PFCS SS劇場!

パラレルファクター カルティベイトサーバーのSSをまとめるブログです。主にツイッターでのやり取りを纏めます!

強肉弱食

ルマンドさん、あなたにとって騎士道とは、どのようなものでしょう」


「こいつぁ雨が降るんじゃあねーですかい?あのお気楽のんびりお優しーい殿下のぼっちゃんが、馬鹿に哲学をお聞きなさる。騎士道ってもんがこの俺にあると思いますかい?」


 あぁ、茶化しましたよ。なんたって俺は貴族っつーもんが一番嫌いですからね。おべんきょーの時間は昼寝に限る。起こしやがったらぶっ飛ばす。そんくらいよぉ、いくらおたくでも、ちょっと考えりゃわかるもんなんじゃねーの?下らねぇ質問に答えてる暇があったら、小銭でも数えてたいもんでしょ。おたくらの言う、下賎の民っつーもんは所詮そんな奴等ばっかりだ。


ルマンドさんは、聖騎士ですから」


 ……それなのにこのガキんちょは、皮肉も受け取らねーときた。どうも噛み合わねーわ。やっぱ頭でごちゃごちゃと思考する凡人の王様の方が、よっぽど話やすい。俺は馬鹿だけど、ここまで間抜けじゃねーですよ。今のが俺に対する侮辱になってるっつーことも、わかってねぇんでしょーねぇ。
 聖騎士様、ね。へーへー、念推ししなくともわかってますって。俺はおたくらに負けたんでしょ、徹底的に。だからこんな場所にいる。ようはそういうことですよ。ですからねぇ……


「……騎士道なんてもんは知りませんけどね、弱ぇもんは喰われる。そいつが俺の信念ですよぼっちゃん。そこに罪悪感なんてありますかい?つえぇ奴が生き残る。弱ぇ奴が死ぬんでしょーよ。そりゃ、寝しょんべん垂れの赤んぼうだって知ってますし、俺はそのクソガキ程度のことしか知りませんよ」


 弱肉強食って奴だ。どんなに泣き言喚こうが、所詮はそれに尽きちまう。抗えねぇ摂理であり……世間様に虐げられた俺たちの、唯一の美学なんですわ。
 そうだろ。勝てば好きに出来るんだぜ。残酷とか言わねーでくれよ、俺たちは産まれながらにお前ら貴族の犬。負け犬だ。好き放題に虐げられる負け犬なんだよ。勝ちとらなきゃ、永遠にな。そいつを教えてくれたのは、他でもねぇ、おたくら貴族のみなさんだ。
 その唯一残された俺たちクズの生き方を、残酷だとか言える奴ぁ、世界で一番残酷な野郎だよ。


「わかりました?だから俺みてーなただの賊に、騎士道なんつー立派なもんは……」


「それならルマンドさんは、やっぱりお強いのですね」


「……おい、あんた一体何を聞いてたんです?どうしてそうなる?」


「貴方は生きていますから」


 ……困った。
 こんときの俺は心底困った。冗談抜きで固まっちまった。寒い冗談飛ばされたからじゃあねぇ。その時の殿下の目を見ちまったんだよ。

 なんつー、死んだ目をしてやがる。

 

「───!!おい、あんた……」


「良いお話が出来ました。参考にしたいと思います」


 殿下のぼっちゃんは、それで充分だってな感じで背中を向けたよ。その鎧も着てねぇ薄っぺらい服だけの弱そうな背中を、他でもないこの俺に対して向けた。心臓丸出しの位置でだ。
 そうだ。おたくも思った通りな、無様でも生き残りゃそいつは強者。どれほど格好つけようが、死んじまえば弱者。


 俺はなぁ、ぼっちゃん。弱ぇ仲間を切り捨ててきた頭領だ。あんたらのような大義名分なんてありゃしねぇ、足手まといの仲間を容赦なく捨てた個人主義のならず者なんですぜ。
 あんた、罪もなんもねぇ仲間を殺した経験はあるかよ。俺は、それが出来るから生きてこれた。こーやってな。
 そういう奴に背中を向けて良いんですかい、なぁ、『貴族様』よ。


 俺は、手に持ったナイフを、殿下の背中に向けて───

 

 

 


 ───床に放り投げた。

 

 


「やっぱり、貴方は強い人です」


 直感的に感じる。俺は恐らくたった今……弱者にならずに済んだ。
 どんな世界で生きてきたのか、あのぼっちゃん……既に死に慣れてやがる。
 ありゃ、闇討ち程度じゃ殺せないんでしょーねぇ。ま、一緒にいりゃ俺も死ぬことないわけで。


 へーへー、わかってるって。それで充分。俺は満足ですよ、ショコラ殿下。

地獄の中の騎士

「カリソンさん、今日もお手合わせ願えますか?」


 無邪気に笑う殿下は、我々聖騎士団においても要となりえる存在だ。このように幼い顔を見せて、その上華奢な体つきで、女性でも振るえるような細く短い剣を使いながらも、豪腕で知られる俺やサクリス卿の剣をいとも容易く捌ききる。包み隠さず白状すれば、我々聖騎士団はこのお方に手加減をされることが我慢ならなかった。
 腕自慢の集まりが、なぜ子供などに翻弄される。納得いくはずもない。もしも殿下が王族でなければ、憤慨するは必然だったろう。


