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パラレルファクター カルティベイトサーバーのSSをまとめるブログです。主にツイッターでのやり取りを纏めます!

【武闘大会】女帝VSおみくじ【Aブロック第一試合】

 Aブロック第一試合、オーロラ信仰精霊、『女帝』こと、キャヴィアーヌ・トリュフォア・ド・グラウニウス26世、対するはおみくじ信仰精霊、吉凶みくじ。開始早々から精霊同士の加護対決という題目にどのような頭脳戦が待っているのかと期待が膨れ興奮冷めやらぬ観客達であったが、みなの本命である名前からして謎の深い女帝・キャヴィアーヌの到着が遅れて既に三十分が経ち、期待が空回りし続けた事によるストレスで、空気がどんよりとざわつき始めていた。
 
「不戦勝!!これは私の勝ちであるべきですよ審判!!何故なら相手が逃亡したからです!!早いとこ私の勝利を確定させてしまいましょう!!ね!!いいでしょうもう私の勝ちで!!往生際が悪いです!!」
 
 椅子もない戦地に立たされ続けてついにしびれをきらしたみくじは、せわしない様子のままキスビットより派遣された審判役を務めるアルファ、テイチョスに対し抗議を続ける。内容は不戦勝を認めろというものだ。
 この大会の基本ルールでは、審判が候補者の中から毎試合ランダムで決まることになっていて、勝ちも負けもその時の審判次第である。無論、複数の審査員より『公平』であることを認められたもののみが審判を務める事ができ、彼らの一言が試合において絶対である。当然ながら、安全性を第一に、万が一の時にも身体を張ることのできるエキスパートたちだ。
 テイチョスは表情を変えず、静かに彼女を説得する。
 
「それはできない。トラブルの可能性があるからだ。今しばらく待機していただきたい」
 
 やれやれ、というジェスチャーを加えながらいなし続ける。そう、彼はこういう手合いの扱いを知っていた。誰かさんの我儘はこの比ではないのだ。歳の差もそこまで離れていない為、いつものように真顔で言葉を受け流し続ける。
 しかし、時間稼ぎはみくじにとって逆効果であった。この少女、テイチョスの良く知る女の子よりも大胆であり、端的に言って『節操』がなかった。あの手この手を試しつくそうという気合がオーラのごとくあふれていることを、『問題児センサー』にてキャッチしたテイチョスは、一筋縄ではいきそうにない事をすぐに予感した。
 
「そんなことしたら間に合ってしまうではないですか!!私は勝ちたいのですよ!!楽して!!運良く!!漁夫の利で!!ですのでえぇ、それなら仕方ありません!!サービスしますよ審判さん!!ほ、ほら!!おへそくらいなら見せてあげますから!!ちらり!!ね!?是非ここは私の勝ちにしてください!!よろしくお願いします!!」
 
 謎の焦りからプライドまでかなぐり捨てて色気皆無のやわはだを晒す。はっきり言って魅力のかけらもありはしない、少々だらしのないちょっとむっちりした腹部。華奢ではあるが筋肉が赤子のソレであり、内臓が持ち上がらずみっともなくややたるんでいる。つまるところ着やせしたら安心してしまうタイプだろう。これに魅了されるものは相当なニッチであることは明白である。
 会場の客達がいる前でも堂々とろくでもない交渉をするみくじに呆れて苦笑するものもいれば、その図太い精神にむしろ感心するものまでいた。
 
「ワタシはアルファだ。色欲の機能は備えられていないし、審判の買収は反則行為にあたる」
 
 みくじは彼の機械的な反応にわざとらしくびっくりし、両手を上にあげてひょうきんに笑う。はっきりいって彼女にとっても相当恥ずかしいことなのだ。しかしもしかしたらという期待にワンチャンかけてみたものの、いざ意味が無かったと知ればこれはもう本来ならば切腹モノの恥さらしである。だが、そんな限りなく低い可能性にかけなくてはならぬほど、今のみくじには余裕がなかったのだ。
 
「なんですとぅー!?今の無し!!無しでお願いします!!っていいますか試合まだ始まってないですしセーフ!!ギリギリセーッフ!!はい!!次行きましょう次!!」
 
 ぱっぱぱっぱとさらなる作戦の為に袖から目薬を取り出す。次は少女という年齢を活かして泣き落とし作戦を決行するハラだ。そんな様子も会場からは丸見えであり、誰もがその時こう思った。『それは恥を晒す前にやれ』と。
 そうこうしているうちに、何やらただならぬ気配を察知する。
 
「やれやれ……。む、生体反応アリ。どうやら間に合ったようだ」
 
 選手の入場コーナーから規則正しい足音が聞こえてくる。会場の全員がその音に注目し、みくじは一人頭を抱え、絶望的な顔でその場にうずくまった。
 
「ああぁ……不戦勝かと思ったのに……!戦う前におみくじ引くんじゃなかったですよ……!!今日の私は大凶なんですよおぉぉぉぉ!!」
 
 冷や汗と涙を垂らしつつあわあわとろくろを回すしぐさで心を整えようとする。『運気が悪い時は一時的に信仰を捨てろ。むしろその方がマシになる』とは、父がまだ母と出会ったばかりの頃に、ビシっとかっこいい服と絶景のデートスポットの丘で、いざ告白しようとした瞬間に頭に鳥の糞が落ちてきた時に学んだという吉凶家に伝わりし格言である。端から見ればずいぶんと怪しいが、出来合いのエア・ろくろに浮気信仰している真っ最中であり、これは大まじめの儀式なのだ。
 
「七番!早く壇上に…………?なんだこの夥しい数の生体反応は……」
 
 異様な気配に審判と言えども身構えるテイチョス。しばらくして現れたのは、数にしておよそ数百、たぐいまれなる屈強な肉体をもつ、ガチムチな精霊軍であった。ぶっちゃけるともう加護に頼る必要すらない見た目で分かるほどのタフガイ達。したたる汗にドン引きするみくじは普通にヤバイものを見た女の子らしい心からの悲鳴をあげ、多足類を連想させる全く新しいムーヴで隅っこまでシャカシャカと後ずさる。
 
「ひ、ひえぇぇ!!なんですかあの軍団は!!どれが対戦相手ですか!!出来れば端っこのやや小さい人がいいんですけど!!って、何あのキングサイズのベッド!?」
 
 むさくるしい大群の真ん中辺り、みれば、兵士達が大きなベッドを御輿のように担いでいるではないか。金の光沢に色鮮やかな宝石が埋め込まれた単純にしてゴージャスな最高級っぽいベッドである。それを肩に担いだまま整列した兵士達は、声を揃えながら百獣の王の如く猛々しく叫ぶ。
 
『女帝様のぉ!!おなーりぃぃぃぃ!!!』
 
 会場の歓声がかき消される程の叫びは、ビリビリと空まで響いた。戦士たちによる一斉咆哮、会場の全ての者たちがびっくりしない筈もなく、有無を言わせず静寂に包まれる。しばらくするとベッドから起き上がった、細く、艶やかで、太陽の輝きに反射するお肌が綺麗で、それはそれは眩しい、大変に、もう大変に、超、超、超グラマラスな女性が、ゆっくりと腕をあげておしとやかにあくびをしたのである。
 
