ、そんなことするの烈火さんだけですっ!!」


烈火「なんだとぅー!!先輩に楯突くかぁーこうしてやる!!」


ひとこ「わぁ!!やめてくださぁい!!」


紫電「お、俺のひーちゃんをぷにぷにするな!!じゃなくて、話の続き!!えっと、何が違うんだ?」


烈火「あー、そうそう、しのっちがエグいことしてるかって話。それは間違い。しのっちはアンチが他のアイドルの10っ倍は多いからねー、変な噂が良くたつんだよ」


ひとこ「どう違うんですか?事実、他のアイドルだって被害にあってます。それってやっぱり悪いことじゃ……」


こはね「ひじきは、いつでも正々堂々なの……。実力で勝負して、相手のファンの心を動かす事ができる……」


セレア「天帝ならあやつの凄さを誰もが理解しておるのじゃ。ひじきは、間違いなく天帝としての器を持っておる」


烈火「天帝だって、一般人と同じように好きなアイドルがいて、ファンでいてもいいじゃない?今ここにいる私たちは、正真正銘、東雲ひじきの大ファンなのさっ!」


ひとこ「天帝のトップ3が……ひじきさんのファン……?」


紫電「そこまですげぇ奴なのか、ひじきって……」


セレア「もう始まる頃じゃのう。お主たちも良く見ておくといいのじゃ。影のアイドル界を統べる『闇の天帝』の姿をのう!」


ひとこ「……闇の天帝!!」


紫電…………ああぁ!!!まさか!!!!


タオナン「うわ!びっくりした!真横で大声出さないでよ紫電!!」


ひとこ「ど、どうしたの紫電ちゃん!?何か知ってるの!?」


紫電「あ、あんたまさか、柚木こはねさん!?


タオナン「え!?!?マジで!!??


ひとこ「今更かぁー!!!!

 

 


こはね「……」


烈火「なんか、うん、元気だして……」


こはね「うん……」

【アイラヴ祭】ライブ寸前

レン「ひじき、今日はよろしく」


ひじき「あら、実物で見るとまた一段とイケメンじゃない。ライブ映えするタイプでしょう、レン君」


レン「そんなことないよ、ご存じの通り旬の過ぎたマイナーアイドルなんだから」


ひじき「そうには見えないわよ。肌も私より綺麗だし、スタイルもいいもの」


レン「よして。これから戦う相手に褒められても、嬉しくなんかない。ましてその相手が悪名高いひじきとあっては、なおさらだ」


ひじき「うふふ、こわいこわい。別に勝者敗者がどうこうなるわけじゃないのだから、もっと楽にしたらいいのに」


レン「なんか、調子狂うね。君はもっと性格の悪い人かと思ってたけど、それとも、羊の皮でも被ってる?」


ひじき「思ったことを正直に言ってるだけですけれど?私、嘘なんてつけないもの」


レン「悪いけど信じられない。君と戦って引退してるアイドルは山ほどいるんだ。別に彼女たちを代表するつもりはないけれど、僕は君を倒すつもりで来たよ。僕も嘘はつけないタイプだから」


ひじき「レン君、私は本当の事を言ってるのよ?人を騙したことなんてないわ。騙してるのは、あなたたちでしょう?うふふ」


レン「僕が、君を騙してるだって?挑発してるつもり?僕は……」


ひじき「私に、じゃないわ。騙してるのは『自分』よ?本当は負けるのが怖いんでしょう、レン君」


レン「ふざけるな……!誰が怖いだなんて」


ひじき「うふふ、素直になっちゃえば怒ることもないのに。わかりやすくて、いじめ甲斐がありそうで、本当に私の好みなんだから」


レン「……ふん、好きに言ってよ。どちらにしろ今日は君を倒して、僕は天帝に入るんだ。目標を前に惑わされてたまるか、嘘つきアイドルなんかにね」


ひじき「ふふ、またストレートに言うんだから。良い日にしましょうね、レン君」


レン「あぁ、そのつもりさ。『僕にとっての良い日』にね。」


ひじき「(うふふふふ。本当にタイプだわ。あなた、いったいどんな顔で鳴くのでしょうね……ふふふふふ……)」


ラン「…………」


ひじき「……?」


レン「ラン、相手にするなよな。それより、最後のリハやるよ」


ラン「あ、はい……ごめんなさい……」


ひじき「(……あの子の目……気のせいよね、この既知感……。初対面だものね……)」

 