「御意に。ショコラ殿下」


 俺は貴族として当然の誇りがある。主君には仕えるが正義を感じなければ迷うことなく反逆するだろう。俺の剣が従う者は人ではなく正義だ。故に、赤髪の卑劣な蛮勇などにいつまでも従う気は無かった。
 だが、謀反を起こす事は難しい。その理由が目の前にある。この時代は、ある意味力こそが正義だ。認めたくは無いが、最も強き騎士はショコラ殿下をおいて他にない。まだ年端もいかぬその若さで、この百戦錬磨の聖騎士団を何故こうも翻弄できる。
 考えなしに突撃するは我が兵法、しかしこのお方にだけはそれは通用しないのだ。


「カリソンさん、ひとつお尋ねしても良いですか?」


「は。なんなりと」


 その日、殿下は俺に問う。敵に騎士たる精神はあるのか、と。俺はその問いに、自らの意を答えた。


「騎士道を持たぬ者が戦地に赴くとすれば、その者にはこの世が地獄に思えましょう。運命に逆らうが故に剣を取る。死を前にしたのなら、騎士でなくとも戦いを選ぶ。このカリソンが信ずる騎士道とは、そのような地獄の亡者を産み出さぬよう、民に代わって死に逝く者共を制圧する、殺戮の代行者の精神でございます、殿下」


 その回答に殿下は、変わらぬいつもの表情で……そう、すなわち笑顔でお答えくださった。


「そうですか」


 その時、俺の感じた殿下の視線は、俺ではなく民に向けたものだと直感した。何故、殿下はそのようなことを聞いたのか。何故、俺の問いを笑顔で受け止めたのか、俺にはわからなかったのだ。
 俺は、殿下の思想と対照的であると、常日頃感じていた。向かってくる者は誰であれねじ伏せる、恐怖を敵国に植え付ける、執念の騎士と呼ばれるこの俺の思想だ。いかに自分が傷つこうとも、万人に救いの手を差し伸べる優しき殿下には、俺の考えなど理解できまいと、そう勝手に盲信していた。


 ただ、殿下のあの視線が持つ感情は、怒りでも蔑みでも、失望でも無いと俺は感じた。
 そうだ。あれはまるで……
 
 今更どんな感情で人を斬るべきなのか悩んでいるような、そんな目をしていた。


 誰よりも強くあり、誰からも愛されるべき心を持った、あまりに理想的な存在が、何故我らのような手を汚した者共の騎士道を見定めているのか。

 いずれにせよ、俺はその日に理解した。
 殿下は恐らく、我々聖騎士団と違い───

 


 ───たった一人、地獄の中で戦い続けているのだと。

 

 

【アイラヴ祭】きくりのライブ

 唸り響き、はしゃぎ暴れて 雪溶かし、真夏の如く、 疲れ飛ばして もっともっともっと!
 最高の舞台は 暴走 アクセル踏み鳴らして 限界超えて先に行け GO!GO!GO!
 
 甘える暇があるなら踊ろう 人生はずっと曲の鳴るライブ 
 共に揺らせ 臨海突破 それこそがダンス!!
 
 きくりが手を振りかざすたびに、風はエフェクトを描き続ける。近くに寄った鳥たちも、散歩していた犬や猫も、楽しそうに一緒に歌う。
 満面の笑みで全身を、思うがままに動かし続け、はしゃいで歌うきくりの姿に観客はあこがれる。いつか、少年少女だった頃、あんなに笑顔で遊んだことが誰しもあった。童心に返りたい、そう思った時には既に、誰もがあの頃の純粋な眼差しで、きくりと共に遊びたいと、心が訴えだしていた。
 みな、仕事があり、学校があり、生活があり、家族がある。常識とルールの中で自由に生きているつもりでも、俯瞰してみれば檻の中。ラジオに繋がれた首輪をつけて、それでも枠の中で精一杯満足しようと妥協する道を選んでしまう、それは致し方のないことだろう。
 こうしてアイドルを応援しにライブを観に来ていたとしても、それは大人の視点であり、彼らの頭に浮かぶ明日のこと、これからのこと、それらが行動をセーブする。限界までは遊べない、それこそ大人の現実だ。
 
 だが、あの子を見るとどうしてこんなにもわくわくしてくるのだろう。
 壁なんて最初から無かったじゃないか。毎日倒れるまで遊んで帰ってきたあの頃も、次の日にはまた更に元気よく遊んでいたじゃないか。あの頃の自分は、全てが可能性に満ちていたじゃないか。
 年齢を重ねたから、大人になったからできなくなったんじゃない。勝手に自分が殻に籠っていたんじゃないか。
 想いはダムが崩壊したように、井戸から空の青さを知ったカエルのように、夢は、いつ、どこからでも叶うのだと、そう子供のころはずっとそう信じていたじゃないか。
 
 あの頃に戻ろう。夢を見よう。
 観客は、檻を跨いで、一歩先へと踏み出していった。
 
 ━━━もっともっと、遊ぼーよ!あしたも、あさっても、ずっとずっと遊びたい!まだまだ、ぜんぜん遊び足りない。だってさ、だってさ、みんなとうたうと、こーんなに毎日楽しいんだもん!
 
 天帝セブン最年少、白玉きくりの全力のライブは、言葉通り、夢と希望に満ちていた。
 長く、長く、時間が過ぎるその時まで、一度もペースダウンすることもなく、歌えば歌うほど、踊れば踊るほどもっとはしゃぐその姿。観客にとっての明日が、ごく普通の日常であっても、前へ、先へ、休むことなく歩けるだろう。
 
 ━━━カラスがないたらかえりましょ!あしたもきっと、たのしいことがいっぱいあるから!だから、今日はおわかれ。またあそぼーね!ばいばーい!!
 