「……ふあぁ……。妾のお昼寝を妨げる者は誰ぞ……」
 
 そう、それはただのあくび。なのになぜ涙が出てくるのだろう。眩しく、芸術的な程美しく、その場にいた者はみな見惚れてしまう程に神々しい。女帝を中心に七色の輝きが放たれる。キラキラと、色味豊かに光だす。昼のオーロラ……それはきっと誰もが予想すらしなかったものだろう。辺り一面が楽園と化す、幻想的なこの世界そのものこそが、彼女の持つ加護である。
 
「おぉ……これは……辺り一面が七色に……」
 
 アルファといえどこの現象は解析不可能。何故なら、これは『信仰』だからである。そう言ってさえおけば誰も口を挟めないのが、精霊のズルいところである。故にこの美しさは、データに表すことは不可能。生で見れない者たちは残念だったと、のちに語られることだろう。
 
「寝起きこそ美しくなくてはな……妾の加護ぞ……ありがたく受けとるがよい……ところでここはどこぞな……」
 
「はわわ、ただのあくびがとてつもない美しさ……断食後に見る霜降おにくのよう……つ、強そう……」
 
 ビクビクとしながらもなぜかよだれをたらしかけるみくじ。当然、このみくじも精霊の一人。一般人とは見えているモノが違う。同じ精霊同士、相手の格が知れてしまうというもの。だからこそみくじは恐怖したのであった。
 満を持して登場したこの女帝こそ、第一試合の対戦相手、オーロラ信仰の加護を持つ大精霊キャヴィアーヌである。
 ……だが、本人は何がなんだかわからないといった顔で辺りをキョロキョロ見回していた。
 
『女帝様!!誠に恐縮でございますが、第一試合でございます!!』
 
「第一試合とな……。はて……」
 
『武道大会にございます!!女帝様自ら家臣の反対を押しきって参加表明をしたことをお忘れですか!!昨夜まで再三お伝えして参りましたがやはりお忘れですか!!』
 
「あぁ……そんな話もあったな……が、しかし許せ……鏡を見ると妾のあまりの美しさで忘れてしまうゆえな……」
 
 これはまずい、と察する兵士。それもそのはず、この幸せそうなうっとりとした顔つき……『二度寝』の予兆なのだ。焦る兵士に割り込むように、彼女の前に立つは審判、テイチョス。
 
「……試合放棄であれば八番の不戦勝となるが……」
 
 女帝は扇子を持つような手つきでパタパタと顔をあおぎつつ、テイチョスに向けてクスクスと微笑んだ。仕草一つにまばゆい輝きがついて回る。これがテイチョスでなければ恐らく身動きすらとれないことだろう。見てほしい、あのみくじの可哀想な姿を。残念ながらあれほど濃いキャラとして初登場デビューしたはずの彼女が、インパクトで完全敗北である。あの涙はきっと目薬ではないだろう。
 
「そこなアルファよ……。それでは、妾を運んで来た美しき兵士たちに申し訳がたたぬであろう。受けてしんぜよう、その試合とやら……感謝するがよいぞ……」
 
「ち、遅刻してなお上から目線……!!このひと強い……!!」
 
 不適な笑みを浮かべるキャヴィアーヌ。だがその行動も全て美しく映えることに下唇をかむみくじ。信仰度の違いでここまで誰にでもわかるほど圧倒されるものなのかと、父親に対し妖怪ばりの呪詛の念を送る。
 このまま付き合っていてはらちがあかないと判断したテイチョスは、みくじを横目にしつつ多少強引に試合開始を試みる。
 
「それでは改めて試合開始の合図を……」
 
「ちょーっとまったああぁぁぁぁ!!」
 
「うむ……?」
 
 この土壇場に来て大声をあげ試合開始を新たに阻止しようとしたみくじ。もうアルファであるにも関わらず非常に億劫な顔を作るテイチョス。まだ何かあるのかと一周回って期待する観客。これが最後のチャンスとみたみくじ。目を優しくこする女帝。
 
「どうした8番。トイレは試合前に済ませるようアナウンスした筈だが」
 
「と、トイレじゃないですって!!ハレンチですねあなた!!そんなことよりですねぇ、試合の前にここはひとつ、お近づきの印にとおみくじなぞ用意しておりましてぇ」
 
 お前どこから出したんだ、とヤジが飛ぶ謎の大きな六角形の箱をシャカシャカとふりながら、みくじはまるで営業スマイルのような笑みで近づいた。この顔は確実に良くないことを企んでいる顔だ。その場の誰もが一瞬で悪事の予兆を察したが、目をこすっていた女帝はぼやけまなこでよく見えなかったので、普通に反応してしまったのである。
 
「おみくじとな……?」
 
「えぇ、おみくじですよおみくじ!この試合の勝負の行方を占うんですよ女子っぽく!!ね、いいでしょうこういう趣向も悪くないでしょうそうでしょう!?」
 
 やべぇこと企んでる、と警戒し、ゴッツ重そうな剣をがちゃり、と構える兵に対し、女帝は美声のまま「よい」と兵を止めて微笑んだ。
 
「ふむ……現代のおなごの戯れというものか……。美しくは無いがしかし妾は好意を無下にしない系のナウい女帝よ……アゲアゲよな……」
 
 唐突な若者言葉にみくじは一瞬ひるみかける。当然、兵もひるみかける。意外にも軽すぎて観客もひるみかける。だが、みくじはこれをチャンスとばかりに、食いぎみでたたみかける。
 
「あぁーっ!!話がわかる女帝で良かったです!!なんかすいません!!ではお先にどうぞ!!しゃかしゃかぽい!!」
 
 サッと六角形の箱を前に出すが、一瞥してベッドから降りようとはしないキャヴィアーヌ。騙された感満載で困惑の表情をつくるみくじ。いや、思い出せ。今お前が騙してんだよみくじ。
 
「妾は引かぬ。そなた、代わりにはよう引いて参れ」
 
『は!恐悦至極!』
 
「ななな、なんですとおおおぉぉぉぉ!?!?」
 
 唐突に指名された兵士はガシッと六角箱をつかみ、ひっくり返してシャカシャカした。みくじの顔が青ざめ、冷や汗がだばだば出る。ふふ、と微笑みながらキャヴィアーヌは、両手を太陽にかざしてうっとりと語る。
 
「この通り……わらわは既に『まにきあ』を塗っておるでな……今日一日、何も持つことかなわぬ……ふふ……美しきかな……」
 
 そんな馬鹿な、と兵士が振っている箱を奪い返そうと、みくじが咄嗟に飛びついた決して痩せてない自身のウエストよりはるかに太いその二の腕は、みくじ程度の重りなど空気のようなものであると知らしめるように止まらない。あられもない顔で身体ごと降られながらみくじはおみくじの中止を訴える。
 