 


***

 

 

 

ひとこ「後を継ぐ……?どういうことですか?」


烈火「そのまんまーの意味だよ?私が天帝を抜けたら、席がいっこ余るっしょ?ひとこ、ここに来なよ」


ひとこ「抜ける……?烈火さんが!?どうしてですか!」


烈火「おっどろくことじゃないんじゃないっかなー?私、キャリアは長い方だしね。天帝7も居心地良かったけど、私はこんなところで止まる器じゃない。歌だけは、誰にだって負けたくないから」


ひとこ「(……顔つきが変わった……?)」


烈火「ねえ、ひとこ。君たちはなんのためにアイドルをやってるの?この先、何年アイドルでいようと思ってる?……セレアっちゃんはアルファだから心配ないでしょうけど、私は女の子を卒業して女性になりたい。歳をとりたいの」


ひとこ「……ふ、普通は、いつまでも若くいたいと思うんじゃないでしょうか……」


烈火「そうだね。若くして、みんなからちやほやされたい。歳を取るのは怖い、そう思うんだろうね。でも、子供のままじゃ歌は上手くなんてならないんだよ、ひとこ。歌は、成長するんだから」


ひとこ「歌は成長する……?」


烈火「大人になって、色んな体験をして、人生を歌にする。しわしわのおばあちゃんが歌う歌謡曲には、若さじゃ追い付けない夢が詰まってる。私は、あの駅のホームから先を歌えない。歌う資格がない。でも、必ず歌いたい。できることなら、ハッピーエンドを迎えたい。だから、私は天帝を抜けるんだ」


ひとこ「どうして、私なんですか……?ただの研究生です……」


烈火「君はね、磨かれたことのない、オパールのような原石なんだ。この意味、わかる?」


ひとこ「…………」


烈火「『一度磨いたら取り返しがつかなくなる』ということ。だから、私が磨いてあげるよ。他の人に毒される前に、『歌姫』の道にね」


ひとこ「……私は──」

 

 


***

 

 


紫電「お、セレア!捜したんだぞー!」


セレア「ごめんなさいなのじゃ……しかし、どうしてもこれだけは買いたくて……」


タオナン「子供じゃないんだから、勝手な行動はやめてよね。まふまふ」


セレア「タオナンこそ、ずっとたこ焼き見ておったくせに!ちっとも話聞かないのじゃ!!」


タオナン「そんなことより、ひとこは?トイレ?」


紫電「(タオ!アイドルはトイレ行かないことにされてるの!)」


タオナン「そんなわけないじゃない。アルファはしらないけど」


紫電「(タオー!!)」


セレア「ん?ひとこはわらわのところには来てないのじゃ」


紫電「はぐれちゃったのか!?もうそろそろはじまっちゃうぜ!まずいんじゃないのか、二人のチケットはまとめて俺が持ってるぜ!?」


タオナン「しまったわね……まふまふ」


セレア「(たこ焼きに目がないんじゃのう……)」


こはね「セレア……電話だよ……」


セレア「お、なんじゃ、わらわに?」


紫電「ん?誰だその子」


タオナン「アイドル?パッとしないわね」


こはね「……」


セレア「烈火か?なんじゃ、来ておったのか」

 

 


***

 

 