 無限に続くかと思えたライブも、時間が来てしまえばあっけなく終わる。だが、観客はそれでも嬉しかった。きくりが元気に帰って行けば、明日もきっと楽しいと思えるだろう。そう考えるだけで憂鬱だった明日が楽しみになってくる。
 そうだ。最初から人生は、自分の遊び場だったのだ。
 
 きくりが天帝である所以。それは、人々を元気に……ただ、ひたすら元気にできることだ。
 海を越え、インターネットを渡り、世界中がきくりに注目し続けた。そしてその数だけ、人々に元気を与え続けていた。
 歌えば歌うほど、踊れば踊るほど、限界なんて全く無いぞと言わんばかりに元気になっていく姿。
 ファンは、きくりをこう呼んだ。
 
 バーサーカー、白玉きくり。
 
 彼女は無尽蔵の元気を持った、太陽のようなアイドルである。

【沿玉】コーンウォール

 大人のいない公園のベンチに座る、胡散臭い帽子の男、コーンウォールは静かに語る。


 ──さぁ友よ、ご覧なさい。このお話は遠いどこかの物語。懐かしいいつかの物語。あるいは、今ここで生まれた物語。私が読み聞かせるのは、君たちが初めて知る世界の物語だ。


 紅い髪の少年が、虫歯を見せて笑う。


 ──おじさん、そんなのが本当にあった話なわけないよ。だって、この世には悪魔もお化けもいないんだから!耳のとがった人たちも、俺見たことないもん!


 コーンウォールは、片目にかけた眼鏡を揺らし、鼻の下の細い髭を撫でて笑った。


 ──なるほど、君は妖怪や精霊の民を見たことがないという。見たことがないなら存在しない、そう、言いたいのだね。


 ──そうだ!お父さんもお母さんも、学校の先生だって見たことないに決まってる!だからそんなの、いるはずがないんだ!


 コーンウォールは、一枚の絵を胸から出して、得意気な顔でその少年に問う。


 ──これは、なんだと思うね。君もきっと知っている動物だろう。


 ──……あ!狼!絶滅した、ワコクオオカミ!


 他の少年たちがざわざわと近寄って絵を見る。虫歯の少年は、得意気にみんなに語る。その様子を見て、コーンウォールは少年の髪を撫でた。


 ──友よ。君はこのオオカミを知っている。だが、私はこのオオカミを見たことがない。はてさて、このオオカミは本当に存在していたのだろうか?


 ──それは……


 虫歯の少年がうつむき、言葉につまって泣きそうな顔をする。ふと、コーンウォールが手を振ると、いつのまにか少年の前にチョコレートが現れた。


 ──!!どうやったの!?


 ──これは手品と言うのだよ。なにもないところから何かを出すことが、私にはできる。だが、オオカミを出すことはできない。出し方を知らないからね。


 ──知ってれば、オオカミも出せるの?


 ──出せるとも。


 虫歯の少年は、目を輝かせて笑顔になった。コーンウォールが少年の赤い髪をひとなですると、ぽんぽん、と手を弾ませて、愉快に語る。


 ──君は、正しいのだよ。そう、この世界はまだこの世に存在しない。だが、もしも知ることができるならば、この話は現実にあったことになる。『観測』すれば、世界は新しく増えていく。……だが、この国がこの事実を受け入れる為には、もっと理解者が必要なのだ。


 子供たちは首をかしげた。難しい言葉が多く、理解が追い付いていないようだ。


 ──なに、今の言葉は、君たちが大人になればわかること。それは、時間が解決してくれるよ。それよりも、君たちはもっと沢山本を読みなさい。


 ──本を読んだら、本に描いていることが本当になるの?


 ──さぁ、それは私にもわからない。だが、君たちが視たいと心に願うのならば心に願った者にだけ、世界は現実になるだろう。


 コーンウォールはマントをはためかせると、子供たちにそれぞれ本を手渡して、スーツケースを持ち上げた。


 ──さ、あれをみたまえ友よ。あの光は、我々が見たことがない世界、すなわち宇宙に浮く星のひとつ。そして、いずれは我々の世界の一つとなる。新たな世界でまた会おう。


 ──うん!ご本ありがとう、おじさん!……おじさん……?


 少年たちが振り向くと、そこにおじさんはいなかった。周りを見ると、少年たちの母親が、世間話をしていたり、サラリーマンが弁当を食べていたりした。


 ──おじさんは?


 ──おじさん?お姉さんだろ?


 ──ちがうよ、大男だった!


 ──僕は老婆にみえたよ!


 皆、口々に違う姿がみえたと言った。性別のみならず、角が生えていた、とか、白目が黒かった、とか、耳が尖っていた、羽が生えていた、など絶対間違えないであろう特徴を言った。


 ──夢だったのかな……


 ──でも……


 虫歯の少年は、手に持った本とチョコレートを見て、笑顔で答えた。


 ──コーンウォールはほんとにいるよ。だって僕たち、見たんだもん!


 ──本に書いてる話も、ほんとかな?


 ──ある!