「ちょっ!!ちょっと待って貰えます!?やっぱりおみくじ無しにしましょう!!えぇ!!絶対大凶ですから!!意味ないですよおみくじなんてははは!!ね、お返しください!!ちょっと、あっ!!ダメ!!」
 
 その忠告に手を止めた兵士がひっくり返していたおみくじ箱から、強烈な急ブレーキの拍子におみくじ棒が出てきてしまった。しかしその棒は、まるで血塗られているかのごとく真っ赤であり、でかでかと『大凶』の文字がかかれている。
 
『女帝様!!ご報告致します!!我らの大凶でありました!!』
 
「あっぶねぇぇぇぇぇ!!っしゃああぁぁぁぁぁ!!」
 
 みくじはガッツポーズで吼えた。何事かと誰もがその奇行に驚き、何か敵に塩を贈ってしまったのではないかと顔を青くした兵士は、キャヴィアーヌに跪き頭を下げて謝罪した。
 
『申し訳ございませぬ!!なんなりと罰をお与えください!!』
 
「よい……おみくじなど気の持ち方次第よ……よい、妾は許す……大義であったぞ……」
 
 愉快愉快と、邪気のない笑顔で許すその顔に、兵は至福を感じていた。かくも美しい女帝からの許し。今の彼にとってこの笑顔こそが大吉であったのだ。
 微笑ましい一連の流れをぶった切るように、みくじは顔芸レベルの邪悪な笑みを浮かべ、女帝に向けて指を指す。
 
「ところがどっこいぎっちょんちょん!!そうはイカの黄金焼き!!ひっかかりましたねぇ!!近くばよって目にもみよ!!これがわたくし吉凶みくじの天駆ける大吉ですよぉ!!」
 
 バァン!!と手に大吉のおみくじ棒を掲げたみくじ。その姿に感心した様子の女帝。そう、先ほどのだらしない少女とは比べ物にならない程の『出来る女オーラ』がみくじに宿っている。彼女の加護、『おみくじ信仰』の真骨頂である。彼女はこの『大吉』という結果に対し、どんな天啓よりもアツい信頼を寄せるのだ。故に、博打じみた瞬発性の加護であり、この大会のように短期決戦の戦いにおいては恐ろしいほどの効果を発揮する。特に、この加護には『それまでの運気が最悪だった時程大吉の効果がアップする』という特徴がある。当然、おみくじとは『良い結果だけはガチ信用するもの』だからである。必死なのだ。
 
「……ほう……。小娘にしては見事と言わざるを得ない加護を感じるではないか……。よいよい、げに美しき信仰よな……」
 
 漏れ出す加護の気を読み取る女帝。他の精霊の信仰度を一目で判断するのは一流の精霊たる証拠でもあるため、会場の精霊たちはみな女帝の持つポテンシャルに注目した。無論、みくじも一瞬動揺したが、自身の有利が傾くことはないと自分に言い聞かせふんばった。何せ大吉である。
 
「大吉により私の総戦力はおみくじを引いた相手に対してのみ竜人をしのぎます!!うふふ、負ける気がしないっ!!さぁ、試合開始です審判さん!!」
 
 ドヤ顔が場の空気を燃え滾らせる。みくじの大吉パワーは、今まさに自覚となって現れる。間違いなく今の自分は『大凶より強い』のだ。何故なら、大吉だからである!
 
 が!!
 
「引いたのは妾ではないがの」
 
「あっ」
 
「試合開始!!」
 
「ちょまああぁぁぁぁぁぁ!!!待って待って違うんですうううぅぅぅぅ!!!」
 
 パニックに陥るみくじを前に、女帝はゆるりと動き出す。光の残像がオーロラを作りながら放物線を描く。送り出すように光り輝くベッドから、まるで重力を無視するがごとく、優雅にふわりと地上に舞い降りた。
 
「久々の真剣勝負よな……ふふ……腕がなるわ……」
 
 その長い髪が太陽光に撫でられて七色の輝きを放つ。当然会場はその様子にみな見惚れたまま。そのあまりの美しさに言葉までも失い、会場は静寂に包まれた。
 
『女帝様がお立ちになられた!!なんてお美しい姿!!』
 
 鼓舞するかの如くほめたたえる女帝の従者達。一丸となってエールを送られる姿はまさに大国の王たる証拠。まぎれもない、正真正銘の女帝の姿がそこにある。このキャヴィアーヌ、まさに本物のカリスマがここにある。
 場の空気に飲まれかけたみくじは、圧倒する覇気に負けないよう、大声を張り上げながら目を見開くと、女帝に向かって一目散に走りだした。
 
「くうぅぅぅぅぅ!!こうなったら先手必勝!!全身全霊の捨て身タックルううぅぅぅぅ」
 
「……」
 
 疾走するみくじから目をそらすこともなく見つめ続ける女帝に、兵たちはまるでうろたえるかの様に騒ぎ出す。ここに来て更に予想外の行動を起こせるのかと、彼女に可能性すら感じてしまう。一応、彼女も大吉である。相手が大凶ではないとはいえ、このタックルは『大吉』のタックルである。それはある意味、とても怖いものなのかもしれない。
 
『女帝様!!まともに受けては危のうございます!!お避けください!!』
 
 一人の兵士が絶叫にも近い忠告をするが、尚も女帝は動かない。ぶつかるあとすんでのところで静かに目を閉じると、口元に優しい微笑みを浮かべて呟く。
 
 
 
 
「……足が痺れたでな……」
 
 
 
 
 会場は再び凍てついた。
 
「どりゃあああぁぁぁぁ!!」
 
 一人、状況を把握せず無我夢中で雄たけびをあげて向かってくるのはまぎれもなく対戦相手の精霊である。いかに少女であろうと、全くの無防備な相手に対しての全力のタックルは相当の衝撃になるに違いない。だらしない身体がここにきて武器に代わる。これぞ大吉パワー。そして、このみくじ……岩をも砕くと言われる程に、石頭で有名なのだった。
 一流の精霊であれば、息をするかの如く自然と自らの因果律を遡ることができるという。かくいうこのキャヴィアーヌもまた、自他ともに認める大精霊であった。眼を開き続けることで、この先身に降りかかるであろう出来事を嫌でも予測してしまう。
 
「(あれなるは、恐らくあの日、ウミガメのスープで口をやけどしてしまった時に勝る痛い出来事なのだろう。ならば妾には耐えられぬ)」
 
 女帝・キャヴィアーヌは痛みに対する覚悟を考えるのをやめた。
 
「あぁ……これが世にいうところの走馬燈……ふふ……これはこれで美しいものだが……なかなかおもはゆいではないか……」
 
『女帝様ああぁぁぁぁぁぁ!!』
 
 
 
 
「そこまで!!」
 
「オヴッッ」
 
 アルファ式ホイッスルが鳴り響く。息をのむような攻防の決着は、審判であるテイチョスの手で止められた。勢いを殺すことなく突っ込んだみくじのみぞおちが鈍い音を響かせ、その美しくない音に女帝は恐る恐る目を開いた。
 