セレア『ひとこがそっちにおるじゃと!?どこじゃ!!』


烈火「トイレだってさ。Eの二番出口横。回収しにくれば?」


セレア『ありがとうなのじゃ!ところで、機嫌悪そうじゃのう。どうしたんじゃ』


烈火「失恋ソング書きたくってねー。いいの書けそうだにゃ……」


セレア『あー、なるほどなのじゃ。まぁ、欲しがる気持ちはわからんでもないがのう……』


烈火「うっさい。軽々しく気持ちわかんないでくれませんかー!」


セレア『テラワロスなのじゃ☆』


烈火「出てきたらここ残るよう言っとくから。ライブ楽しみだしね、レンきゅんかっこいいし。じゃあね」


セレア『うむ、感謝するのじゃー』ピッ


烈火「……っと、おかえり。聞いてた?セレア達来るって」


ひとこ「ごめんなさい、烈火さん……」


烈火「にゃはは、お安いごよーうだっしゃ!でも、ケータイくらい持ち歩きなよー?」


ひとこ「その話ではなくて……」


烈火「いいよ、ひとこの人生だもの。それに、安心した。君は染まっちゃ駄目。私の他にも、きっと誘われることがあると思うから、気を付けなさい」


ひとこ「はい。あの、ありがとうございました!」


烈火「うんうん、素直でよろしい!ライブ、盛り上がろうね!しのちゃんのライブスゴいから!じゃーね!」


ひとこ「はい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 


烈火「(……辛いなぁ、失恋って。本当に。)」

【アイラヴ祭】病室にて

新橋P「ここは…」

 

常務「病室だ。過労で倒れたそうだ」

 

新橋P「常務……」

 

常務「お目覚めに見た顔がピチピチな女ではなく50近いババアでショックか?」

 

新橋P「すいません、冗談に付き合う余裕がないです」

 

常務「ふん、相変わらずだな、貴様は」

 

新橋P「レンは、レンは見つかったんですか……!?」

 

常務「あぁ、実家のトレーニングスタジオで一人練習していたそうだ。お前が倒れたと知らされても、練習は辞めなかったそうだよ」

 

新橋P「……やはり、止めればよかった。今回のライブは、あいつの精神を折りかねない……」

 

常務「お前はいつも意思より結果を重要視する。あの子の気持ちが汲めない駄目なクズ男じゃないだろう」

 

新橋P「しかし……」

 

常務「あの子は、お前より現実を見てるんだ。全てわかってて挑んでいる。なにせ、あの子が子供の頃から夢見ていた舞台は天帝だからな。子役時代の蓮も、今の蓮と全く変わらない」

 

新橋P「だからといって、あの子の未来を奪うような真似を見て見ぬふりするわけにはいかないでしょう」

 

常務「ふん……。鈍感馬鹿もここまで来たら勲章ものだな……」

 

新橋P「あいつはいつも無茶をする……俺が止めないで誰が止める……」

 

常務「ふむ……」

 

 

***

 

 

レン「プロデューサーが倒れた……!?容態は!?大丈夫なんですか!?」

 

常務「ただの過労だ。騒ぎ立てる程じゃない。……だが、心労の原因はお前にある。ハッキリ言うほうがいいだろ、お前は」

 

レン「……そうですか。プロデューサーがそんなになるまで僕は……」

 

常務「どうだ?私もあのライブはおすすめできない。やめるなら今が最後の選択だぞ?」

 

レン「いいえ。僕は戦いますよ。むしろ、勇気が湧いてきた位です」

 

常務「勇気……?」

 

レン「そんなになるまで、僕を心配してくれてるプロデューサーがいる……。どんな結果に終わったとしても、胸を張って帰れるところがある……。僕はただ、いつも通り全力を出せば良いだけですから。後のことは、プロデューサーを信頼しています」

 

常務「……わかった。もう口出しはしない」

 

レン「ごめんなさい……プロデューサー……」

 

常務「なぜ謝る。信頼しているんじゃないのか?」

 

レン「……プロデューサーは、僕のためにいつも無茶をする……。だから今回だけは、僕一人でやらなきゃいけないんです……。これ以上迷惑はかけられない……」

 

 

***

 

 

常務「(無茶をする、というのはお互い逆だな。あの子が無謀な事をするのも、お前がいるからなんだろう。だがそのおかげで、あの子は夢が一つ叶ったんだぞ)」

 

新橋P「レン……すまない……」

 

常務「……くく」

 

新橋P「……?なんですか?」

 

常務「いや、デジャヴを感じただけだ。私は仕事に戻るが、病院は『三日は安静に』だそうだ」

 

新橋P「はい。ありがとうございます」

 

常務「ちなみに先ほど急患があってな?看護士達もそちらに必死でだいぶ手薄になってる。かってに面会しに来たがこの分なら問題なく帰れそうだな」

 

新橋P「……結構、無茶しますね」

 

常務「お互い様だろう。ま、『あんまり医者に迷惑かけるんじゃない』ぞ」

 

新橋P「……!」

 

常務「全くお前のせいで仕事が急増だ。早く治せよ。じゃあな」

 

新橋P「……」

 

新橋P「(まだ間に合う……。俺が行くまで、早まるなよ、レン……)」