 赤い髪の少年は虫歯を見せて、大きく笑った。

求めても。

 廊下を素足で歩く。ひんやりとした空気が大理石から伝わって、春先のあたたかさを忘れさせる。ここは、どんな季節でも冬のような寂しさがある。こんなに大きなお城の中でたった四人だけの生活だ。明かりも点いていない廊下には、白くもやがかかって見えた。
 リビングで待つお城の主、真っ白な雪の肌のメルバ様は、こんなにも寒いお城の中でいつも肌を見せている。手に触れるとすごく冷たいけれど、微かな温もりが確かにあった。妖怪ゆえの脆弱な身体が、命の鼓動を色濃く伝えてくる。凄く弱々しくても、強く、強く生きている。僕から見たメルバ様とは、そういうお方だった。


「珍しく、考え事をしているようね」


 いつも二人で朝食をとる。そして、決まってメルバ様から話しかけてくれる。その声は落ち着いていて、朝露のように澄んでいる。メルバ様はパンを一かけ千切り、スープにつけて、そっと口に運んで僕の返答を待った。あたたかいミルクを飲み終えた僕は、会話を続けるように問い直す。いつもの光景だった。


「そのように見えますか?」


 もぐもぐと、小さくパンを含んだ口が動き、こくりと静かに喉を通る音が聞こえる。テーブルは二人で使うには大きすぎて、お互いが手を伸ばしても届かない距離だ。飲み込む音は、きっと僕の想像だ。でも微かに聞こえた気がするほどに、この食卓は静かだった。


「聞いてみただけ。悩んでるかどうかを見分けた訳じゃないわ」


 またパンを千切り、スープにつけて、一口食べる。あなたが喋る番、と伝えるように、ゆっくりと、味わいながら声を待つ。慌てる必要もなく、考える猶予も残しながら、食事の間も僕を不安にさせないように気遣ってくれる。どれだけ会話の下手な僕でも、たった一言でも聞いてくれるこの態度が、心のそこから安らぎをくれた。


「……鬼ちゃんは、子供の頃はどんな子だったのかなって」


 メルバ様はそれを聞いて食器を置いた。少し長いこと、その言葉を考えるために、ややゆっくりとパンを咀嚼する。やがて、考えがまとまったように飲み込むと、一口紅茶を含み口を拭いた。


「それは、本人にしかわからないでしょうね。……でもその問いは、私なら胸にひっそりと仕舞うわ」


 今度は少し大きめにパンを千切ったメルバ様は、丁寧に、手を汚さないように、器用にジャムを塗り始めた。自家製のアメジストベリーの、メルバ様が大好きなジャム。たくさん、たくさん盛ってから、まるで子供のように一口で食べた。さっきまでのおしとやかな食べ方と対照的に、大きく頬を膨らませ、とても満足そうにもぐもぐ食べている。僕の返答に思考する時間を与えてくれた証拠で、よく考えなさいと母親のように課題を出したのだろう。他でもない、僕の為に。


「……鬼ちゃんは、昔のことを思い出したくないでしょうか」


 考える為に食事の手を止めてしまった僕に、ジャムの瓶を滑らせた。綺麗に僕のお皿の前で止まると、今度は頬に手をあてて、テーブルに肘をついて微笑む。先程までとてもお行儀の良かったメルバ様は、食の進まない僕の為にあえて少しだけ、作法を無視して見せた。その態度までが、僕の目にはとてもおしとやかでかっこよく写った。


「素直に考えてみなさい。あなたが知りたいことは、あの子の過去ではなく、あの子そのもの、なのでしょう」


 会話をしながら、ギザギザのナイフでパンをそっと切る。僕もその様子をまねて、厚めにパンを切った。まるでダンスの手解きをうける子供のように、ジャムをつけるところまで真似させられてしまう。すると、目の前のパンがとても美味しそうに見えてきて、気づいたら大きく頬張っていた。その様子をみてメルバ様は満足げに微笑み、紅茶をくちもとに運んで語った。


「相手のことが知りたくなるのは、それも一つの愛情よ。でも、過去はとっても複雑ね。忘れたい過去を持つ者も、戻りたい過去を持つ者も、みんな、思い出すのが辛いのよ」


 紅茶を一口飲んでから、僕が下を向く前に、メルバ様は『でも』とすぐに続けた。


「それでも、人は過去から逃げてはいけないわ。どのようなことがあっても、前に進む為にはね」


 途端、鬼ちゃんの暗い顔が脳裏に浮かぶ。以前鬼ちゃんは、何度か僕の前で口を紡いだ。嫌な過去を思い出したように見えた。あんなに嫌な顔をする、そんな過去を僕は知りたかった。それは、好奇心ではなくって、単に僕が寂しくなったからだった。


 僕は、過去の記憶が無い。思い出すのがとても怖い。それは未知のものだから。今思い出しても、鬼ちゃんたちと一緒に居続けたいって思うからだ。それでももし、僕に鬼ちゃんたちと一緒にいられなくなるような、とっても嫌な過去があったなら、僕は一体どうすれば良いんだろう。……それくらい、同じくらい、鬼ちゃんの過去に嫌な思い出があったなら、鬼ちゃんはどれだけ辛い思いをしているのだろう。
 メルバ様は『逃げてはいけない』と言った。僕、あるいは鬼ちゃんは、一体何から逃げようとしているんだろう。甘いアメジストベリーのジャムが考えをぐるぐると刺激して、わからなくなって、僕は答えを探すように顔をあげた。


「求めても良いのよ。本当は何も怖くなんて無いのだから」


 メルバ様は、いつの間にか空になった食器をワゴンに乗せて、カラカラと厨房に運んでいった。ひたひたと素足で歩いた白いあとが、音もなく消えていくのを眺めた。焼きたてのパンは冷たくなっていたけれど、ジャムをつけて食べると、僅かにあたたかみを感じた。