「……おぉ、審判とやら……」
 
「勝負あり!!戦意喪失により8番の勝利!!」
 
 審判の右手が大きく上がる。同時に、会場からは割れんばかりの拍手が巻き起こる。終わりよければすべてよし。この勝負、精霊同士のハイレベルな掛け合いがあったのだと、よく訓練された観戦者達は脳内補完したのである。あの女帝相手によくぞ敗けずに戦った、次も応援するぞ、と会場から激が飛ばされる。
 だが、肝心の勝者である吉凶みくじは遅れて襲ってくる残酷な痛みに集中しており、その声が彼女の耳に届くことは無かった。
 
「ミゾオチ……ハイッテ……ガクリ」
 
 みくじの綺麗な気絶顔を見て、女帝はほほ笑んだ。足のしびれがやっととれたのである。そして、会場の歓声につられてなんだか楽しくなってきたので、とても清々しい顔で会場から去っていった。
 
「げに美しき試合であった……みくじとやら……ないすふぁいとであったぞよ……」
 
 上機嫌な女帝がみくじを称賛する意味を込めて去り際に放ったオーロラの輝きは、この世のものと思えないほどの美しさであり、その場のものはみなその光景に目を奪われた。みくじのみぞおちが大変なことになっているという現実を誰もが忘れ、夢心地な気分のままで女帝の退場を見送った。
 
「誰か……オイシャサマを……ゴフッ」
 
 みくじは会場で一人、腹部の痛みを相手に第二ラウンドを繰り広げていた。故に彼女はしばらく目覚めることはないだろう。しかし、彼女はあの女帝に勝ったのだ。運も実力のうち。これもまさに『大吉』のお陰である。恐るべしおみくじ信仰。恐るべし吉凶みくじ!!
 
 Aブロック第一試合、勝者は精霊・吉凶みくじ!!せめて読者だけは、彼女に惜しみない拍手をお願いしたい!!

【ガォ・ウィーク村】博士の果樹園計画

ミジューイ「ミコッシュお嬢様、この後のご予定ですが」
 
ミコッシュ「だめ!!そんちょーってよぶの!!」
 
ミジューイ「かしこまりました、それではミコッシュ村長、この後のご予定は『おやつタイム』からの『お昼寝』でございますが、今からですと約30分程度空き時間がございますわ」
 
ミコッシュ「んー。じゃあこうするの。おやつをいまたべて、そのあとおひるねをながくとるの」
 
ミジューイ「いけませんわお嬢様!」
 
ミコッシュ「そんちょー!!」
 
ミジューイ「失礼、いけませんわ村長!それではお夕食まで持ちません!」
 
ミコッシュ「えー……それならおやつをもういちどたべればいいの」
 
ミジューイ「なりません!!おやつは三時に一度と決まっておりますわ!!それに、お夕食はドレスタニア風、ふわふわのオムライスですのよ?」
 
ミコッシュ「ふわふわのオムライス!!」
 
ミジューイ「そう、ふわふわのオムライスですの。ですから、ここは我慢なさってくださいませね」
 
ミコッシュ「うん!!でも……じゃあどうしよ……」
 
ミジューイ「いつものように、ここガォ・ウィーク村のお散歩でもいかがでしょう?また新たなる発見があるかもしれませんわ?」
 
ミコッシュ「!!そーね!!またおさんぽするの!!じゃ、きょうはかじゅえんにいくの!!」
 
ミジューイ「果樹園ですね、流石お嬢様!!」
 
ミコッシュ「そんちょー!!」
 
ミジューイ「失礼、流石村長!!お目が高いですわ!!実は今、諸外国から植物に詳しい学者の方をお招きして、順調に発展しておりますの!!」
 
ミコッシュ「ほんと!?わぁい!!かじゅえんみれるの!!」
 
ミジューイ「えぇ、きっとお喜びになりますわ!それでは早速向かいましょう!」
 
ミコッシュ「ついたわ!!」
 
ミジューイ「そう、お話をしながら既に歩いていたのです!!」
 
ミコッシュ「わぁ!!たくさんの木があるの!!……でも、実がついてないわ……びょーきかしら……これではかじゅえんがさびしそう……」
 
ミジューイ「おじょっ……村長、無理もありません。まだ種をまいてから三日ですわ。実がなるのには時間がかかりますの。でも、根気よく育てればきっとすぐですわ!」
 
テルー「加護の力が無ければここまでの規模の木がこれほど早く成長することもないのだがね……」
 
ミコッシュ「!!あなたはだぁれ?わたしはそんちょーなの。えらいの!!」
 
ミジューイ「村長、彼が今回の果樹園を手助けして下さっている、チュリグからお越しいただいたテルー博士ですわ!」
 
ミコッシュ「はかせ?でも、こどもなの!!どうして?」
 
テルー「……むぅ」
 
ミジューイ「精霊は人間と違い、とっても長く生きる種族ですの。外見は、加護の力で成長を抑えることもできるのですわ!」
 
テルー「……私の場合、成長に割くエネルギーのリソースを思考力に回しているだけだがね……」
 
ミコッシュ「あたまにきのこが生えているのはどうして?」
 
テルー「……生えるときは生えるものなのだよ……」
 
ミコッシュ「ミジューイ、わたしにもあれはえる!?」
 
ミジューイ「生えませんわ!!あれはテルー博士のアイデンティティなのですよ、村長!」
 
テルー「……むぅ」
 
ミコッシュ「はかせ!!かじゅえんはどんどんせいちょーする?」
 
テルー「……それは問題ないよ。この地には土に対し、多くの信仰を感じるのだよ……。ここに植えた種子にはドレスタニアの薔薇貴族による加護が付属されているがね……その加護を授かった種は自らが気に入る大地であれば三日で木に育ち、気に入らなければ永遠に芽を出さないそうだよ……。つまり、ここの大地が特別良かったのだろうね……」
 
ミジューイ「当然ですわ!!この地は古来より伝説のビット神からの祝福をうけておりますの!!気に入らないはずがありませんわ!!」
 
ミコッシュ「すごしやすいのね!!それはいいことなの!!もっともっと、おはなさんやどうぶつさんにも住んでもらいたいの!!」
 
テルー「……私は約束通り、ここの土を船一隻分拝借するが、本当にいいのだね。土は植物学者にとって貴重なサンプル……もらうのならば大きく掘り返す必要がある……」
 
ミコッシュ「うーんと、うーんと、じゃああそこをたくさんほっておふろにするの!!」
 
ミジューイ「まぁ!!ナイスアイデア!!流石村長ですわ!!でも、温泉の開拓には専門知識が必要ですの。どうなさいましょう」
 
テルー「……薬湯ならここより北東の大陸にある、湯天源という国が詳しいだろうね……比較的近い筈だよ……この国の薬草などをもっていけばキスビットに適した効能の薬湯の調合方法くらい教えてもらえるかもしれないがね……」
 
ミコッシュ「ほんと!?ありがとうなの!!それじゃあ、すぐにやくそうをさがすの!!」
 
ミジューイ「なりません!!おじょ、、、村長!!」
 
ミコッシュ「えぇ!?どーして!?」
 
ミジューイ「それはなぜかといいますとぉ……!!」
 
ミコッシュ「……ごくり!!」
 
ミジューイ「もうすぐ三時、そろそろおやつの時間ですわ!」
 
ミコッシュ「ほんと!?わぁい!!おやつだいすきー!!」
 
ミジューイ「博士もよろしければご一緒なさってくださいませ!本日はドレスタニア風、サクサクサブレですの!」
 
ミコッシュ「さぶれー!!はかせ、いっしょにたべよー!!そんちょーめーれー!!」
 
テルー「……むぅ」

【沿玉】にんクラ

西子「この町って、ラーメンの店無いねん。奏山旅行したときは色々ごはん見つけたんやけど、観光用の値段って高いやん?でも、安くて美味しいラーメンの店見つけてな、初めて食べてウチ感動したんよ!」
 
ツン子「ラーメンね。確かに、沿玉と言えばこの坂道商店街だけど、パンとかカフェとかパスタとか、無駄に小洒落た店ばかりよね。テナントが色々入って可愛い街になってくのは見てて嬉しいけど、私ももう少し硬派な店が立ち並んでほしいって思ってる。できれば本場『辛国』のシャイニーズマフィアとかのドンが密告始めるような湯気の脂っこい辛国料理屋とかあればいいのにね」
 
西子「えー、物騒やん。もっとこう、店主が新聞片手に客席カウンターで画質のエラいことんなってもーたテレビ観てアクビかいてるようなのがえぇよう。あとくっさいメンマ」
 
ツン子「あぁ、もちろんくっさいメンマは必須ね」
 
西子「せや。くっさいメンマはなきゃあかんねん。絶対食べれへんけども」
 
ツン子「あれは様式美よ。刺身のたんぽぽとか、柏餅の葉っぱみたいなものね」
 
西子「それとなそれとな、ウチ、ねぎはしらがねぎがえぇねん。あったま悪いくらいのせたって」
 
ツン子「しらがねぎか……。でもあれ、歯に挟まるのがね。決まって奥歯なんだけど、とろうと思ったら縦に割けるのよ。お陰でとれてるようでとれないから私はパス。そんなことよりまずにんにくクラッシャーよ」
 
西子「にんにくクラッシャーって何?えらい強そうな名前やなぁ……」
 
ツン子「にんにくクラッシャー知らないの?コレよ」
 
西子「持ち歩いとんの!?って、なんやこれ、まつげ引っ張るやつに似とるね」
 
ツン子「これ、外国のレモンとかしぼる奴をニンニクに起用したのが始まりの、ラーメン店専用アイテムなのよ。外国の方がワコクに来て驚くビックリアイテムの一つ。ここにニンニクを入れて握ると、大雑把に絞られたフレッシュなにんにくが外気に触れて劣化する前にすぐ味わえるってわけ」
 
西子「すごぉ!!画期的やん!!ウチも欲しいわ~!!どこに売っとんの?」
 
ツン子「ドン・キングホースとかに売ってるわ。爆安の殿堂」
 
西子「なんや、ドンキンにおいとるん……あんまり珍しくないんやね……。ロマンないねんなぁ……。それにドンキンゆーたらでっかい駅にしかないやん。結構電車乗らなあかんわ……」
 
ツン子「でもこれ持ってる人は今のところ一人も見たことないわ」
 
西子「ほんまに!?やっぱりレアアイテムなん!?」
 
ツン子「えぇ、間違いなくレアアイテムね。きっと遊戯帝カードでエクゾディオスをコンプしてる人の数より少ない割合だと思うわ」
 
西子「凄いやんー!!ほんなら見せてーな!!絞ってるとこ!!ウチにんにく食べれへんけど絞ってるとこ見たいわ!!」
 
ツン子「嫌よ。臭くて持って帰れなくなるもの」
 
西子「なんでやねん!!使うために持っとるんちゃうん!?なんで持っとるんソレ!!」
 
ツン子「決まってるわ。衝動買いを自慢したかったからよ。やっと見せ場が回ってきたわね、満足したわ」
 
西子「……一応聞いとかなあかんと思うから聞くんやけども、いつから持っとん?」
 
ツン子「高校の二年からだった気がするわね」
 
西子「長っ!!数年越しやん!!しかも未使用なん!?」
 
ツン子「もちろんよ。にんにくを外で食べれるほどの度胸はまだないわね。いずれ思いっきりマシマシにするのが夢よ」
 
西子「全く乙女らしくない夢やなぁ……」

コロルの村の伝承

 昔昔、ある荒廃した山々に信心深い人間たちが暮らしていました。彼らは、徐々に徐々にと枯れていくその大地に、特別深い愛着があったのです。
 
 元は移動する民族。ですが世は波乱に満ちていて、隠れ住める地があるのなら根付きたい。そう考えた人たちは、考え方を変えました。すでにある土地に住むのではない、これから住む土地をはぐくんでいくのだと。
 
 誰も近づくことのない、薄く、寂れたその場所に、彼らは知恵を寄せ合って村をつくるのでした。田畑を耕し、過酷な中で育つ野草を探し、土を掘って泉を作り、形はひどい有様ですが、それでも少しずつ確かに、村は育っていったのでありました。
 
 ですがやっぱり人が住めるなど、夢のまた夢。思いついてすぐできるのなら誰しもがやっております。村人には限界が訪れつつあり、老人は負担を減らすために山を下り、若い者は考え方に納得できず飛び出して、そうして残ったこの者たちは、何かにすがっていかなくては心がもたないと、ついに悟ったのです。
 
 そして、村人は「偶像」を作り上げました。名は「コロル」。その地に元々居る神様と考えて、土や石でその像を作りました。大がかりなものは人手や材料が足りない為、コロルの姿かたちはとても単純なものになったのです。おかっぱで、ビーダマのような飾りと、器のような帽子を被った数センチ程の小さな神様。
 
 村人はコロルが住みやすく、喜ぶであろういろいろなものを村に用意しました。貧困極まりない、とても辛い生活だったのにもかかわらず、コロルの為の村づくりをし始めたみんなは凄く楽しみながら生活できていたのです。
 
 しかし、現実とはかくも無残な物なのです。どんなに少しずつ積み上げてきても、突然襲う自然現象には耐えきれなかったのでありました。村人は元移動民族の知恵を活かして避難に成功しましたが、コロルの村は何も残らず平たんに。少しずつ緑の増えた大地であっても、山のふもとという不運が災いし、上から落ちる濁流にみな飲まれてしまったのでした。
 
 コロルの村人は、一度はこの場所を手放そうとも考えたのです。しかし彼らは土着の神を作り上げてしまいました。コロルは、ここにしか住めないのです
 
 どれだけ時間がかかろうと、何度壊され、流されようと、村人はコロルの為にこの地を守りたかったのです。しかし、そんな余裕も、体力も、人手も、なにもかもが足りませんでした。
 