 また今日も、僕の一日が動き出したような気がした。

【ガォ・ウィーク村】おひさま君、起動

「Code:0130 再起動 シマス 。 設定ノ 更新 ヲ シテクダサイ 。 二度目 ノ 設定 ニハ 初期化 ガ 必要 デス 。 」


「はいなのー!ミジューイやって!」


「はいはいお待ちくださいませ。んー、説明書によりますと、設定ボタンは首元の……これですね」ぽち


「一人称 ヲ 選択 シテクダサイ」


「いちにんしょーってなぁに?」


「私、とか、僕、とか、自分を呼ぶときに使う言葉遣いのことですよ!」


「うーんと、うーんと、男の子なの」


「はい。ショートカットで少年のような可愛いお顔ですね!」


「だから、『ぼく』が良いの!!ぴったりなのー!!」


「かしこまりました!あなたの一人称は『ぼく』です!」


「了解シマシタ 。 ボク ノ 二人称 ヲ 選択 シテクダサイ」


「今度は、皆さんを呼ぶときに使う言葉ですよ!」


「どんなのがあるの?」


「んー……『あなた』とか『きみ』とか、変わったのですと『そなた』や『きでん』とか」


「んーと、んーと、よくわかんないの……ミジューイが決めて!」


「では、『きみ』と呼んでいただきましょうか。男の子ですからね!」


「了解シマシタ 。 キミ ノ 名前 ヲ 設定 シテクダサイ」


「ミコッシュなの!そんちょー!」


「ミジューイです。よろしくお願いします!」


「キミタチ ハ ミコッシュ ト ミジューイ デ マチガイ ナイ デスカ」


「うん!」


「はい!」


「了解 シマシタ 。 初期設定 ヲ 適用 シマシタ 。 使用言語 ヲ 選択 シテクダサイ」


「お待ちくださいね、全国標準モードがこれですから……」


「違いがあるの?」


「恐らくわずかな訛りや口調を合わせているのでしょう。何せ旧型ですから、今より違いがあったのだと思います。現代語パッチというものを搭載して下さったので、恐らくこのままで大丈夫です」


「設定が完了しまシタ。ドウゾ、よろしくお願いシマス」


「あ、ほら、流暢に喋ってくれましたよ村長!」


「すごいのー!!よろしくなの!!」


「よろしくお願いシマス ミコッシュサマ!ミジューイサマ!精一杯 働きたいト思いマス!最初の命令をドウゾ!」


「めーれー?そんなことしないよ?」


「エッ」


「お願いすることはあるかもしれませんけれど、私たちはあなたをこのガォ・ウィーク村にご招待したのですわ。お好きに過ごしていただいてくださいませ!」


「住人が増えたのー!!嬉しいの!!」


「……ア、アノ…… デスがボクはご主人様の命令ヲ受けないト何もすることがアリマセン……。何かお役に立てるコトはアリマセンか?」


「そーなの?」


「んー、確かに説明書にもそう書いてありますね。ではひとまず私たちと過ごしてもらうのはどうでしょう」


「そーね!一緒にお昼寝するのー!」


「オヒルネ……成る程!ボディーガードというコトデスね!お任せクダサイ!」


「違うの!!おひさまくんも一緒に寝るの!!」


「エッ!!」


「今日は天気が良いので、充電もかねてお外でお昼寝しましょうね!」


「チョット待ってクダサイ!その……おひさまクンとは……?」


「おひさまくんはおひさまくんの名前だよ?」


「えぇ、太陽光で活動する初期型のアルファさんですから、村長がおひさま君と名付けました!いかがでしょうか?」


「……ハ、ハイ!トテモ素敵なネーミングデス!アリガトウゴザイマス!」


「それじゃあお昼寝するの!こっちだよー!」


「気に入ってもらえて良かったですね、村長!」


「(……その、ミジューイサマ、一つダケお聞きシテもヨロシイでしょうカ……)」


「大丈夫ですよ?なんでしょう」


「(ボクの敬称が『クン』なのは、コノ村の文化なのでしょうカ……)」


「おや、不思議なことを仰いますね。親しい間柄ですと、女の子なら『ちゃん』、男の子なら『くん』と呼ぶのですよ!」


「オトコノコなら『クン』……」


「そう、ですのでおひさま君はおひさま君なんです。さ、私たちもお昼寝に行きましょう!」


「エッ、ア、ハイ!ただいま参りマス!!」

 

 

 


「……(ボクは……女性型アルファなのデスが……イエ、些細なコトデスネ……)」

【バレンタインSS】女子の本格チョコ作り体験!

キャナレット「さてと……今年はやるつもりも無かったけど、集まっちまったもんは仕方ないね。男子禁制、本格チョコ作り教室、早速始めるよ!」
 
一同「はーい!!」
 
キャナ「まずは簡単な自己紹介と、どうしてチョコを作りたいのか訊かせて貰おうか。ここにはオトコなんざ居ないんだ、恥ずかしがって嘘つくんじゃないよ!!いいね!!じゃ、そっちから順に答えな!」
 
アルテルナリア「え……あ、はい……はじめまして、アルテルナリア・ベーレンアウスレーゼと申します……私少々身体が弱く頼りないので、お兄様やお姉様だけでなく、まだ小さい弟からも心配されてしまいます……。自分で何かをやりきったことも多くなく……この機会に日頃のお礼も兼ねてチョコレートを作ってみようかと思い立ちました……」
 
エナン「ボクはエナン。エナン・ポティロン。魔女見習いの修行の一環で、ばばさまにあっと驚くチョコを作りに来たんだ。お菓子は幸せになれる魔法だって、ばばさまも言ってたし」
 