 絶望に涙する村人たち。ですが、その時でした。あの方が現れたのは。
 
 手を空にかざすだけで土を自在に操って、人が住むのにはあまりにも小さな家を、次から次へと建てていくその姿。彼らは不思議に思いました。とがった耳を上下に揺らし、優しく大地を積み立てていく少女。すなわち、精霊に出会ったのです。
 
 村人は問いました。何をしているのでしょうか。少女は答えました。小さな生命が私を呼ぶ声がした、と。そして、少女はその声に従うままに、声の主が住むという家を建てていたのでした。
 
 村人は驚きました。その小さな家の形に見覚えがあるのです。そう、みんなで作ったコロルの家。彼女が聞いた声の主は、なんと小人だというのでした。
 
 少女は村人に言いました。
 
「この土地には、加護が宿っている。信仰が芽生え、初々しい生命がある。故に、この土地は大事にしなきゃいけない霊脈になったのです。私は精霊。名を、『グノーメアリー・ロックフォルティ』。この土地を護る為に遣わされた者」
 
 グノーメアリーが両手を上げると、見る見るうちに村は蘇っていきました。この奇跡を称え、村人は彼女こそを神と崇めようとしましたが、メアリーはそれを拒みました。
 
「信仰対象が居るこの土地を、あなた方は私と共に守らねばなりません。私はあなたがたが信仰する神に、直接ことづてをいただいたのですから。それを忘れてはなりません。罰が当たってしまうのです」
 
 村人たちは、はっとしました。コロルはあくまでも自分たちが作った偶像。それなのに、彼女はそれに呼ばれたと言います。コロルは実在していたのです。そして、彼らはそのコロルを育み、ついに神様としての力を取り戻したというのです。
 
「偶然なことなどなく、全ては因果にあるのです。あなた方が信仰した神は、忘れ去られ、この世界に隠れてしまっていた神。ですが、あなた方がこの村を作り始めたとき、その手助けをしてくれていたのはその神様なのです。そしてあなた方は、細々とでも健やかに過ごせたことを、かの神様の恩恵と受け取り、正しい加護を授かることができました。故にあなた方は幸せであったのです」
 
 村人たちはメアリーの言うことを信じ、そしてコロルの神が自分たちを助けてくれていたことを思い知り、深く、深く心からの感謝をするのでありました。
 
 そうしてこの村の者たちは、メアリーとその仲間の精霊たちと共にこの土地を、コロルを守り続け、大地のすばらしさを信仰するようになったのです。
 
 どれほど貧しくても、どれほど辛くても、コロルは必ずいるのです。そして貧しい者たちを、ずっとずっと幸せになるまで見守るのでした。
 
 めでたしめでたし。
 

ナナクサ流VSシュンギク流

「ヒメムギ粉を300g程ほしい」
 
「はいまいど!あれあれ、君は……ナナクサさん家のソテツ君かな?」
 
「ん、あぁ、そうだけど。どこかで会ったか?」
 
「修行してるでしょ。あの山、僕も良く饅頭食べに行くんだ」
 
「饅頭……?あんなところで?」
 
「木の上で食べる饅頭は格別だよ!まぁ、どこで食べても美味しいけどね。君も一つどう?」
 
「いや、ヒメムギ粉を買いに来ただけだからな、持ち合わせがないから今回は遠慮するよ」
 
「お代なんていらないよ。なんたって、饅頭だからね!はい!」
 
「くれるのか?それはうれしいが……何か入ってるんじゃないだろうな?」
 
「あんこだよ?」
 
「そういう意味ではなくて……」
 
「せいろから出したらあっという間に冷めるよ、ほらはやく!食べてよ!一心不乱に!」
 
「な、なんだよ!なんか不気味だぞお前……!」
 
「君は黙って饅頭を食べればいいんだよ!!」
 
「は、はぁ!?やっぱり怪しいな!!タダより高いもんは無い!!返す!!」
 
「返す!?返すだなんてとんでもない!!その饅頭は君を選んだんだ、君に拒否権なんてないんだよ!!君はもはや食べるしかない!!」
 
「いやいやいやいや!!離せ!!その饅頭を近づけるな!!」
 
「観念したらどうだ!!饅頭は命より重い!!それを拒否することが何を意味するのかわかってるんだろうな!?」
 
「わかるかそんなもん!!うおっ!!あ、あっつ!!やめろおい!!いい加減にしないと容赦しないぞお前!!」
 
「上等だよ!!そっちがその気ならこっちも本気だ!!是が非でもねじ込んでやる!!」
 
「だから一体なんでそんなに俺に饅頭を食べさせたがるんだお前は!!」
 
「決まっているだろ!!饅頭がそこにあるからさ!!饅頭あるところに人立ち寄れば、それすなわち運命!!当然だ!!」
 
「意味が分からん!!くっそ、仕方ない!!相手になってやるよ!!って、のわ!!」
 
ヒュン
 
「修行をしているのはなにもナナクサ家だけじゃないのさ!ふふふ、君は槍と素手で闘ったことがある?」
 
「お、お前……!!シュンギクの流派か!!く、厄介な棒切れを振り回して……手に武器を持つなど恥を知れ!!」
 
「武器?は、違うね。これはこうして……こう使うんだ!!」モチィ
 
「饅頭を先端に!?うっ!!くそっ!!早い!!どんだけねじ込みたいんだお前は!!」ヒュンヒュン
 
「君こそなぜ饅頭を拒む!!饅頭が何かしたとでもいうのか!?否!!君はまだ本当の饅頭を知らないんだ!!」
 
「だーかーら!!怪しすぎるからだ!!初対面に饅頭ねじ込むやつがあるか!!」
 
「えぇいすばしっこい!!ナナクサ流は逃げるのが信条か!!おとなしく饅頭喰え!!この!!」
 
「……!!それは聞き捨てならないな。挑発には応える!見せてやる、ナナクサ流の奥義!」
 
「な!!饅頭をかいくぐった!!」
 
「うおぉ!!『七草・御形掌』!!」バシュゥン!!
 
うぐぅー!!」
 
「……ふぅ。これは対鬼用の掌底だ。だから本気じゃないぞ。実力の差がわかっただろ!」
 
「く……饅頭さえ……饅頭さえあればこんな奴に……!!」
 
「いや!!あっただろ!!先端にくっつけてただろお前!!」
 
「ちがう!!饅頭にも種類があるんだ!!点心を舐めるなよ……!!」
 
「はぁ……わかったからとりあえず冷静に襲ってきた理由を教えろよ。何が目的だ、お前!」
 
「ま、饅頭を君に食べてもらいたかった……」
 
「……え、いや、だからその理由を……」
 
「だから!!饅頭を食べてもらいたかった!!ただそれだけだ!!それだけなのに……君は人の気持ちもわからないのか?饅頭の気持ちも!!」
 
「饅頭はわからんだろお前以外!!」
 
「だからぁ……僕はただ饅頭を……饅頭を……」
 
「え、お、おい、待てよ……泣くなって……おい……」
 
「饅頭のなにが悪いんだよおぉ……うわぁぁぁ……」
 
「う……だあぁぁ!!もう!!わかったよ食べる!!食べるったら!!こんなところで泣くなったら!!」
 
「……ほんと?」
 
「根負けだよ。何がそこまで駆り立てるのかはわからんけど……だが条件もある!!」
 
「条件……!!饅頭の為なら致し方ない!!」
 
「その饅頭、半分はお前が喰え!!何も入ってないって証明するためにな!!」
 
「あんこだよ?」
 
「そういう意味じゃない!!」
 
「へへ……半分食べていいなんて、君、優しいんだね……」
 
「え、いや……その……」
 
「饅頭を二人で分かち合える。これはもう友達ってことだ。でしょ?」
 
「えぇー……ま、まぁ……同じ武を目指す者ってわかったしな……。本当にただ饅頭喰わせたかっただけ……?」
 
「もちろん!!なんたって、饅頭だからね!!いただきます!!ぱく!!」
 
「変な奴だなぁほんと……はむっ……む、う、うまい……」
 
「んぐんぐ……ふぅ。そうだろそうだろ!饅頭は美味いんだ!」
 
「そうだな……いや、疑って悪かった。ありがとな、ご馳走様」
 
「うん!!また来なよ!!いつでも饅頭用意しておくからさ!!これおみやげ饅頭!!」
 
「お、おいおい、こんなに貰ったらお前の分無くなっちゃうだろ……」
 
「いいんだ!僕はいつでも食べれるからね!それに、君は初めて饅頭を食べてくれた友達だから……」
 
「お、お前……」
 
「何故か誰も饅頭食べてくれないからね……妖怪だからかなぁ……」
 
「それ以前に無理矢理喰わせようとするな……」
 
「どうして!!饅頭はこんなにも美味いのに!!」
 
「饅頭の問題じゃないっての!!」
 
「へぇ……饅頭食べたがらないなんて、みんな変わってるなぁ……」
 
「お前が変わってるんだろ……そういやお前、名前はなんていうんだよ」
 
「あ、名乗ってなかったね!僕は『スギナ・シュンギク』。シュンギク流槍術四段。好きなものは……」
 
「饅頭だろ……」
 
「なんだって!?君はまさか、シックスセンス持ちなのか!?」
 
「そうだけどそうじゃない!!ここまでされれば誰でもわかるっての!!」
 
「正解した君にはとっておきの饅頭をあげよう」
 
「まだ持ってんのかよ!!」

【学園】姉の為にハロウィーン

「ソッテツ~!!」


「ソッテッツゥ~~!!」


「出たな悪魔姉妹……お前らが来るのは予想済みだ!!これでも持って何処かへ行け!!」


「なぁにこれは……お菓子?」


「お菓子なんていらないんですけど……」


「なっ……!!じゃ、じゃあなんなんだ!!一体何のようだ!?」


「いーい?ソテツ。私たちはいつまでもお菓子で喜ぶ子供じゃなくってよ?おわかり?」


「っていうか、このお菓子もしょーもないものばかりなんですけど!」


「まぁ!このペロペロキャンディとか!こんなもの女の子にあげて、ペロペロする様子をみたいだなんてやらしいんだから!うふふ」


「ちょっと!きもいんですけど~~!!くすくす」


「ち、ちがっ!!そんなつもりじゃない!!第一、俺はお菓子なんて普段食べないんだ……その、お、女の子がどんなのが好きかなんて、わ、わかるわけないだろ……!!」


「女の気持ちがわからない男子……くすくす、それでも男?情けないんですけどー」


「な、なんだとっ!?く……言わせておけば……」


「落ち着いて?ソテツゥ。いーい?女の子を喜ばせたいのなら、子供扱いしちゃダメよ?女の子は男の子に負けたくないの」


「ぐ……そ、そうなのか……?」


「そーよ。ま、男なんていつまでたっても子供なんですけど」


「うるさい!お前たちこそさっきからそうやって子供扱いして!!」


「え、怒っちゃう?この程度で?ほら、そういうところが子供なんですけど~!!」


「うっ!!こ、この……お、怒ってない!怒ってなんてないさ……!全然な!!」


「まぁまぁほらほら、ソテツゥ……いーい?大人だって言うなら、子供じゃないことをアピールしちゃダメよ。まるで背伸びしたちびっこみたいなんだから……」


「な、なるほど……強がると、子供扱いされるのか……」


「そーそー、良い男っていうのは、女を優位に立てるわけ。ま、子供にはわからないんですけど」


「……認めれば良いんだな、自分の未熟ってやつを……」


「おっ?」


「あらあらふふふ」


「わかった、観念するさ。この件に関してはお前らの方が詳しい。な、なら、例えば歳上の女性にハロウィンらしく喜んでもらうには、ど、どうしたらいいと思う?」


「!?」


「!!」


「(はっは~ん……分かりやすすぎてにやけが止まんないんですけど~……)」


「(ちょっとちょっとカルピス、良いこと思い付いちゃった!い~い?あのね……)」


「(!!それ最高なんですけどー!!さすがポカリスお姉さま超エグいんですけど!!)」


「ハロウィンで、歳上の異性の相手を喜ばせたい。なるほど~。それならソテツ、いーい?大人の女性というものは母性に飢えているのよ」


「ぼ、母性……?」


「そーそー。構われるより構ってあげたい、男のわがままにつきあってあげたい、そんな風に考えるわけ。ですけど」


「それってつまり、こっちが構ってもらおうとすればいいってことか……?」


「そーよ。いーい?ハロウィンは子供の行事……それはある意味チャンスです。今日一日だけ子供に戻れたら、きっと大人の女性は喜ぶことよ?」


「た、例えばお前たちもそれで喜ぶのか……?その、……こっちからトリックオアトリートって言えば……」


「もっちろーん!そんな風に声かけられたら、高級なお菓子たっくさんあげちゃうんですけどー!!」


「そーよ!それが近しい人なら尚更よ?いーい?例えば良くできた後輩や……かわいい弟なんかだったら特に!」


「な、なるほど……為になった。さっきは悪かったな、お前たち!」


「別に気にしてないんですけど。くすくす……」


「どういたしまして。ふふふ」


「それじゃ、俺は用事があるから。それはもういらないからやるよ。誰かにあげてもいい。じゃあな!」

 

 


「あーあ……『ToT作戦』、結局台無し。ま、結果オーライですけど」


「そうそう、結果的に成功よ。でもお菓子がもらえたのは予想外……」


「そうね、だって、大人の私たちがやりたかったのは……」


「『トリックオアトリック』なのですものね……!!うふふ……」


「くすくす……あれ?ポカリスお姉さま、これみて欲しいんですけど」


「おや……?ブランドもののお菓子……なぁにソテツったら、素敵なプレゼント持ってたのに……うふふふ」


「貰っちゃったしぃ、せっかくだからいただきますけどー!!」


「当然ですことー!!うふふふふ!!」

 

 


自宅・ナナクサ道場

 

 