レイリ「レイリ。モスサターニア。今年は息子にチョコをあげたい。きっと喜ぶ。お菓子は手作りが一番。でも、レイリは作り方わからない。教えてほしい」
 
煙慈「あたしは煙慈ってもんだ。恥ずかしながら、鬼ん中じゃあもうお婆さんでねぇ……。老後の楽しみというか。昔、恥ずかしがって出来なかったことを、死ぬ前にたくさんやっておきたくてね。ま、たまには娘に美味しいものでも作ってやりたいんだよ」
 
ミコッシュ「ミコッシュアイガスだよ!そんちょーなの!!」
 
ミジューイ「ご無沙汰しております、キャナレット様!グノーメアの精霊、フロマージュ・パンナコッタでございます。私たち、キスビットから栽培中のカッカォの加工について、一からお勉強させてもらいたくお伺いしました!」
 
キャナ「はいよ、アルテルナリア、エナン、レイリ、煙慈、ミコッシュちゃんにフロマージュだね。よくお聞き!始める前にこれだけは言っておくよ!『チョコ作りは甘くない』からね!!覚悟しておくんだよ!」
 
一同「はーい!!」
 
キャナ「それじゃ、まずは今朝届いたばかりのカッカォを配るよ。いいかい、この無駄に大きな実の中には、とても固くてべらぼうに苦い小さな実がしこたま詰まってるんだ。そいつを取り出すために、この棒を使って……」
 
バコンッ
 
キャナ「こうやって割る。さ、やってみな!」
 
煙慈「へぇ……。案外スポーティじゃないか。あたしは鬼だから、こういうのは有利だね」パコンッ
 
キャナ「ふっふん。鬼だからって手抜いてちゃソイツは割れないよ。遠慮せず、ボカッてやりな!」
 
煙慈「……ありゃー、結構力込めたんだけど割れないなんて、随分丈夫な殻だねこりゃ……。大丈夫なのかい、女の子の力じゃ相当頑張んないとダメそうだよ?」バコォ!
 
アルテ「え、えい……!はぁ、はぁ、えいっ……!!はぁ、はぁ……びくとも……しませんっ!!」ポカッポカッ
 
エナン「な、何かコツがあるんじゃない?キャナレットさんはあんなに簡単そうに割ったんだしっ!!」パコッポコッ
 
レイリ「っ!!わ、割れた……!とても硬い種類のチーズに、似てる……!」バコッ
 
ミジュ「うーん、鉱山の採掘を思い出しますわ。軽く叩いてみて、起点を探して一気に叩くのですよ、村長!」パカーンッ
 
ミコッシュ「うーん、わかんないの!!えい!!えい!!あっ!!」パコッポコッパカンッ
 
エナン「うっ……!み、ミコッシュちゃんが割ったよアルテさん……!」ポコポコ
 
アルテ「ふぅ……ふぅ……す、すみません……私……息があがってしまい……」フラッ…
 
キャナ「おや、大丈夫かいアルテルナリア。でも、諦めんじゃないよ!言ったろう、チョコは甘くない。闇雲にやってたって割れやしないよ。これは女の戦いなんだ、勝つために色々やってみな!!」
 
アルテ「はぁ、はぁ……い、色々……こんなとき、アスペルギルスお兄様なら……」
 
 
 
『ぬはは!!戦争とは常に万全とはいかぬもの、否、それどころか優れた将ならば弱味を決して逃さぬものよ!つまり逆境こそが戦いなのだアルテルナリア!!攻める時こそ勝機を見定め、攻められんとする時こそあらゆる手を尽くし『力』ではなく『知』で勝つのだ!さぁ、我が妹よ!非力な己が巨人を相手に打撃でもって屈服させるつもりならば、そなたが持つべきは強度と利便性に長けている剣ではない!狙うは初激のみ!つまり、『アレ』の出番である!!』
 
 
 
アルテ「……そうです、お兄様……。こんなとき、私が最も扱える武器は……この、『手拭い』……!!」
 
エナン「手拭い?そ、そんなんでいったいどうする気なのさ!」
 
アルテ「簡単です、エナンさん……。この手拭いでカッカォを包んで、端をしっかりと持ちます……そして遠心力をつかって思いっきり……地面に叩きつけます……!!」バコォッ
 
レイリ「こ、これは!!『ブラックジャック』!!」
 
煙慈「おぉ……!恐ろしいねぇ、今のは鬼でも当たったら痛そうだね。女の子でこの威力かい……」
 
キャナ「懐かしいねぇ、若い頃はこれでよく油断した兵士をノしたもんだよ」
 
エナン「な、なんてファンキーな人なんだ……よし、ボクも……!!」パカーンッ
 
キャナ「よし、全員割れたね!!でもまだまだ序の口さ、本当に大変なのはここからだ!今取り出した種を6日程発酵させるんだけど……」
 
エナン「6日!?そ、そんなに待ってられないよ!!」
 
レイリ「バレンタインデーが終わってしまう……!モカのチョコ、作れない!!」
 
キャナ「話は最後までお聞き!!エナン!!レイリ!!せっかちな女は舐められるよ!!」
 
エナン「うっ!ご、ごめんなさい……」
 
レイリ「すまない、良くアセる……。レイリの悪い癖……」
 
キャナ「あたしも忙しいからね、既に発酵させたのを用意してるさ。そっちは記念に持ってかえりな。でも、実を割るのがどれだけ大変か知らないと、ありがたみってもんがないだろ?これも大事な料理の一環さ」
 
アルテ「知りませんでした……私たちの身近なチョコがこんなにも大変なものだったなんて……」
 
ミコッシュ「でも楽しいのー!!次はどうするの?」
 
キャナ「次はこいつを使って『カッカォマス』を作るよ。ようは、すりつぶしたカレー粉みたいなもんさ。この作業は本来とても時間がかかるんだけどね、煙慈がいりゃあちょちょいのちょいだ、交代しながらみんなでやるよ!」
 
煙慈「アタシかい……?ってことは、また力仕事ってことかい。あはは、なんだい本当にハードじゃないか、チョコ作り!楽しくなってきたね!」
 
エナン「それで、いったいどのくらい混ぜるんだろ。六人で回すから……三十分くらい?」
 
キャナ「冗談じゃないよ。生クリームやメレンゲを泡立てるんじゃないんだ、三十分なんて人の手じゃ無理さ。そうさね……煙慈がいるから、早ければ二時間で終わるよ」
 
一同「に、二時間!?」
 
キャナ「こんなことで一々驚くんじゃないよ!!料理は愛情、女の愛は安物じゃないのさ!!手間暇かかってやっとできるからこそ、想いが宿るってもんだ!
 
レイリ「で、でも、ここまでで既に六日……!更に二時間……鬼が居ても二時間かかる……!それ、一人ならもっとかかる……!」
 
エナン「これも力仕事だよ……!と、とてもじゃないけど、いつもおやつに食べる程度のチョコレートにここまで時間かけるっていうのは……」
 
キャナ「おばかだねぇ……いいかい?お前たち!これだけの手間暇を誰にも見えないところで頑張って、それでもかまわないって程の意中の相手に渡すのがバレンタインチョコってものの重みだよ。ここで折れるってことは、所詮はその程度の相手ってことさ!愛さえあれば、戦争にだって屈しないんだからねぇ、大変に決まってるだろうに!」
 
ミコッシュ「むー……困ったの……」
 
ミジュ「村長……ま、まぁ、私たちは単なる体験ですし、またの機会にしても私は……」
 
ミコッシュ「……こんなにチョコを作るのが大変なら、村にもアルファさんが必要なの。レンタル発注の手続きをしなくちゃならないの……」
 
ミジュ「村長……!!……もう既に村の発展のことまで視野に入れて……流石です、村長!発注の件は私に全てお任せ下さい!」
 
煙慈「……(へぇ、このちびっ子、この歳でリーダーシップをとってるのかい。……良い頭領になりそうだね。今度、紫電を誘って村とやらに観に行こうか……)」
 
アルテ「……みなさん、私、最後までやってみようと思います……」
 
エナン「アルテさん……!」
 
アルテ「……身体が弱くても、愛があるならば頑張れる……。なんだか、そんな気がするんです……。人間のパパが我が国を治められた理由が、愛なのですから……」
 
エナン「……うん、アルテさんがそういうなら、ボクだって頑張んないと。負けてられないよね、レイリさん!」
 
レイリ「当然……!モカが待ってる……それだけで、レイリはずっと頑張れる……!」
 
煙慈「そうかい、なら、あたしも乗らなきゃ鬼失格だねぇ!みんなですっごい上等なチョコを作ろうじゃないか!!」
 
キャナ「お前たち……ふふ、良いじゃないか。人は誰だって誰かの為に生きてる。その『奉仕の心』があるなら、オトコなんてみんなイチコロさ!女の強さ、見せてみな!!」
 
一同「はい!!」
 
 
***
 
 
 
キャナ「よし、そろそろいいんじゃないかねぇ……。ちょっとざらつきが残るかもしれないが、かえって風味が出て美味しいもんだ。アルテルナリアは無理しないでそこで見てなさいな」
 
アルテ「……す、すみません……不甲斐ない限りで……」
 
エナン「そんなことないって!!今日、一番頑張ってるのは絶対アルテさんだよ!ボクはそう思うよ!」
 
レイリ「アルテルナリア、最後までやった……!愛がなきゃできない……!」
 
ミコッシュ「すごいのー!!そんちょーよりもたくさん頑張ったの!」
 
ミジュ「えぇ、決してあきらめずに……素晴らしいですわ!」
 
煙慈「自慢じゃないけど、体力には自信のあるあたしでさえキツかったんだ。良くやってたさ!こっちの士気も上がるってもんだ!」
 
アルテ「みなさん……」
 
キャナ「いいかい、これからこいつに多量の砂糖と、あらかじめ絞り出したカッカォバターを加え、いよいよチョコになる。ここからは湯銭で焦らずゆっくり温めながら混ぜれば、みんなも知っての通りのとろけたチョコレートが完成さ。頑張った分、その味はどんな高級チョコも目じゃない、絶品の愛の結晶の誕生だよ!」
 
エナン「お、おぉ……!!すごくきれいなチョコレートだ……早く食べてみたい……」
 
レイリ「エナン。プレゼント用って忘れてる。あせっては駄目。まず、型に入れて冷蔵庫!」
 
煙慈「ははは、レイリに言われてるんじゃ駄目だねぇエナン!なに、気長に待つのも楽しみの一つだよ。船旅は帰るまでが冒険だからね」
 
エナン「わ、わかってるさ!いつもうるさい使い魔達に言われてる!」
 
ミコッシュ「動物さんにもあせってるっておこられちゃうの?エナンかわいそう!」
 
ミジュ「ふふ、エナンさん、墓穴を掘られましたようですよ」
 
エナン「あ!ち、ちが……!!くそー!!でもばばさまは褒めてくれるんだぞ!!」
 
アルテ「……エナンさんは……ばばさまが大好きなのですね……愛を感じますよ……ふふ……」
 
エナン「な、なな!!なんだよーう皆してボクをからかって!!みんないい人たちだと思ったのに!!くそー!!」
 
キャナ「はいはい、なごやかなところお邪魔するよ!時間が勝負なんだ、みんな好きな型選んで流し込みな。その上でもまだ沢山あるからね、各々ケーキとかの為に持ち帰るといいさ。氷の属性を込めたガーディアンストーンもつけるから、遠くから来たって子も安心しな。これなら砂漠にいたって溶けないよ!」
 