「よ、ヨモ姉!!」


「なんです、藪から棒に」


「そ、その、今はハロウィンじゃないか!」


「それが何か?」


「い、いやー、その……」


「そのような軟派な態度は男らしくありません、ソテツ。男児たるもの、ハッキリもの申しなさい」


「わ、わかったよ、言うさ!と、トリックオアトリート!!」


「……」


「……(あいつらが正しければ、これでヨモ姉も喜んでくれる筈だ!)」


「……は?」


「えっ」


「……大の男が恥も知らず、よりにもよってお菓子などと軟弱極まる物に赤子のごとく駄々をこね、あまつさえ女人に対し従わなければ只では済まさぬと恫喝紛いの不埒な真似を……外道に落ちたかソテツ」


「え、いや、そんなつもりでは、た、ただ……」


「口答えをするな愚弟が!!男であれば女を我が物に出来ると勘違いした鬼畜の性根、我が平手をもって骨の髄から叩き直してくれる!!」


「えぇぇ!?ちがう!!誤解だ!!た、ただ俺はハロウィンの戯れのつもりで……!!は!?も、もしやあいつら……謀ったな!?」


「遊びで人を誑かす者があるか!!尻を出せこの……馬鹿弟子がっ!!」


「い、いたいっ!!いたいっ!!ごめんなさい!!ごめんなさいぃ!!」ベチンベチン

 

 

 

 

「此に懲りたのならば、今一度頭を冷やし反省することです」


「う、うぅ……すみませんでした……」


「そんなつもりではなかった等と、軟弱極まりない言い訳などする前に、己の言葉に責任をもちなさい。自分の立場を弁え、慎んだ行動をとるのです。いいですね?」


「はい……(くそう……喜ぶどころか怒らせたじゃないか……)」


「ではソテツ、お菓子を出しなさい」


「……へ?」


「『お菓子を出せ』と言っているのです。それとも、『先程のように』悪戯をされたいと?」


「そ、そんな、だって先に俺が……あ、あのお菓子もアイツらにあげちゃったし……無いものは無い……」


「……余程悪戯がお気に召したようですね……仕方ありません」


「……ヨモ姉……?」


「お菓子が無いなら尻を出せソテツ!!」ガタッ


「ひ、ひえぇ!いやだあぁぁ!!」ダッ


「逃がさん!!悪戯が欲しいのだろう!?男に二言などあるものか!!」シュバッ


「話が違うじゃないかぁ!誰か助けてえぇぇ!!」

 

 


「(あぁ、ソテツが自分からいじめて欲しがるなんて、全く、とっても姉想いな子なんですから……♥)」


「あ、あいつら!!覚えてろよ!!うわあぁぁ!!」


「待たないか!!この馬鹿弟子がー!!!」

毎日がハロウィン

 起きてから朝一番に向かう場所は、決まってこの大きなエントランス。左右にねじれた階段があり、二階には東と西の別棟につながる通路が二つ。昔はこのお城にも使用人などが多くいたらしい形跡があるにはあり、メルバ様と僕しか食事はとらないのに食器の数はまるでホテル付きレストランのようだった。
 とても冷たい大広間の床に、メルバ様は素足で歩く。もうそろそろ肌寒さがそれどころじゃなくなるこの季節、だというのに薄着のまま歩き回るし冷たいデザートまで美味しそうに食べる。見てるこっちがぶるぶる震えそうになるけれど、外見とはちがってメルバ様の笑顔はいっつもあったかい。メルバ様が居なければきっと、僕もこのお城から逃げ出していたかもしれないくらい。
 
 鬼ちゃんが怖いかどうかで言ったら、正直に答えるとすごく怖かった。闇の中で会った時は有無を言わさず噛みつかれ、そのくせ突然動かなくなっちゃうし、そもそも僕は普通の人間で、今までもできるだけ種族の鬼からは避けて暮らしていた。それは多分僕だけのことじゃなくて、やっぱり鬼は怖いって認識はこの国にはあった。
 でも、そんな鬼ちゃんに逆らわずにお城に来てみると、もっともっと怖い主人が待ち構えていた。目は死んでいるし、髪は血の色のように紅かった。かつて、暴虐の王と言われたガーナ陛下よりも禍々しい、黒ずんだ紅の髪。おまけに、鉄のような匂いも微かにする。血を連想せずにはいられない。
 そんな男爵は、僕を見るなり『感謝する』と言って鬼ちゃんを部屋の奥に連れて行った。その時の鬼ちゃんの顔がとても悔しそうで、いらだちよりも悲しみを感じて、とてもとても心配になった。
 首元の噛み傷を消毒し、包帯を巻いてくれたメルバ様は僕を部屋に案内した。そこはただの客間だったけれど、なんだかずっと住めって言わんばかりに着替えとかシャワーの使い方とか、いくつもいくつも教えてくれた。実際、今までお世話になった宿なんて目じゃないくらい気持ちよくて、情けないほどすやすや寝てしまった
 朝起きると食事まで作ってくださって、唐突に出かける準備をすると言った。宿泊代やご飯のお礼のことを切り出す前に、機嫌の悪そうな鬼ちゃんが僕の首をつかんで、あれをしろ、これをしろって命令してきた。抗議しようにも一泊の恩があるし、振り向けばとっくにメルバ様は出発していたのでもう、どうにでもなれって思って言われるがまま手伝った。
 
 着替えを手伝えって言われたとき、僕は男だし流石にびっくりしたし、駄目だと思ったから断った。けど、食器を片付けに行こうとした僕の後ろで、ばたん、と音がした。見ると、鬼ちゃんが転んでいて、すぐ立ち上がろうとして再度ころんだ。
 僕はきっと、よくわからないけど鬼ちゃんは一人で生活することができない身体なんだって、その時わかった。そしてそれは、本人には聞いてはいけないことだとも思えた。結局、僕は鬼ちゃんの着替えを手伝ったんだけど、恥ずかしいとか、そんなこと言ってられないくらい大変だった。身体が動かないって、こんなにどうしようもないものなんだって、初めて知った。
 
 そして結局、僕はこのお城にずっと留まり続けていて、こうして習慣まで生まれ始めてきている。
 
 今日はハロウィン。普段なら、仮装した子供たちが種族とかも関係なくはしゃいで遊び、町に活気が生まれる日。前までは、僕も子供にお菓子をあげるのが好きで、よくお祭りのお手伝いなんかをしたっけ。でも、今年のハロウィンは残念だけどおあずけだ。独りお城にいる吸血鬼ちゃんと一緒に過ごす、いつもと変わらない一日が待ってる。メルバ様なら『逆に考えましょう』って言って、毎日がハロウィンなんだって力説するかもしれないけれど。
 
 トリックオアトリート。もしも鬼ちゃんにそう言われたら、おやつの僕は血を吸われるのかな。それとも、いたずらされるのかな。どちらにしても、いつもと全くかわらないじゃないか。それなら、やっぱりこのお城は毎日がハロウィンだ。ハロウィンが大好きな僕は、このお城も大好きなのかもしれない。
 
 だから今日も、元気にいたずらされに行こう。