エナン「みんなどれにするの?ボクはシンプルに星かな……。よく夜空観てるし、結構こういうの魔女っぽいって思うんだよね」
 
レイリ「蛾の形あった。これがいい。モカも男の子だ、大きな羽がかっこいいはず」
 
煙慈「それ蝶々じゃないかい……?まぁ、紫電にあげるならこのうさぽんの形とか気に入りそうだね……口では嫌がるだろうけどねぇ」
 
アルテ「私は……これがいいです……トカゲの形……ふふ……なんて可愛い……」
 
ミコッシュ「鳥さんがあるの!!これにするの!!キスビットにも大きな鳥さんがたくさんいるの!!」
 
ミジュ「あら、宝石の形もあるんですね。エレガントですわ!私はこちらで……」
 
キャナ「うんうん、皆、自分らしいものを選んだみたいでわたしゃ安心したよ。ここまできて適当に選ばれちゃ、たまったもんじゃないからね。全く、こういう女ごころをわかってないからぼっちゃんは未だ愛に気付かないんだ……さっさと結ばれちまえばいいのに、意気地の無い王様だよ……!」
 
エナン「誰の話してるの、キャナレットさん?」
 
キャナ「あぁ、いやこっちの話さ。身内にどう見たって両想いの良い歳したカップルがいてね。毎日一緒に居るってのにどっちもアタックしないんだ。もどかしいったらないよ」
 
煙慈「えぇ?なんだいそりゃ。そんなの見たら突っつきたくなっちまうじゃないか!……あ、いや、こういうとこがまた『おばさん』って言われちまうのかもしれないな……ははは」
 
レイリ「レイリ、わかる。結婚、いつでもできるとは限らない。行けると思ったら行くべき!!子供、大切!!」
 
エナン「そういうもんなのかなぁ……。ボク、考えたこともないや。良い人なんてほんとに見つかるのかな……」
 
アルテ「エナンさん……弱気じゃ駄目ですよ……。恋は突然に現れると言いますから……」
 
ミコッシュ「なんだか大人の会話なの……。ミジューイも、好きな人いるの?」
 
ミジュ「そうですねぇ、異性というのであれば、私も変わり者ですが精霊ですから……もうお亡くなりになられましたけれども、偉大な前精霊長様の事をお慕い申しておりましたね。そう考えますと、恋愛観も種族によって違うのでしょう」
 
エナン「じゃあさ、みんなどんな人がタイプなの?ねぇねぇ!」
 
レイリ「子供に尽くすタイプ……!」
 
煙慈「あたしはもちろん、強さだね!腕っぷしだけじゃなくて、度胸や覚悟も強い男が良いオトコの条件だよ!」
 
アルテ「私は……趣味を理解してくださる殿方が良いです……毒蛇にも怖がらない方……」
 
ミジュ「私は先ほどの繰り返しになりますが、信仰心がより強く正しい偉大なお方に惹かれます。エナンさんはどんな方を?」
 
エナン「え、ぽ、ポク!?いや、い、いないよまだ!そもそも男ってあんまり話したことないし……」
 
煙慈「またまたー、自分で振っておいて答えないのはナシだよエナン!白状しな!!」
 
レイリ「大事……!!貴重なチャンス、逃さない為にも決めるべき!!」
 
アルテ「ドレスタニアの聖騎士さんとか……どうですか……?綺麗な顔立ちがそろっておりますし……」
 
キャナ「あはは、ダメダメ!あんな朴念仁ども、好きになったら痛い目みるよ!ま、それでも好きになっちまったら、剣ふるよりこっちを見ろって耳にタコができる位言うことだね!」
 
ミコッシュ「あ!!わかった!!キャナレット、せーきしと付き合ってたんでしょ!!」
 
ミジュ「あぁ、なるほど!さっすが村長、するどいですわ!!」
 
キャナ「ちょ、ちょっとやめとくれ!もう随分前の話で今はあんな奴ら……」
 
レイリ「キャナレット……!!……チョコ、固まるまで時間ある……!!」
 
煙慈「へぇ~?ずいぶん昔に、騎士様と……?なになに、愛の匂いがするじゃないか、えぇ?」
 
エナン「な、なにがあったんだよ!!……別に気になるってわけじゃないけど……勉強の為に聞きたい!」
 
アルテ「ドレスタニアのロマンスでしょうか……うふふ……アンナさんをお呼びするべきでしたね……」
 
キャナ「ちょっとちょっと!!なんだい皆して!!……別に楽しくもないよ!バタバタしてただけで!!この話は終わり!!」
 
ミコッシュ「でも、いっぱい愛してたんでしょー?」
 
ミジュ「当然ですわよねぇー!あんなに愛について詳しいのですもの!ね、村長!」
 
キャナ「あぁーもう!!お前たち今更元気になってどうすんだい!!長くなるよ!!この話は!!」
 
レイリ「なるほど……!!これが愛の力……!!」
 
キャナ「欲の力だよ!!お馬鹿!!」